第9話 月夜と赦免
アルバ兵の巡回に警戒が近かったため、カルミア達は帰還を諦めてから時間を置いて出ようとすることで話が着いた。
更けていく月明かりの照らす夜空の下、洞窟のある丘の上にロベニアが片膝をついて姿勢を低くして見渡す。だが、何度か後ろを振り向きかけるがやっぱりやめる。
しかし、とうとう後ろを向いてしゃべりかけてしまう。
「過分なためらい関心しないな。話したいことがあるなら来たらどうだ?」
姿が見えない木の陰に隠れていたカルミアが姿を現してロベニアの隣へとやって来る。
「分かっていたんですね」
「隠すつもりもないのならな」
ロベニアの視線は周りを向いたままだ。その横にカルミアは立つ。
「私が刺さないと思ったんですね」
「……」
「ハイゼルさんは寝ています。ここには私だけ来ました」
「……ああ」
その声は努めて冷静に、優しくもないが冷たくもない。
「教えてください。グレンヴェーゼ伯は最後にどのようなことを?」
「私は、あの時。グレインヴェーゼ伯に感謝されたんだ」
「感謝?」
「さっきみた人間由来の龍結晶を作り出す試作装置。グレインヴェーゼ伯の城砦の地下室で行われていた実験場に私は乗り込んだんだ」
「そんな……おじい様が?」
「あなたが知らないのは無理はない。地下室の入り口は本館から離れていたからな。生活空間とは切り離されていた」
「それが本当だとして……おじい様が、おぞましいことをしたのはなぜ」
「貴族連合の命令だろう。恐らく公爵レベルか、または【四外征】か」
「四外征?」
「かつて王権がアルビオン島から追い出した有力貴族達だ。名目はイングリウム王国の植民地の拡大。彼らは船に乗り各地に根を下ろして100年近くの時を経て入植と拡大を繰り返し。現地人を屈服させ、そこから算出する富と資源はイングリウム本国の繁栄を支え、超えようとしている。その抱える軍団の数もだ」
「……それで、なぜ感謝を?」
「グレインヴェーゼ伯は、おそらくこの実験に乗り気ではなかった。だが、これしか街を維持する方法がなかったのだろう」
「カーライルの街は龍剣士と龍結晶を繋ぐ装具の名産地で産業もあります」
「それだけで街を維持する収入を確保するのは難しい。昔はあふれるほど居たであろう龍剣士は、今では数を減らしてしまった」
「……」
「とにかく。グレインヴェーゼ伯は実験を強要されたが、私が彼を切ったことで貴族連合から恨みを買わずに済んだ……っと思っている。ただ、装置から漏れ出たエネルギーが流出と爆発を起こすまでは予想出来なかったんだ」
カルミアはロベニアの声色から漏れ出る苦しさを聞き逃さなかった。それでも何も言わなかった。
「カルミア・グレインヴェーゼ」
「はい」
「あなたが城砦の前で倒れていた時。感づいていたはずだ。私がカーライルを焼いたと」
「……ええ」
「ではなぜ。あの時、私にかわいそうだと言ったんだ?」
「ロベニアさん。あなたの展開していた龍結晶のエネルギー。私はそれから悲しみと怒りを感じたんです」
「……やはり」
「当然です。祖父はきっと結晶にされた人達からすれば怒りを買うのに十分。私もきっと、その中の一人だったのでしょう」
グッと両手を胸の前で握ったカルミアは吐息を吐く。
「もしも、おじい様が本意で悪行に手を貸していたのなら、私はおじい様自身が教えてくれた言いつけ通りに彼を切っていたかもしれません。でも、本意でなければそれを果たせたかどうか分からない」
「……私の推測でしかない」
「それでも、ありがとうございます。私はあなたの言ったことを信じますし、」
あなたを許します。
―――
木陰から覗くハイゼルはネクタイを締め直して月明かりを頼りに洞窟へと戻っていく。
洞窟の中で仰向けで寝ているアプリコットの周りには子供達とアリーシャが身を寄せ合って眠っていた。
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