第8話:全力でタイプを覚えるんだ
このゲームには、通常の攻撃と「特殊攻撃」がある。少なくとも説明書のパラメータ解説にはそう書いてあった。例えばトランセルなどのサナギポケモンが、いくら「硬くなる」を使って防御力を上げても、火の粉や電気ショックといった属性攻撃のダメージは減らせない。通常攻撃のダメージが「攻撃」と「防御」のパラメータで決まるのに対し、特殊攻撃は「特殊」のパラメータが攻防ともに影響しているからだ。
そういうわけで、レベル3で捕まえたピカチュウはトキワの森のサナギたちを効率的に倒していき、あっという間にレベル8になった。試しにジムに挑んでみてもいいだろう。タケシの使う岩ポケモンもまた、「特殊」より「防御」に偏った耐久力のはずなので、特殊攻撃の電気ショックはよく通るはずだ。
しかし、予想に反して画面に出てきたメッセージは「効果がないみたいだ」。文字通り、ダメージを全く与えられない。単純に攻撃が外れたのか、それとも何か条件があるのか。何度やっても結果は同じだった。
*
「あ、もうタケシかな……何やってんの?」
僕がテレビの前で困惑していると、さっきまでお昼寝していた従妹のミユキちゃんが目を覚まし、画面を見ながらそう言った。
「イシツブテに電気ショックが当たらないんだけど、なんでだろ?」
「当たり前でしょ、地面タイプなんだから」
すっかりあきれた口調で言われてしまった。
「え、岩に電気は効かないの?」
「ちーがーう! 電気が効かないのは地面。イシツブテは岩と地面の両方持ってるけどね」
「ちょっと待った、岩と地面って別物なの?」
「はぁ~……」
僕が疑問を口にすると、心底あきれたといった感じでため息を吐かれてしまった。どうやら、想像以上にタイプ分類は細かいらしい。
「そもそも、タイプって何種類あるの?」
「ノーマル・格闘・毒・地面・飛行・虫・岩・ゴースト・鋼・炎・水・電気・草・氷・エスパー・ドラゴン・悪・フェアリー……18種類!」
僕の質問に対し、何かの歌のような抑揚を付けながらタイプを暗唱し、指折り数えていった。
「そ、そんなに……?!」
「初代だともっと少ないかもね。でも今のところ10種類以上は出てきたと思う」
僕は目の前が真っ暗になった。これらのタイプとその相性関係を覚えられるのだろうか。
「私も最初は覚えられなかったから。頑張れ、未来のチャンピオン!」
結局、タケシのポケモンはヒトカゲで倒した。我慢のダメージをコラッタに受けてもらって、あとは傷薬を1個使って回復すれば危なげなく勝利。ピカチュウは今のところ役に立たなかったが、電気タイプという時点で出番はきっとあるはずだ。
クリア後に我慢の技マシンを受け取り、同時にからくりを教えてもらった。単なる溜め技ではなく、受けたダメージを倍返しするようだ。どちらかといえば防御的なポケモン向きの技であり、ヒトカゲやピカチュウには不向きだと判断してとりあえず預けておくことにした。
このゲームには「装備品」という概念がなく、代わりにこのような「技マシン」が数十種類も存在し、それを使ってポケモンの「武器」とも言える「技」をカスタマイズしていくことになるようだ。マシンは基本的に使い捨てかつ貴重品のようなので慎重に使いたい。伯父がアイテム枠について注意していたのも、きっとこの技マシンが枠を占領するためだろう。
ポケモンや技の使い分けなど、ゲームの基本がわかってきた。ここからが本番だろう。僕はパッケージに同封されていた地図を開き、次の目的地であるお月見山を目指すことにした。
***
注:
「通常の攻撃」
ゲーム内では当時から「物理攻撃」という用語が使われているのだが(例:リフレクター使用時)、この時点において主人公は説明書からのみ情報を得ているため、このような表現にした。
*
「何かの歌のような抑揚を付けて」
ミユキは、アニメシリーズ『サン・ムーン』のエンディングテーマであった岡崎体育の『ポーズ』でポケモンのタイプを覚えたという設定。
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