第5話:スタート前には恒例の行事
「とりあえず、これだけあればいいかな」
「スーパーゲームボーイ、使う?」
「いいの?」
「うん。タケル君がどうプレイするのか見てみたいからね」
そう言って電源を落とし、カセットを入れ替える。僕が借りることになっている緑版だ。
「あ、父さんのデータか」
続きからを選ぶと「ユウキ」の名前が目に入った。最初からやり直す前に、ちょっと見てみることにする。
「お、こっちもコイキングだらけだ」
「多分、他のデータに大事なポケモンを移し終わった後じゃない?」
念のためパソコンの中も確認してみたが、やはりコイキングや、レベルの低いポッポやコラッタといった、ミユキちゃんに言わせれば「どこにでもいるポケモン」ばかりだった。
「大事なデータは青とピカチュウ版に移したみたいだし、消しちゃっていいと思うよ」
「そうだね」
「あ、リセットはこうするの」
僕がスーファミ本体のリセットボタンに手を伸ばそうとしたら、コントローラを取られた。
「A・B・スタート・セレクトの同時押し。これ、ほとんどのゲームボーイソフトで使えるから、やってみて!」
「……ほんとだ、ちゃんとリセットできた」
改めて、ゲームを最初からスタートする。まずは博士がこの世界におけるポケモンがどういう位置づけなのかを説明してくれる。僕は最近のアニメしか知らないのだが、だいたいイメージ通りだと思った。
「どうせすぐやり直すから、名前はデフォでいいか。……博士の孫の名前も決めるの?」
「うん、ライバルになるの。お兄ちゃんはタケル君の名前にしてたよ」
ライバルの名前候補には、アニメで馴染み深い「サトシ」もあった。きっと、赤版では主人公の名前候補として出てくるのだろう。
*
「確か、最初はポケモン持ってないんだよね」
先ほど、説明書を読んでいたので状況はわかっている。同じ町の中にあるオーキド博士の研究所が目的地のはずだ。探すまでもなく見つかったが、中に入っても肝心の博士は不在。
他に行くところもないので、ひとまず町の外に出てみようとしたら、呼び止められてイベント発生。なるほど、ここでポケモンをもらうというわけか。
「マサキ君が持ってるのはフシギダネの進化系だよね?」
「うん、だからヒトカゲかゼニガメをもらってね」
「ヒトカゲって、リザードンに進化するやつでしょ」
さすがにリザードンくらいは知っている。赤版のパッケージに描かれているから、てっきり赤版限定のポケモンなのかと思っていたが、そういうわけではない模様。同様に、フシギダネが進化すると緑版パッケージのポケモンになるようだが、こちらもバージョン問わず選べるようだ。
「お、すんなりもらえた。……ニックネームって何?」
「名前を付けられるってことね。ただし、人からもらったら変えられなくなっちゃう」
「つまり、名前を付けられるのは最初に捕まえたプレイヤーだけってことか。とりあえずそのままでいいかな」
ポケモンのステータスには「おや」の名前とIDナンバーがあった。マサキ君に聞いてみたところ、捕まえたプレイヤーのデータがポケモンに記録されるのだという。通信交換を前提にした、面白いシステムだと思った。
「交換するにはどうするんだっけ」
「ポケモンセンターに行かないとできないよ。道をまっすぐ進んだトキワシティに行かなきゃ」
「わかった。とりあえず進めるか」
ライバルとの初対決。この段階では基本攻撃の「ひっかく」と、能力ダウンの「なきごえ」しか使えない。適当に攻撃していたらぎりぎりで勝った。攻撃がうまく「急所に当たった(最初はびっくりしたが、どうやらクリティカルヒットのことらしい)」おかげだ。
*
「ここ? 今は準備中で使えないみたいだけど」
「あれ、ほんとだ。なんでかな?……おかーさーん!」
道中の野生ポケモンから逃げ続けてトキワシティまでたどり着いたが、肝心の通信ケーブルクラブは使えなかった。
「はいはい、どうしたの。……交換するなら図鑑もらわないと駄目ね。トキワシティにいるなら確か、お届け物を……そうそう、お店に入ると受け取れるんだったわ」
伯母さんのアドバイスで無事にオーキド博士のお使いを済ませ、ポケモン図鑑を入手。これで通信ケーブルクラブが使えるようになった。
「これで準備できたかな。スーパーゲームボーイにはケーブル端子は無いみたいだから入れ替えなきゃ駄目か」
電源を切るためにセーブする。この時点でのプレイ時間は12分。次からは手順がわかっているのでもっと短縮できるだろう。ゲームボーイ本体にカセットを差し込み、ケーブルを繋いで電源を入れる。
「私も通信交換って初めて。ゲームの中のキャラとはやったことあるんだけど」
聞けば、ゲームの中にもポケモン交換を持ちかけてくる人がいるようだ。「おしょう」という名前が付いたカモネギというポケモンはそこで手に入れたという。
というわけで、さっそく「トレードセンター」を選ぶと通信ルームに飛ばされた。同じ画面にプレイヤーキャラが2人いるのが面白い。お互い、台に向かい合うと通信開始。提供するポケモンを1匹ずつ選んで、両者が納得すれば交換成立のようだ。
ケーブルの中をポケモンが移動していく演出が面白い。まるで、生き物がケーブルの中を行き交っているようだ。スマホのデータ転送などと違って「コピー」ではないので、ポケモンは送り元からはいなくなってしまう。ゲーム内容を考えれば当然なのだが、ちょっと不思議な気分だ。
*
こうして、30分ほどかけて計4匹のポケモンをマサキ君のデータへと送り込んだ。内訳はヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメ2匹だ。
「タケル君、ヒトカゲ選ぶんだね」
「うん。一番なじみがあるというか、他のはよく知らないからなぁ」
つまり、フシギダネとゼニガメをゲーム開始後に交換で受け取るというわけだ。ポケモン図鑑によると「尻尾の炎が消えたときに命も終わる」という、意外とシビアな設定を背負った相棒との冒険が始まろうとしている。
***
注:
通信交換の制約
ゲームボーイの頃のポケモンは、手持ちが1匹のみでも通信交換が可能である。
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