12月11日(1)
「あ、亜紀ちゃん」
私は廊下を歩く亜紀ちゃんを呼び止めた。
呼び止めた?
亜紀ちゃんはスタスタと廊下を進んでいく。その後ろを追いかけるようについて行く。
「亜紀ちゃん」
「………」
早足で廊下を歩いていく亜紀ちゃんに早足でついていく。歩くの早くない!?
「あ、あの!亜紀ちゃん!」
「………」
真後ろから呼んでるのにこんなに無視されることある!?
呼び止めようと必死になっていると私の後ろから声がした。
「亜紀」
亜紀ちゃんの足が止まり、振り返って私の後ろにいる人物に首を傾げる。
「何?ちさき」
「え?何で?何でちさきちゃんの声なら振り向くの!?」
「凪沙が呼んでるぞ」
ちさきちゃんが私に向かってちょいちょいと指を差した。
ちさきちゃんを見ていた亜紀ちゃんの視線が下がって、そばにいる私を見つめた。
「あ、凪沙さん。どうしたんですか?」
「今気づいたの!?ちさきちゃんしか眼中にない!?!?」
「?」
何のことだかわからないって表情をされた。
「ま、まぁ、いいや。ちょっと亜紀ちゃんと2人で話したくて」
亜紀ちゃんがちらっとちさきちゃんの方を見た。
ちさきちゃんは手を振って行ってこいと言った感じで教室の方に戻っていく。
「珍しいですね。2人で話がしたいなんて……」
あまり人がいない廊下の端に2人で並んだ。朝のHR前、登校してくる生徒は続々と教室に入っていく。
「こういう話できる人ってあまりいなくて……」
「仕方なく私ってことですか……」
「そうじゃないよ!?!?あえて言うなら、私の交友関係が狭いせいかな!?」
冗談ですよ。と亜紀ちゃんはクスッと笑ったけど、亜紀ちゃんが言うと冗談に聞こえない……でも、あまり話すタイプの子じゃないけど、亜紀ちゃんって話せば毒舌だったりするよね。
それで?と亜紀ちゃんに促されて本題に入る。
「亜紀ちゃんってちさきちゃんの事が好きなんだよね?」
「そうですね。ラブの方の好きですね」
もう少し戸惑ったり、狼狽えたりするのかと思ったけど案外すんなりと教えてくれた。
「H R前であまり時間がないので、話が早い方がいいかと思いまして」
「え?今、私の心読んだ!?」
「いいえ」
「早い方がいいっていう割には冗談言ってきてたよね!?」
何のことでしょう?みたいなとぼけた表情をされる。
「………話進めるね」
「どうぞ」
「亜紀ちゃんは……どうしてちさきちゃんが好きだって思ったの?」
「………?好きになった理由とかではなく、好きだと気づいた時の事を聞いていますか?」
コクリと頷いた。
亜紀ちゃんは察しが良い。私が言いたいことを汲み取ってくれる。
「気づいたら好きになってたと言うのが正直なところですが、一緒にいて楽しい、ちさきの温もりが安心する、ちさきに触れたい、ずっと一緒にいたい。気づいたらそう思ってました」
「そう思ったら、その人が好きってこと?」
「好きの定義は人それぞれかと……例えば、その人に尽くしたい。その人を幸せにしたい。と思った人が好きな人って言う人もいるかと思います」
「難しいね……」
人それぞれ感じ方が違う好きは私には難しい。
「そうですね。凪沙さんは……涼さんと一緒にいて楽しい?」
「うん」
「涼さんと手を繋いでどうでした?」
「好きだよ。私より大きくて柔らかくて暖かくて」
「涼さんにお弁当作ってきてどうですか?」
「毎日美味しいって言って食べてくれるのが嬉しい」
「涼さんとキスとかしたいって思いますか?」
「………また、してもいいかもね」
「……………また?」
「………………え?あれ??私、涼ちゃんって言ってないよね!?え?何で!?」
「凪沙さん……涼さんとキスしたの?」
「えっ!!!!」
眼鏡の奥の瞳が私を見つめてくる。
言い逃れのできない状況に追い詰められている。実際に廊下の隅までジリジリと亜紀ちゃんに追い詰められていて逃げ出せそうにない。逃げ出したとしても、同じ教室に戻ることになるので逃げられない。
私は観念するしかなさそうだった。
言ったことはもう送信取り消しにはできない。
「…………した」
亜紀ちゃんの表情が驚いたように目が開かれた。
私の前でこんなに表情が変わる亜紀ちゃんは珍しいかもしれない。
「それで2人は付き合ってない?」
「付き合ってない」
「凪沙さんは……凪沙さんが涼さんの事好きかどうかわからなくてこの話をしているんですよね?」
「そうだね。自分の気持ちがわからなくて、亜紀ちゃんに聞いてる」
「私から見たら凪沙さんって相当涼さんのこと好きそうに見えますけど……」
「えっ!?」
今までの会話から私が涼ちゃんを好きと言う結果が出たの!?
「一緒にいて楽しくて、キスもして、手を繋いで嬉しそうに階段から降りて来てたじゃないですか。逆にこれで付き合ってないってどう言う状況なのか私が知りたいくらいです」
「いや、えっと……涼ちゃんは私の事好きってわけじゃないからね?それじゃ、付き合えないよね?片思いになるんだから」
亜紀ちゃんは少し考え込むように自分のコメカミに指を当てて人差し指をグリグリとして、深くため息を吐いた。
「ダブルデート」
「え?」
「涼さんに告白したらいいんじゃないですか?」
「えっ!!??」
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