11月22日(4)
「やっぱり一発殴っておけばよかったな」
涼ちゃんは私の話を聞いていたと思ったら、いきなり物騒なこと言い放った。
帰りの電車の中。少々混雑している車内に扉の横に立って乗っている。扉の横についている手すりに寄りかかり、目の前に立つ涼ちゃんに右手を握られている。
「そんなことしたら涼ちゃんが悪くなっちゃうよ」
「正当防衛だよ。凪沙の肩掴んでたでしょ?痛かったんじゃない?大丈夫?」
私の肩を優しく撫でてくる。
確かにあの時は強く掴まれていて痛かったけど、痛みはもう引いている。
一応ちらっとシャツの隙間から肩を見てみる。
「あ………」
「?」
赤くなっていた。痣にはならないとは思うけど結構な力で掴まれていたらしい。
心配そうな表情で見てくる涼ちゃんにシャツをめくって見せてみた。
「赤くなってた」
「ちょっ!!!」
バッと私の方に近づいてキョロキョロと周りを見渡したかと思えば私の耳元に顔を近づけた。
「紐見えてるから!無防備に捲らないで!!」(小声)
「大丈夫だよぉ。ブラ紐くらい」
「…………はぁ〜……天然……」
涼ちゃんはそのままポスンと私の肩におでこを乗せた。
「赤くなってたの?」
「え?うん」
「やっぱり殴っておけばよかった」
私の肩におでこを乗せたまま、また物騒なことを呟いた。
「要ちゃんがお仕置きしてくれるみたいだし、大丈夫だよ」
「それ……」
「ん?」
「要ちゃんって龍皇子さんでしょ?」
ゆっくりと顔を上げた涼ちゃんは私を見つめた。
「そうだよ?」
「知り合いなの?」
「知り合いっていうか、小学校から一緒でお友達だけど?」
「お、幼馴染ってこと?」
「そうだね〜。でも、最初は龍皇子家の事知らなくて、ただ友達になろうって気軽に話しかけちゃったんだよね」
「りゅ、龍皇子家?」
「え、涼ちゃん知らない?あの大きいお屋敷。先祖代々伝わる名家なんだよ龍皇子家って。私も小さい時、そこの娘だって事を知らなくって……友達になろうって話しかけに行っちゃって、そのまま泥だらけになって遊んじゃった」
要ちゃんと遊んだ楽しかった小学校時代を思い出す。
「でも、周りの大人達は龍皇子家に失礼があったら何をされるかわからないからやめなさいって止められちゃったんだけどね」
「それで、今は疎遠なの?」
「疎遠に見える?今でもたまに遊んだりするよ?仲良し」
涼ちゃんは複雑そうな顔をした。
何を考えているのかよくわからないけれど「後で電話しよう……」とか呟いていた。
涼ちゃんも要ちゃんと友達になったのかもしれない。
電車が止まった。
いつの間にか私の家の最寄り駅に到着をして、2人で電車から降りた。
改札を出ていつもの見慣れた風景が広がる中、二つの人影が私たちのところに近づいてきた。
「凪沙!!」
「わわっ!!ちさきちゃん!!」
突然ちさきちゃんが抱きついてきた。
「心配した!大丈夫だった!?ホテルに行ったの!?」
「ちさきちゃん達も知ってたの?ごめんね。心配かけて……涼ちゃん達が助けてくれたから大丈夫だったよ」
「涼さん達?」
ちさきちゃんの後からついてきていた亜紀ちゃんが不思議そうに聞いてきた。
私の家に向かいながら今日あった事を話していった。
「聞いてるだけで腹立つやつだな。一発殴りたい」
「ちさきちゃんまで!?」
「ちさきはコブラツイストかけてて、私がラリアットを相手に入れるから」
「急なプロレス!?ダメだよ!?暴力はダメだからね!?ちゃんと要ちゃんがお仕置きしてくれるみたいだから」
「そのお仕置きってなんなんだろうな?今度龍皇子さんに聞いてみようかな」
私と涼ちゃんが手を繋いで歩く先にちさきちゃんと亜紀ちゃんが歩いている。
2人もすごく心配をしていたみたいで、ずっと私の家の最寄駅で待っていたらしい。
「みんなに心配かけさせちゃってごめんね?」
「凪沙が謝ることじゃないから、悪いのは全部元彼だろ?」
ちさきちゃんが振り返ってきて私の目を見て言った。
「凪沙は悪くない。無理やり連れて行かれたんでしょ?力づくで脅されたんでしょ?」
「………」
「凪沙が無事で本当に良かった。悠木涼もありがとう。私たちは心配することしかできなかったから」
「高坂にも助かったよ。結といた事教えてくれたし」
結ちゃんにも心配をかけてしまったけど、結ちゃんから要ちゃんに連絡がいって要ちゃんが田中くんと連絡を取り合ってくれたから私の居場所がわかったらしい。
要ちゃんがファンクラブの会長だった事も教えてもらった。存在したことも驚きだったけど、まさか会長が要ちゃんだったなんて更に驚いた。でも、そのおかげで私は今無事でいられるんだと思うとファンクラブには感謝しかない。
「じゃあ、みんな気をつけて帰ってね?」
私の家の前まで送ってもらって3人はここからまた駅に戻っていく。
「凪沙も今日はゆっくり休んでね?」
「うん。後で連絡するけど、美月さんにも心配かけてごめんなさいって伝えといて?」
「わかった」
涼ちゃんの手が離れていく。ずっと握ってくれていた手のおかげで安心していられた。
「じゃぁ、また月曜日に」
「バイバイ」
長かった1日がやっと終わりを迎える。
玄関の扉がパタンと閉まった。
「悠木涼………」
「何?」
「ずっと手繋いでたけど付き合い出したのか?」
「……付き合ってないけど……」
「告白しないのか?」
「できないよ。凪沙、まだ私の事好きになってないし」
「そうか?」
「そうだよ」
(ま、時間の問題か)
亜紀は静かに2人の会話に耳を傾けていた。
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