龍剣士カルミア・グレインヴェーゼ

雑魚亡者

プロローグ

第1話 深紅の空



 街から離れた小さな集落で、病気の子供を診ていた後。通り道の森で怪我をした魔物を手当てしていたら、すっかり空は暗くなりつつあって。


 その間にずっと遅くなった言い訳を考えた。だけど、周りは暗くなっているのにどうして空は明るいのだろう。


 街が、燃えているのはなぜだろう?


 中心の城砦から放たれた炎が街へと伝って、大火はやがて嵐を呼んで。


 何も考えず飛び込んだ。おじい様は無事なのだろうか。城砦の主だから、きっと皆が運び出したに違いないだろうけど、いくらすれ違う人達の中を探しても見つからない。


 変わり続ける通りを進みながら、肌に触れる熱気が容赦なく進む意思を折ろうとする。もう危ないから逃げよう。そんなことを何度も頭によぎっても振り切った。


 城砦の鉄格子の門に手をかけると、刺されたような痛みと共に、手のひらから肉が焼けた時と同じ音がする。


 それでも。門に思いっきり体重をかけると、ゆっくりと開かれる。


 ……。


 轟音とともに体が制御出来なくなった。身動きが取れずにいつの間にか地面に転がった体。


 爆発が起きたと気づいた時には、節々から痛みが走り、石と砂利の中でもがきながら、もう体が言う事を効かない事実を受け入れるしかない。


 すぐ近くの熱気が私を飲み込もうと、その欠片を吹きかけていやおうなしに体を焦がす。


「……」


 いつの間にか私を見下ろしていた人が居た。


 灰色の髪と鎧に身を包んだ女の人。剣には龍の顎を召喚している。こんな立派にまとわせているなんて、きっと立派な龍剣士様に違いない。


 ……だけど、彼女は血にまみれていた。私を睨みながら口が開く。


「私達は、お前達を許さない」


 持った大剣をあげると切っ先を私の頭の直上に向ける。


 その人は笑っていた。


 その人は泣いていた。


 顕現する龍を作り出す龍結晶そのものから、憤怒と悲嘆を感じたかもしれない。


「どうした? 何か言ったらどうだ」


「……」


 ああ、そうなんだ。


「かわいそうに……」


「なに?」


 それ以上は何も言えなかった。もう意識がこれ以上落ちるのを止められなかったから。

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