第6話:夢と冒険と思い出の世界へ
「主人公はタケル、ライバルは……マサキだとゲーム内のキャラと被るんだよな。ソウタでいいか」
従妹のミユキちゃんがお昼寝している横で、僕は本日5度目の「最初からはじめる」を選択し、ライバルに幼馴染の名前を付けた。交換用の仮プレイではなく、ようやく本プレイである。
今回は急ぎではないので、あちこちを調べたり人に話しかけたりしてじっくりプレイする。家のパソコンでアイテムの出し入れが可能(最初から傷薬が1個入っている)で、この世界ではパソコン通信を使った物質転送が可能であるらしいことがわかる。大量のポケモンを仲間にできるのもこの技術があってこそのようだ。
ライバルとの最初の戦いは、実は負けても進行することがわかっているのだが勝てば経験値がもらえるし、パソコンから引き出した傷薬を使えば割と安定して勝利することができる。最初の攻略らしいポイントといったところだろうか。
*
「お、ポケモン始めたな」
ちょうど、オーキド博士に荷物を届けてポケモン図鑑を受け取ったところで伯父が部屋に入ってきた。
「うん、ようやくまともにスタートしたとこ」
僕は返事をしながら、ライバルの家に向かっていた。姉からタウンマップをもらうためだ。
「あ、タウンマップはもらわないほうがいいかもな」
「なんで?」
「アイテムを持てる数には限りがあるんだ。重要扱いだから捨てることもできないし」
伯父が言うには、手持ちだけでなくパソコンに預けられるアイテムの数にも限りがあるので、不必要なアイテムは最初から入手しないのが良いらしい。考えてみれば、今までプレイしたRPGではそのような悩みとは無縁だった。しかし200匹以上ものポケモンを仲間にできるとなると、アイテムの数も膨大なのだろう。
「……ほんとだ、全然役に立たないっぽい」
とりあえずセーブして、タウンマップがどんなものかだけ見てみることにしたのだが、これが役に立つ場面があるとは思えない。地形が見えないので役立たずだったMOTHERの地図でも現在座標だけは正確に表示されたのだが、この地図はそれすらない。同じエリアであればどこにいても、地図上では同じ位置に表示される。
「な、言ったとおりだろ」
「そういえば、伯父さんもポケモンやってたの?」
「ああ、出てきたばっかりのころは相手にしてなかったんだけど、ユウキとカナエがやってて面白そうだったからな」
まずユウキ、つまり僕の父が赤版を買い、続いてカナエ叔母さんが緑版を買ってもらった。そして後に通販限定で発売された青版をダイスケ伯父さんが買ったという。
「伯父さんが買ったのは赤緑の発売から1年近く経ってからだけど、売上はむしろ伸びていたはずだ」
当時のRPGとしては極めて異例な売れ方をしたゲームだと、前に父からも聞かされている。1996年に発売し、翌年以降のアニメ化や映画化の波に乗り、続編である『金銀』が出るまでヒットチャートにランクインしていたという話だ。
「アニメで放送事故があってな。あれでブームもおしまいだなんて言われてたのに、今や世界的コンテンツだもんなぁ。8月には横浜で世界大会があるんだろ?」
「テレビを見るときは部屋を明るくして離れて見てください」
アニメの冒頭でこの注意が出るようになったきっかけがポケモンだったと聞かされたときは驚いた。全国で数百人が病院送りになるという、世界的にも異常な事件だったようだ。逆に言えば、それだけアニメを多くの人が見ていたほどのブームだったということである。
「ちょうどユウキくらいの世代にとって、ポケモンは初めて自分たちが中心になって育ててきたブームみたいなもんだからな。今はゲームやアニメからは離れていても思い入れは強いと思うぞ」
僕が幼稚園に上がるか上がらないか頃の古い記憶で、家のリビングのテレビで昔のポケモンのアニメを見ていたことがある。おそらくネット配信だったと思うのだが、僕をあやすためという名目で、実は両親たち自身が楽しむために見ていたんだろうと今では思う。
そんな父と母たちが夢中になった「夢と冒険とポケットモンスターの世界」へ、僕も足を踏み入れようとしている。
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