第6話
…あー。
「凄い人だな、チャンネル登録者一位って。なんで俺が今まで知らなかったのか不思議なぐらいだよ」
「不思議なぐらいだよ、じゃなくて本当に不思議な事なの!女性でも嫉妬が出ないぐらいに綺麗なこの顔!一周回って女性にも絶大な人気だわ!!」
と、春香は怒りを交えながらやや早口で言葉を連続させた。
…理解が追いつかない、けど結構とんでもない事が起きてるのはわかる。
「それが『走者』とか言う謎の人に取られてぇ…確かにそうなるかもしれないけど、なんだかなぁ!」
「……取られるってどう言う意味だよ、なんか盗んだのかそいつ」
いやいや、俺何も盗んでないですけど、もしかして落とし入れようとしてるのか?いやないか。
「あぁその話する?このファンの私の前でその話しちゃうんだ、よっしゃ二日ぶりに盛り返しちゃうぞぉ」
「気張んなくていいからさ、一体何があったんだよ」
春香は自分のスマホを何度かスワイプして俺たちの前にある机にスマホを置いた。
その画面には、さっきまで見ていた神宮寺さんの顔が映っていた。
「…この動画は?」
「これは1日前、突然神宮寺さんが投稿した動画、この動画が投稿される前に神宮寺さんはダンジョン攻略配信をしてたんだけど、ドラゴンを討伐してたら配信してるスマホが壊れちゃったらしいのよ」
「…それで?」
二日前、俺があそこで遭遇した場面と春香言動が一致している。
スタンドが立てられていたが、あれはそう言う意味だったのか。
「壊れたんだから分かるわけないでしょその後は、まぁでも神宮寺さんがそのことについて話してるわ、えいや!」
春香が大袈裟に画面をタップするとついに動画が流れる。
『みなさんこんにちは、完全ダンジョンで配信してる神宮寺瑠奈です、昨日はご迷惑をお掛けしてすみませんでした。ネットでは死んだのではないかと考察している人も居たらしいですが、このように生きています…ですがそれはあのドラゴンを倒したと言うわけではなないのです、むしろ逆で私は負けていました』
「…終わりか?」
「な訳ないでしょ」
だって止まってるじゃん。
終わりだって思うでしょうに。
『私はある人に助けられたのです、ドラゴンとの戦いでボロボロになったこの私を、後数秒で死ぬ結末を辿っていた私を助けてくれたのです、その人は私の事を抱き抱えて必死にドラゴンから逃げ、自分の右足に傷を負いながらも私を救出してくれました、もしかしたら私の方に向かってきた段階で死ぬかもしれないのに…自分の危機を顧みず私を助けてくれました』
「いい話なんだけどねぇ、その人もとっても素敵な人なのは分かるんだけど…なんかなぁ」
春香がくしゃくしゃと自分の頭を掴み掻いている姿を見ていると、なんだがしてやったりと言う感情が湧く。
『私を救出してくれた後も、お礼なんていらない、困っている人を助けるのは当然だと、彼は言ってどこかにワープしていきました、正直に言います、私は彼の事が知りたくなりました』
……気のせいだろうか、何か風向きが変わったような気がしなくもない。
『いえ、そうではなく…私は彼が』
彼が?
「やっぱりやだぁぁぁ!!もうあんな気持ち味わいたくないぃぃ!!」
唐突に、春香が机に置いていたスマホをぶん取って電源を消した。
「ちょ、おい!!何するんだよ、一番いいところだろ!」
「あんたにとってはそうかも知れないけど、私の記憶にはまたダメージが入るの!絶対にやだぁぁ!」
…はぁ、これ以上は見れそうにない。
おそらく俺のスマホで見ようとしても、無理やりひん剥いてでも消してくるだろうな。
「わかったから、そんな叫ばないでくれよ」
「はぁ、はぁ…そうよね、一旦パフェ食べて落ち着くわ」
パフェを大きな口で食べて水のゴクっと飲んだ春香は「ふぅ」とため息をついた。
もう食べ終わったらしい、全くよく食える。
「そう言えばさっきから気になってたんだけど、あなたその袋どうしたの?」
春香が俺の右手に持っているビニール袋を指差す。
「……塗り薬だよ、最近怪我してな」
「ふーん…どこ怪我したのよ」
「足だよ足、つい最近怪我をしてな」
「ふーーーん…」
な、なんだこいつ。
いつも俺のことなんか興味ないですと言っているのに今日に限ってやけに食いついてくる…まさか、悟られた?
「どうした?やけに食いついてくるじゃないか、お前らしくないぞ」
「いやぁ?気になっただけ…最後に聞くけどさぁ、その怪我どっちの足?」
完全に疑われてやがるなこりゃ。
しかし本人も半信半疑なのだろう。
「……左足だよ、お湯をこぼして火傷したんだ、その塗り薬が中に入ってる」
見るか?と春香に袋を突き出す。
「いやいいわ、私の思い過ごしだったかな」
「おそうか?それだったら良いんだが…じゃあ俺はここらで帰らせてもらうわ、じゃあな」
引き止める猶予なんて与えずにそのままカフェの外に出る。
早く帰って続きを見よう…配信界は俺が思った以上にヤバいのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます