12月11日(2)

「いやいやいやいやいや!!無理だよ!!だって、私自分の気持ちすらまだわからな――」


「また、“キス“したいって思ったんじゃないんですか?」


「し……したいとは言ってない。してもいいかもって……」


「好きでもない人だったらしてもいいかもなんて言わないですよね?」


亜紀ちゃんのメガネが光に反射した。

廊下の隅に迫られて見つめられ、体も心も追い詰められている。自分の気持ちに迫られている。


「………」




お弁当を美味しそうに食べてくれるところ


球技大会で棄権することになった時そばにいて優しく微笑んで慰めてくれたこと


抱きしめられると落ち込んでいた気持ちが落ち着いた


元彼に無理やりホテルに連れていかれそうになったとき、涼ちゃんが私を見つけてくれた


名前を呼ばれて、涼ちゃんの姿が見えて、すごく嬉しかった


涼ちゃんに思わず飛びついた時、強く抱きしめてくれて一気に安堵感に包まれた


手を繋いだ時の温もりも、頭を撫でてくれる優しい手つきも、優しく微笑んでくれるあの瞳も


キスが気持ちいいなんて初めて知った




全部好きだった




今までの記憶がぐわーと頭の中で駆け巡った。


初めてだったから気づかなかったのかもしれない。この感情は知らなかった。他の人じゃ感じないこの感情が私が涼ちゃんを好きという気持ちなんだろう。


涼ちゃんがしてくれた事、一緒に過ごしてきた日々は私は好きだった。



見事に私は涼ちゃんに恋に落とされていた。



顔を両手で覆った。顔が熱い。

自覚した瞬間、驚くぐらい体が熱くなって鼓動がはやくなった。


指の隙間から亜紀ちゃんを見ると、いつもの無感情な瞳と口元がかすかに微笑んでいるように見える。


「涼さんも凪沙さん同様モテますからね。早めに行動しないと恋人作っちゃうかもしれないですよねぇ」

「そ、そんなこと!……」


ないとは思うけど……だって、涼ちゃんだって私の事を恋に落とそうとしているわけだし、他に好きな人を作ろうなんてしないはずだけど……


恋って気づいたら落ちているって知った今、他に好きな人ができていたなんて事もありえる話で……


「ダブルデートの時に告白したらいいんじゃないですか?」

「で、でも!フラれに行くようなものじゃない?それに告白なんてした事ないし……」


「………(フラれないと思うけど)そうですね。でも、気持ち伝えるのは大事じゃないですか?」

「…………」


涼ちゃんに恋に落ちましたと伝えるべきだろうか。お互いを恋に落とすと約束をしたわけだし、伝えたあとも私が涼ちゃんを恋に落とす事を頑張ればいい話だ。


「まだ時間はありますし、いっぱい考えたらいいと思いますけど……HRまでの時間はあまりないのでそろそろ教室に戻りませんか?」


「うん。ありがとう。相談に乗ってくれて」


「凪沙さんの新たな一面を見れて私も楽しかったです」

「面白がってる!?!?」


2人で教室に戻ろうと廊下の先を見ると、ちょうど涼ちゃんが教室に向かっているのが遠くの方で見えた。


隣には同じバスケ部の人たちだろうか、結ちゃんと他の女生徒の姿もあって楽しそうに笑っている。女生徒がおもむろに涼ちゃんと腕を組んでそのまま教室に入っていった。


「凪沙さん。顔!顔!」

「え?顔?」


「すごいムッとした顔してましたよ?」

「えっ!?そんな顔してないよ!?」


「無自覚ですか?」


そんな表情した覚えなんてない。ちょっとモヤっとしたような気はするけど、表情までは変わるような感じではなかった。


「そんな、さっき自覚した気持ちで私は顔にまで感情はでないよ」


「無自覚」


亜紀ちゃんの眼鏡の奥から冷たい眼差しが飛ばされてきた。

仕返しとばかりに当然の疑問をぶつけてみた。


「亜紀ちゃんはちさきちゃんには告白しないの?」


「………しないですよ」


「何で?」


「幼馴染ですからね。ちさきが今の関係が良いと思ってることくらいわかります」

「でも、気持ちを伝えるのは大事なんでしょ?」


亜紀ちゃんの表情が少し暗くなった。

私は今さっき自分の感情を自覚したけれど、亜紀ちゃんはずっと前からちさきちゃんへの感情を自覚していた。片思いだって長く続いていたはずだ。


「ちさきが好きだから伝えないっていうのもあるんですよ」


「好きだから伝えない?」


亜紀ちゃんが早足になって教室の方に向かっていく。歩くの早いなぁ!!


好きだから伝えないっていうのはどういう事だろう?好きという気持ちを伝えたらダメなの?好きなのに?


私にはまだ好きという感情が難しかった。




B組のクラスの前を通りかかる。

中を覗けば涼ちゃんはまだ女生徒に腕を組まれ談笑していた。


いつまでくっついてる気なんだろう。


あまりにもじっと見つめていたためか涼ちゃんの隣にいた結ちゃんが私に気づいて駆け寄ってきた。


「おはよう凪沙ちゃん!朝から可愛い!!珍しいね。朝からB組に来るなんて!誰かの用事?呼ぼうか??」

「ううん。たまたま通りかかっただけだから大丈夫だよ」


「凪沙!おはよう!」


腕に女生徒をくっつけた涼ちゃんも来た。


「天城さんじゃないですか。おはようございまぁす」


「お、おはよう……」


コアラのようにベッタリと涼ちゃんの腕にしがみつきなが挨拶してくる女生徒に挨拶をしたけれど、表情はちゃんと作れただろうか。


またムッとした表情にならないように気をつけた。



「凪沙ちゃんなんか怒ってる?」

「え?全然怒ってないよ?じゃ、じゃあもうHR始まるから行くね!!またね!」



どうやら表情筋はコントロールできてなかったらしい。ノーコンめ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る