11月22日 Side涼3

「はぁ…はぁ…はぁ……」


ショッピングモールからさほど遠くない距離にあるカラオケボックス。

不安と緊張からか普段ならこの程度の距離でここまで息が上がることはないのに、乱れている呼吸をなんとか落ち着かせようと息を吐き出す。


急ぎたい気持ちを抑えつけて、店内に入店して教えてもらった部屋番号を探していく。

一度も利用したことのないカラオケボックスは部屋の並びなんか分からず一つ一つ確認していく。


「102…103…105……」


部屋から出てきた別のお客とぶつかりそうになりながら、早足で道を進んでいく。


「あ、あった」


廊下の角に教えてもらった部屋番号の札を見つけた。

急いで部屋の前に行きドアを乱暴にノックしてそのままの勢いで扉を開けた。


「え………」


もう一度部屋番号を確認する。

龍皇子さんが教えてくれた番号のそれだった。


部屋には誰もおらずスピーカーからアイドルの曲が流れているだけだった。


部屋から出て急いで携帯を取り出した。すぐに着信履歴から龍皇子さんの番号を引っ張り出しかけた。

廊下を進み曇りガラスになっている扉の隙間から凪沙がいないか確認しながら、部屋を一つ一つ見ていった。


『はい。龍皇子です』

「凪沙がいない!!」


『え?』

「部屋を見たけどもういなかった!!」


焦りからつい声が大きくなって、感情的になってしまう。

ドクンドクンとなる心臓は入店してきた時以上に激しく脈打っている。


『まずいですね。移動したのかもしれません。急いで調べますので少々お待ちを』


すぐに電話は切られた。

待っていられない。だからって当てがあるわけではない。

どうして凪沙は移動した?どこにいった?


携帯を持つ手が自然と凪沙の番号を呼び出していた。

もしかしたら、帰っているかもしれない。一縷の望みをかけて携帯を耳に当てた。


発信音がなる音に耳を傾ける。店の前の端によって空を見ると、もう真っ暗な空はポツポツと星が光っている。

はぁはぁとなかなか整わない呼吸をしながら、いつまで経っても取られない電話音を聞く。


そろそろ留守番電話サービスに繋がりそうな気配がした頃プツッと音が止んだ。


「ん?」


留守番電話サービスに繋がったのかと思ったけど、待っても機械音声のような声は聞こえない。

耳を澄ませば雑音のような外の音が聞こえる。


繋がってる!!


「凪沙!?凪沙!!今どこ!?」

「…………」


数秒待つが返事がない。

「凪沙?」小さく問い掛ければ電話の向こうから物音がした。


嫌な予感が体中を駆け巡った。


「あ、あの……えっと……」


凪沙の声じゃない人の声が聞こえた。


「キミ誰?」


私でも信じられない程冷たく低い声が出た。

なんで凪沙の携帯にかけて凪沙以外の人が取るんだ?お前か?凪沙を連れて行ったやつ。

怒りと不安が両方襲ってきていた。


「と、とめたんです。で、でも、聞いてくれなくて……あの、急いで。早く来て!」


何?どういう状況なのか全く把握できないけど、凪沙に何かあったんだ……


「どこ!?場所!!教えて!!」


「〇〇ホテルに向かってる」


ここら辺の建物の名前なんてほとんどわからないし、ホテルなんて利用したことないんだから場所なんてわからないけど、私は携帯の地図アプリを開いて検索した。


大通り沿いにあるこのカラオケボックスから少し離れた場所にあるらしい。


私は今日何度目かの全速力で駆け出した。


走りながら龍皇子さんに再度電話をかけた。


『はい。りゅうおうj――』

「〇〇ホテル!!」


電話が取られた瞬間叫んだ。


『はい?』

「〇〇ホテルに凪沙向かってるって!!はぁ…はぁ……私も向かってる!」


『その情報どちらから………』

「誰かわからない!……凪沙に電話したら…違う人が出て――」


『そうですか。わかりました。ありがとうございます。私たちもすぐに向かいます』

「わ、わたし…たち?」


電話はすぐに切られてしまった。

そしてすぐ携帯が震えた。画面を見ないで着信を取る。


「はい!」

『悠木涼?凪沙は見つかったの?』


「はぁはぁ……高坂?――凪沙はまだ……はぁ…」

『どこにいるかもわからないの?』


「い、今凪沙がいるらしい所に向かってる……はぁ…」

『悠木涼今どこにいるの?』


「ショッピングモールの……ところ…から少し離れた〇〇ホテル!!はぁ……はぁ…」

『ちょっ!!ホテル!?ちょっと!どういうこと!?凪沙は!?』


走りながら話しているといつも以上に息が上がってきた。走ってるの気づかないのか高坂は!

こんなに息を切らしながら話してるのにこれ以上話してる余裕はない。とにかく急ぎたい。


「高坂!今急いでるから!!」

『――――!!』


何か叫んでいるのはなんとなくわかったけど、切った。

高坂だって心配しているのはわかっている。


でも、なんとしてもホテルに入る前には凪沙を見つけたかった。

ホテルに入ってしまうと、カラオケ以上に見つけにくい。部屋に鍵をかけられてしまったら終わりだ。


足を更に早める。


せっかく誰かわからないけど、凪沙の居場所を教えてくれたんだ。信用してもいいかもわからない人物を信じて全力で走って、もし罠だったりしたら……


いや、凪沙を守るって誓ったんだろ!罠でもなんでも凪沙を絶対守るって!



引き攣りそうな足を無理やり前に出して、ホテルに向かって走った。



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