第5話
「ではこちらがお薬となります、お気をつけてお帰りください」
「あ、はい、ありがとうございます」
病院のドアを開けて外に出る。
体の痛みはまだあるが、その痛みは俺のスキルによる物…つまりえぐい筋肉痛だ。
だけど、この右足に当たったドラゴンの飛来物、まぁおそらくは火球の類だ、俺の右足に何が起こっているかもわからない痛みがなくとも診て貰うのが安定だ。
一応今回は飲むタイプの痛み止めと傷口に良く効く塗るタイプの傷薬をもらった。
ないよりは良いだろう。
「はぁ、まだトレンド一位が『走者』か…」
スマホを開いてダジョッターを見れば、そこにはトレンド一位のところに『走者』の二文字が浮かんでいる。
少し楽観的だが、いつまで続くんだろうなこんな事。
俺の視聴者には、ひとまずは事が静まるまでダンジョン配信をするなと言われているし、はぁどうしたものか。
「…取り敢えずもう帰ろうか」
こんな所で一々悩んでいても仕方がないし面倒くさい、さっさと帰ろう。
「え、走!?何やってるのこんな所で!」
…この声、まさか。
「やっぱり走じゃん、何やってるの?」
俺が右を向くと、そこにはロング髪で茶髪の見慣れた女性が居た。
「いやお前こそ何やってるんだ、今日は休みなのに外にいるなんて珍しいな」
「いやいやこの私、
「いやいやいや、ボケてんのはお前…あぁいやちょっと待て」
スマホを見る…俺があの日から眠って、二日が経っていた、俺は一日中眠っていたことになる。
俺があの女性を助けたのは土曜日、そこから1日中眠って日曜日は不覚にも消化。
そして目覚めたのは月曜日、そして今の短針は17時を指している、ふむ。
「…まぁなんだ、お前をボケてる扱いしたのは謝るからさ、じゃあな」
さーって、今日はゆっくり雑談配信でもしようかな───
「待とっか♩」
ガシっと、俺の肩が掴まれる。
そこから動こうとしてもグググっと音が鳴りそうな感じで引き止められる。
「なんで肩を抑えるんだ、その手を離してくれないかいや別に逃げるとかそんなのじゃなくて普通に痛いと言うか」
「……何か言った?」
「あぁいや何でもないです」
俺の早口が春香の一言で粉砕された。
圧がすごい、こりゃ逃げることは出来なさそうだ、いや逃げるなんてそんな友達の前でやるにはありえない行動なんだけど今のは言葉のあやっていうか…う"ん"
「んで、何が望みだ」
俺がそういうと春香はにっこり笑って開いている左手である場所を指さした。
「私ね、今すっごく新作のスイーツが食べたくてぇ、あそこに丁度カフェがあるからぁ食べたいなぁ…あ、でもどうしよう!?肝心のお金、今全然持ってないない!あぁ食べたい食べたいぃ!」
春香がぶりっ子じみた声を出しながらからだをくねくねさせているその状況に思わず爆弾を投下してしまった。
「…きめぇ」
「あ?」
ひぃ!殺される!まじでこの圧は殺されかねない。
こ、こいつ…この前のドラゴンよりも圧がすごい…はぁ。
「何円だ?」
一応、財布の中にはそこそこ入っている。
「えぇ!?何!?」
「何円だって聞いてるんだ、その新作のスイーツってやつは」
「も、し、か、し、て?買ってくれるのぉ!?きゃー優しいなぁ!それじゃああそこまでレッツラゴー!」
春香に腕を引っ張られ、半ば強制的に右側にあったカフェに引っ張られる。
だから、値段はどんぐらいなんだよ本当になぁ…
────
──
「んーー!うまいっ!!」
目の前のスイーツを頬張った春香はにんまりと顔を崩しながら言った。
あぁ…あれに1000円弱、何がいいのかよくわからないな、スイーツなんて言っていたがどちらかと言えばパフェ、それもでかいパフェ、果物がたくさん乗ってるやつ。
「それ、食い切れるのか?」
俺が食べる立場ならば、絶対に食えない。
無理矢理なら腹には入るだろうが、甘さの満足感にやられ即ダウンだ。
「大丈夫だって…甘い物は別腹、よく言うでし…いやーあんたがいて本当に助かった、ありがとうね」
「なら金を返せ」
「てか、知ってる?」
「話のキャッチボールを心得ていない奴とは話したくないんだが」
なんで金の話になると急に話題が変わるのか、今に始まった事ではないのでもういい。
今回は俺が悪いのだ、それに命を1000円で買ったと思えばお得すぎる。
「それで、何の話だ?」
もぐもぐと、口に含んでいるパフェをゴクンと飲み込んだところで、春香は話し始めた。
「いやさ、もう近頃ずっと話題になってるあれだよ、走者。知ってるでしょ?」
「…………知ってる」
「何その間、絶対知らなかったじゃん」
いや、うん。
そうは言ってもお前の目の前にいるのが走者本人だし、っとツッコミを入れたいところだが視聴者との約束がある。
「いや、これがマジで知ってるんだ、あれだろ?今ダジョッターでトレンド一位になってるあの人…謎すぎて叫んでたよ」
「そう言う反応は本人のために取っておきなさい」
まぁ本人の経験談だから別にいいだろ。
「でも、もし俺がその走者の立場だったら絶対に叫んでるだろうな、謎すぎるし」
「…もしかして、あんた走者とか今回の件、全然深く知らないでしょ」
ギクッと心の中の俺が肩を振るわせた。
その俺をみた春香は「はぁ…」とため息をついた。
「どんだけ世間知らずなのよあんた」
「いや、だって謎だろ?いきなりこんなわけのわからない名前のやつがトレンド一位だなんて…何かあったとしか」
「その何かが起こってるから今があるのよ…ねぇもしかしてこの人も知らないんじゃないの?」
そう言って遥香が見せてきたスマホには、今日の配信で初見さんが送ってきた人が出てきた…やっぱりな、そこそこ有名な人か。
「ん、あぁ見たことはあるな、どんなことやってるかは知らないが」
実際本当のことだし、でも今日はそれで「こいつマジか…」みたいなこと言われたし、有名なんだなぁ。
「あんたマジで言ってるの?見た事しかないって…配信も一回も見たことがないの!?」
「あぁ、てかその人一体どんなことやってる人なんだ?」
俺がそう言うと、春香は先ほどよりも大きなため息をついて行った。
今までの楽観的な考えが一気に張り詰めるそんな事を…
「この人は『完全ダンジョン』のアカウント名で配信してる
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