第7話:はじめてのポケモンゲット

通信交換が解禁される条件が「ポケモン図鑑の入手」であったからには、野生ポケモンの捕獲が解禁されるのも同じなのだろう。ショップで買い物ができるようになり、モンスターボールが買えるようになっていたので、全財産の約1/3をはたいて5個ほど買ってみることにする。


図鑑で生息地のデータを確認する限り、ポッポやコラッタはかなり広範囲に出てくることがわかる。トキワの森に出てくる虫ポケモンも範囲こそ狭いが他のエリアにも出現するので、どうせなら先に進んでからレベルの高いものを捕まえたほうが良さそうだ。普通の戦闘ではお金がもらえないのでボールも貴重品。そんなことを考えているうちに森を抜けて、ニビシティにある最初のジムまでヒトカゲ1匹だけで来てしまった。


ジムリーダーのタケシの使う岩ポケモンに対しては、ノーマル技も炎技も「いま一つ」で軽減される。それでも最初のイシツブテはどうにかなったが、次のイワークの「我慢」が強烈。溜め技のようなので、ダメージを食らう前に他の味方に入れ替えて受け流せば簡単に勝てそうなのだが。


全滅するとお金が半分になる。ドラクエなどと同じだが、お金を稼ぐ手段が限られている(現状では一度しか戦えないトレーナー戦のみ?)ので重みは段違い。幸い、移動中ならどこでもセーブできるようなのでリセットすれば済む。とりあえず、町を探索して様子見するか。


*


町の中で、ひときわ目を引いたのは博物館である。いずれ仲間にできるのであろう太古のポケモンの化石、今後の物語の展開を予感させる宇宙船の模型などがあり、なけなしの50円を払っただけの価値がある。より直接的な攻略情報として「トキワの森にピカチュウがいる」こともわかった。


そういえばファミコンの『桃太郎伝説』では、稲妻の術で障害物の岩を砕いたっけ。ポケモンでも硬い岩には雷が有効に違いない。雷の使い手であるピカチュウを仲間に加えて、強敵の岩ポケモンに立ち向かえというヒントだろう。


さっそくトキワの森に引き返す。しかし今のレベル14のヒトカゲでは、せっかくピカチュウが出てきても一撃で倒してしまうだろう。ここで「ピカチュウを弱らせるためのポケモン」が必要になることに気づいた。なるほど、よくできている。ポケモンの役割は必ずしも戦闘だけではないということだ。


まるで開発者の見えない手に誘導されるように、僕は適当にポッポかコラッタを捕まえることにした。弱らせる余裕がないのは同じだが、ノーダメージでも捕獲自体は可能ということはチュートリアルで判明している。草むらの中でセーブしてから出てきたポケモンにボールを投げ、駄目ならリセットだ。結果としてレベル3のコラッタを捕まえた。


*


「よし、ピカチュウゲット!」


じっくり草むらを歩き回っていたら、それほど時間をかけずにピカチュウが出てきた。コラッタに入れ替えて半分ほど削り、ボール2個で捕獲成功。記念に画面を写真に撮って、LINEの友達グループに流す。


「あ、ポケモンだ! 初代?」

「いや、カラーだから金銀じゃね?」

「周りの絵は初期型のゲームボーイじゃ無理っぽいな。アドバンス?」


ゲーム好きのソウタ、ゲームというよりレトロな作品全般に詳しいハルキ、理科が得意で技術的な知識のあるソラから、次々に返事が来る。最初のソウタが正解だが、2人の推理もなかなかだ。


「これ、わかる?」

今度は少し引いて、本体ごと写真を撮って送る。


「スーファミにもポケモンってあんの?」

「互換機みたいなやつ?」

「そうか、スーパーゲームボーイか!」


今度はソラが正解した。


「携帯機でもテレビでも同じゲームで遊べるって、今のSwitchと同じなんだな」


*


ソウタの一言で盛り上がっているのを尻目に、今度は個人トークの画面を開いて写真を送る。日々木ひびきフミさん。クラスメイトのレトロゲーム仲間で、2ヶ月近く前に「告白」した彼女でもある。いままではスマホを持っていなかったが、夏休みに入る前に買ってもらったということで、昨日IDを交換したばかりだ。


「かわいい! ポケモン緑、始めたんだ」


さすが、フレームを見て一発で緑版であると言い当てた。少し前に、学校の図書室にあった「ポケモンをつくった男」こと田尻智たじりさとしさんの伝記漫画を一緒に読んで、ポケモンに興味を持っていたのだ。


「うん、いとこの家だけどね。ゲームボーイは父さんのお下がりをもらった」

「私もやってみたいけど、どうしようかな……」


フミさんの家にはゲームボーイもスーパーファミコンもないので、夏になんとかしてプレイ環境を揃えるのが目標だと言っていた。


64ロクヨンのポケモンスタジアムって知ってる? それを使ってもゲームボーイのポケモンができるんだって」


64とはニンテンドー64のことで、スーパーファミコンの次の世代のゲーム機だ。それ自体は知っていたが、ゲームボーイ版と関連があるというのはノーチェックだった。


「ん? 64版のポケモンってこと?」

「それもあるんだけど、64の画面でゲームボーイのポケモンをプレイしたり、データを管理できたりするみたい」

「そうなの? 通信ケーブルはゲームボーイ同士でしか繋げないって、伯父さんも言ってたんだけど」


混乱する僕に、フミさんは丁寧に説明してくれた。ケーブルではなく「64GBパック」というオプションを使えば、64ソフトとゲームボーイソフトを接続できるようだ。ゲームボーイ版で育てたポケモンを使って64ソフトの中でバトルをしたり、あるいはポケモンやアイテムなどのデータを管理する機能もあるという。


「……なにそれ、すごくない?」

「すごいでしょ!」


おそらく、父ならもっと詳しく知っているはずだ。後で聞いてみたいところだが、今はまず目の前の課題を片付けることから考えよう。トキワの森での戦闘でピカチュウのレベルも上がったので、ニビジムリーダーのタケシにリベンジマッチだ。


***


注:


「捕獲のチュートリアル」


ここではトキワシティの酔っ払いの「おじいさん」による、自動操作でビードルを捕まえるデモのことを指している。


*


「田尻智の伝記漫画」


小学館から発行された『学習まんがスペシャル 田尻智』のこと。

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