第3話:通信ケーブルと反射型液晶
「ゲームボーイ出てきたぞ! 2つあるから片方はタケルが持ってろ。もとはお前の親父のやつだからな」
緑版をやろうとしたのだが、本体がスーパーゲームボーイ1つしかないからどうしようかと思っていたところ、伯父が物置から引っ張り出してきてくれた。
「ほら、通信ケーブルもあるぞ」
「へえ、この頃のUSBってこんな形だったんだ」
「いや、USBとは違う。これは任天堂のゲームボーイ専用の規格だ」
伯父は次に、本体後部の電池カバーを開いた。
「USBじゃないから充電もできない。電池を入れなきゃな」
「乾電池で動くんだ。……どっちも単三が2本か」
「ああ、タケルんちにもエネループはあったよな? とりあえず今は普通の乾電池を使うか」
さっそく伯父は新品のアルカリ電池を入れて動作確認をした。どちらも問題なく起動できるようだ。
「下手な充電池だと20年も保たないぞ。この点では乾電池式のほうが有利と言えるな」
祖父母が子供の頃のおもちゃですら、今と同じ乾電池で動く。何十年も前から世界中で使われている規格であり、今後も使われていくのだろう。
「通信ケーブルはあくまでも通信のためのケーブルなんだ」
「例えば、これとスーファミを繋げたりするの?」
「いや、それも違うな。あくまでも繋げるのはゲームボーイ同士だ」
例えばスマホとパソコンを繋げるように、これを使って携帯機と据え置き機を繋いだりするのかと思いきや、ゲームボーイ同士を接続するためだけのケーブルであるらしい。USBなどのデータ通信用ケーブルは見慣れているが、両端の端子が同じ形をしたケーブルというのは初めて見たような気がする。
*
「ところで、ライトとカラーってどう違うのかな」
伯父が持ってきてくれた本体は、それぞれ「LIGHT」「COLOR」と書いてある。バリエーション違いのようだ。
「ああ、文字通りライトはバックライト付きで、カラーはカラー表示できるんだ」
「ん、カラーのほうにはライトは付いてないの?」
「そういうわけだ。ま、ちょっと見てみろ」
伯父は『スーパーマリオランド』が刺さったゲームボーイカラーを僕に渡してくる。電源が切れているのに画面は白いのがちょっと不思議だ。
「ほら、ここがスイッチだ」
「なるほどね、全然明るくならない」
音楽とともに、白い画面の上にそのまま文字が浮かび上がる。スマホのように黒い画面が明るくなるわけではないので、なんだか新鮮だ。
「最初は暗いと思うかも知れないけど、これは反射型液晶といってな。外の光を反射するから明るいところでは見やすいぞ」
「例えば、今のスマホは違うの?」
「ああ、それは透過型液晶といって、画面の下から光を通して見せているんだ。試しに比べてみろ」
伯父に言われて、僕はスマホを取り出す。ゲームボーイカラーと比べると全く違うタイプの液晶であることがよくわかる。
「スマホだとバックライトを弱めると明るいところではほとんど見えなくなるけど、ゲームボーイは違うだろ」
「……ほんとだ。明るいとこのほうが見やすい」
僕はゲームを操作する。それは、暗い画面の向こうから来る「光」ではなく、明るい画面に浮かび上がる「色」をボタンで動かすという、今までにない不思議な体験だった。
**
「伯父さん、カラーのほうもらっていい?」
「そっちでいいのか。ライトのほうが便利かと思ったんだけどな」
「うん。この画面、なんか気に入ったから」
ライトも試してみたが、僕が魅力を感じたのはカラーのほうだった。まっさらな画面に浮かび上がる光を持たない色彩が、夏の日差しに照らされて電子空間を踊る。それは、まるで魔法の本のようであった。
***
『通信ケーブル』
ここではゲームボーイポケット以降の端子に対応した新型のものである(旧型だと変換コネクタが2つ必要になるし)。よりUSBに似ているのは初期型のほう(Type-A端子っぽい)なのだが、今ではUSB端子の形状も様々なので、後期版でもバリエーションの一種のように見えるはずだ。
*
『エネループ』
ゲームボーイ系で使用が想定されているアルカリ電池より電圧が低いのでメーカー非推奨。連続稼働時間も短くなるのだが、プレイ自体は問題なくできる。
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