11月22日 Side涼4
ここの角を曲がった先にホテルがあるはずだ。
ホテルの建物らしきものはもう見えている。ここまで走ってきたけどほとんど人は見かけなかった。
もう凪沙はホテル内に入ってしまったかもしれない。
角を曲がった時チラッと人影が見えた。
「凪沙!!!」
誰かも確認せず私は叫んだ。
人影が動きを止めて、男が振り返ってくる。
ホテルの前にいる人に近づいていくと、身長が高い男が女の子の肩を抱いて立っていた。
「涼ちゃん!!」
ホテルの窓から漏れ出る灯りで徐々に男に肩を抱かれている女の子の顔が見えてくる。
凪沙だ。――やっと見つけた。
「凪沙……」
「りょうちゃ―」
「誰?知り合い?」
身長の高い男が口悪く凪沙に問いかけている。凪沙が小さく頷いた。
「悠木涼――」
2人の後ろにはもう1人男が立っていた。顔に見覚えがある。確か、E組の――名前は出てこなかった。
「同じ学校のやつ?」
「そう。同じ学年のB組」
「へぇーー」
身長の高い男が私を上から下まで舐めるように眺めてくる。背中に悪寒が走った。気持ち悪い。
よく見ると身長の高い男にも見覚えがあった。
“BLACK LIST“に載っていた凪沙の元彼だ。顔だけは多少イケてる部類に入りそうなやつ。何かと凪沙を触ろうとしてくる脳みそが〇〇〇についてるようなやつだと龍皇子さんが言っていた。
凪沙の肩を抱いているのを見るのも不愉快になってきた。
「凪沙から手を離して」
「はぁ?」
身長の高い男が睨みつけてきた。
「おいおい。悠木さんさぁ。別に天城さんの友人ってだけでしょ?付き合ってるわけじゃないんでしょ?俺たちこれからホテル行くから邪魔しないでくれる?」
E組の誰かが口の端を上げながら私に詰め寄ってきた。
「あんたたちこそ無理やりホテルなんて犯罪じゃないの?」
「無理やりじゃねぇよ。俺と凪沙付き合ってるから。な?凪沙?」
身長の高い男が凪沙に笑いかけると、凪沙が痛そうに顔を歪めた。
「凪沙に乱暴しないで!」
「何もしてねぇって」
不快だ。
凪沙に気安く触れやがって、別れたんでしょ。元彼でしょあんたは……
「あ、それともあんたも一緒に来る?」
「それいいじゃん。俺結構悠木の事タイプだったんだよね」
「は?」
ここまでイラついたことが人生であっただろうか。10数年生きてきた中で多分1番頭に血が登って知らずに握っていた手を相手の顔面めがけて振りかぶりそうだったのを、口の中を噛み締めて耐え、代わりに凪沙の元彼とE組の誰かを睨みつけた。
E組の誰かが近づいてきて私の腕を掴んだ。
「行こうぜ?楽しいよ?」
「や、やめ――」
「やめて!!涼ちゃんは関係ないでしょ!!」
凪沙が掴まれていた肩を離そうとするが、相手の男の力が強いのか離せずにいた。
私を掴んでくるE組の誰かも力が強い。
「涼ちゃんを離して!!やめてよ!!」
「凪沙の友達だろ?友達と一緒の方が楽しいって」
抵抗している凪沙の手首を掴んで顔のそばで笑顔を浮かべながら話しかけている。
「や…やめて……涼ちゃんは関係ないから……」
目に涙を浮かべながら元彼に訴えかける。
口の端をニヤっと元彼は歪ませた。
「じゃあ、凪沙は来てくれるでしょ?友達は置いていくからさ」
「っ……」
凪沙の顔が恐怖の色に染まっていく。
「凪沙!!ダメ!」
「お前、そこでその女止めておけ」
必死に掴まれている手を離そうとするけど、離れない。
E組の誰かは私よりは身長は高めだが、そこまで体格的に違うように見えない。男の人の力の違いを見せつけられ、掴まれている腕は痛いくらいに握られている。
元彼に手首を掴まれている凪沙が引っ張られるようにしてホテルの入り口に向かっていく。
「凪沙!!離して!!行っちゃダメ!!!なぎさっ!!」
誰かが凪沙の元彼の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
身長の高い元彼を片手で持ち上げられるくらいの大男。黒いスーツがパツパツしているのがわかる太い腕。
「うぐっ……」
持ち上げられている元彼が唸った。
「なんとか間に合いましたわね」
私の背後から最近よく聞く声が聞こえた。
振り返ると龍皇子さんがふぅと息を吐きながら、こっちに向かって歩いてきていた。
その後には同じクラスの田中くんが携帯を握りしめながらついてきている。
「あなたも悠木さんを離しなさい!」
E組の誰かはビクッとしたと思ったら、痛かった腕が解放される。
「龍皇子……なんでいるんだよ……」
龍皇子さんの鋭い瞳がE組の誰かを睨みつけると途端に口を閉じた。
「な、凪沙!!」
「涼ちゃん!!」
元彼から解放された凪沙は私のところに駆け寄ってきて、そのままの勢いでぶつかってきたのを、ギュっと抱きしめた。
「凪沙……よかった……ほんと良かった……」
「ありがとう。涼ちゃん……」
力強くぎゅっと抱きしめて凪沙の無事を、凪沙の存在を目一杯感じる。
力を緩めると凪沙はゆっくりと離れて龍皇子さんと田中くんに振り返った。
「田中くん、助けてくれてありがとう」
「い、いや。僕は何もできなかったので……」
「それでも、助けようとしてくれたのはわかってるよ。本当ありがとう」
凪沙は微笑んでから田中くんに軽く頭を下げた。
「要ちゃんも……助けてくれてありがとう」
龍皇子さんにも軽く頭を下げて優しく微笑んだ。
「凪沙様が無事で本当によかったです」
か、要ちゃん?田中くんが凪沙を助けたの?私は3人を見ながら一体どういう関係ですか!?と問い詰めたい欲求をなんとか耐えた。
いつの間にか元彼とE組の誰かは2人して黒いスーツを着た大男を前に正座をさせられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます