魔王より、残党へ

(Ⅳ)

そういうとこだぞ

 君たちは、私を魔族としての誇りを捨てた酷い裏切り者だと罵っているだろう。それは当然の行為であるし、それを咎めるつもりはない。ただ、君たちが無知であるだけなのだ。


 もちろん、私が幼い少女だから目の前の恐怖に屈したわけでもない。


 彼らは、私が空に向けて放った魔法のせいで事故が発生したという理由で私を裁判にかけた。ひどい話だ。人間が多少死んだだけなようなのに。


 君たちのほとんどは、実際に彼らとの戦闘を行っていない本国から離れた土地の守護者のはずだ。そう決めつけられるのは何故か、それは簡単な話で、本国での戦闘を見たものは、誰一人としてあれに勝てるなどという思い上がりはできないからだ。


 空からの侵入者がいるという連絡が入り、すぐに対空戦闘が行われた。私は正直期待していた。空からの侵入者というのは、建国以来一度もなかったからだ。それでも我々の軍は非常に勇ましく戦ってくれた。なぜかと聞くと、その場に私という魔法を極めた存在、すなわち魔王がいたからだと答えてくれた。嬉しい限りだったよ。私の魔法は、島を丸ごと吹き飛ばし、山に穴を開けられる。他に誰もこんなことを出来る奴がいないから、私の国では防御魔法の開発者が少ないという問題があったな。今となっては心底どうでもいいことだ。彼らにとって魔法などは面白さで鼠に勝てないようだからな。


 空からやってきたものは、奇怪な金属の塊だった。紡錘状で、一切の継ぎ目がなく、飛行魔法でも揚力でもない方法で空を飛んでいた。


 この時、私は好都合だと思ってしまっていたんだ。あいつを落としてばらせば、新たな技術が手に入ると。そんなくだらない思い上がりを。それはそれは私は舞い上がっていた。呪文の詠唱が楽しかった。今となってはあの時の滑稽で仕方ない。

 

 私は試しに、魔法の中では中ぐらいの威力のものを撃ってみた。勿論損傷はない。それどころか、慌てるように撃った山を消すほどの最高の魔法すら効いてはいなかった。私は啞然としたんだ。あれが自分の所へ降りてきたら、それに潰されて私は死ぬんだろうと怯えていた。相手が人間だというのに。


 あれに捕まっても、四肢をゆっくりともがれて、繫殖実験に使われるんじゃないかとか、脳を開かれて生きたままいじくられるのではとか。くだらない妄想だと笑うがいい。そこらの物語の一節であったことが目の前に迫っているというのは恐ろしかったのだ。


 ここで絶望しないでもらいたい。すぐにそれからの反撃を受けた。私ではなく、私たちの都市を囲む山の一つがだ。その攻撃は、光だった。遥か遠くにいたはずの私の肌は焦げ付き私は悲鳴を上げた。


 山はなくなっていた。おそらく悲鳴を上げるよりも速く。心底恐ろしかった。あれが私に向けられたら骨も残らないだろうと思った。確か、情けないことに失禁もしていたと思う。

 

 まだ、絶望する所じゃない。私が真に絶望したのは、それらが大量に宙に浮いていたことだ!

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魔王より、残党へ (Ⅳ) @Hk-4

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