第4話
「い、一体…なにが…は!」
ありのまま、今起こったことを話すぜ!
俺は昨日、確かにそのまま寝ただけだった…それ以外は何もしていない。
自分で拡散だとか情報操作だとか、そんなちゃちなもんじゃねぇ、全く分からない、しかしとんでもないスピードで拡散されているのは確かだ。
「いやさ、本当に…まじなんなんだこりゃ」
全く分からない、一体いつから拡散されていたのかわからない。
だけど言えることが一つだけ、昨日の配信前、その時はトレンド一位に走者なんて書いていなかった、これは確かだ。
なら、この現象は昨日のうちに起こった、これは確実だ。
それ以外考えられない、しかし現実に起きているこの状況を受け入れるにはまだ覚悟ができていない。
「一人で悩んでても仕方ない…かな」
仲間を募ろう、一人で悩んでいても結局自分の事で頭がいっぱいになる、欲しいのは客観的な意見。
急いでスマホから配信画面を開き、配信を開始する。
するとその瞬間、とてつもない数の人が…なんてことはなく、いつもの常連5人が集まっていたようだ。
「……さて諸君に問おう、今どう言う状況だ?」
『大きくなったな走者…小さかった頃のお前とは見違えるよ』『見ればわかるでしょ』
といつも通りとは言えない少しぼかしたコメントが流れる。
いつものコメントと特に変わったような感じはしないが、俺が聞きたいのはそれじゃない。
「なんで俺の名前…と言うより愛称がダジョッターのトレンド一位になってるんだよ、何か知らないの?」
『……何言ってるんだ、お前は自分でもわかるほどの底辺じゃないか、ってコメントはいいか』『と言われても、俺たちにも分からん』と俺でなくても何が起こったのかわかっていない様子であった。
「なんで誰一人として知らないんだよ!誰かわかる人いませんかぁ!!男の人!」
俺がそう言うと、コメントに『…多分わかります』と一筋の光が現れる。
「そのアイコン…あぁ昨日の初見さんですか!それに多分わかるって本当ですか!?」
常連のクソキモコメントには目もくれず、俺は初見さんのコメントにがっついた。
『幾つか質問させて欲しいんですけど、今のお身体の状態はどんな感じですか?」
「体?一言で表すなら絶不調です、昨日は散々なことがありましたから」
『散々な事ですか、どうしてそうなったか教えてもらってもいいですか』
「んーと、なんか負傷してる女性を助けるためにスキルをフルに活用したんだけど、その代償で体に掛かった負荷が結構エグい物で、今のベッドで寝そべりながら配信してるんですよね」
『なるほど、だからカメラはついてないのか』とコメントでは今の配信スタイルを疑問に思っていたらしい。
ただのカメラがあるかないかの差だがな。
『女性を助けたと言いますが、どんなモンスターから助けたんですか?』
「あぁそうそう!!確かドラゴンだったんだよなぁ…最後の最後に足に掠めたんだけど、それだけでも結構痛いし、近いうちに病院行かないとなぁって」
『助けた女性の特徴はどんな感じですか?』
「逃げるのに必死だったからよく見てないんだよなぁ…あぁでも、黒髪でクールな声してたな、結構好みだった覚えがある」
『走者はお姉さん好きだと、絶対ロリだと思っていたのに』『それか自分より年下の気弱な子』『わかる、絶対振り回すだけ振り回して最後に捨てるんだ、この人手なしぃ!』
クールな声が好みと言っただけでなんだこの言われ方、流石に悲しむぞ。
「俺は決してロリ好きではない、お前たちの趣味を俺に押し付けるのはやめな」
…ふむ、コメントが止まった、図星だったなこりゃ。
そんなコントを交わしているとコメントから一つのURLが流れる、送ったのは初見さんだ。
『このリンクに飛んでみて、出てきた人…が昨日見た人ならそうですと正直に言ってください』
『俺らも飛んでいいの?』と視聴者のコメントに対して初見さんは『いいですよ』と肯定のコメントを残した。
リンクをタップしてリンク先に飛ぶと、一人の女性の全体写真のようなものが映し出される。
見た感じ何かの配信をしている時に映った全体像をそのままスクショした感じだ。
腰ぐらいまで伸びる黒髪…若干茶色の目…お?
「この人…俺が昨日助けた人に似てるなぁ、やっぱり攻略系の配信者だったのかな?」
それならば、あのドラゴンと戦っていたことにも説明がつく。
それにドラゴンと戦っていると言う事はそれなりに自信があり強いと言う事になる。
それならば意外にも有名な人だったのかもしれない。
「…売名でもお願いしとけばよかったか」
今頃俺の有名になっていただろう…あぁあ惜しいことをした。
…ん、でもトレンド一位に俺の名前が載っていると言うことは、俺が意図していない形で売名されていたことになる。
『…この人、知らないんですか?』
スマホに初見さんのコメントが挙がる。
昨日知ったけど…と言う回答が知りたいのではなく、それよりも前から知っているのかと言う疑問だろうな。
「知らないなぁ…お前たちは知ってるか?」
『走者、お前この人助けたってマジなの?』
『まぁ何だ、走者おめでとう』『てか何で知らないんだよ…この世界で生きてるのか?』
「な、なんだよお前ら、お前たちが知ってるって事は、それなりに有名な人なのか…あぁ売名しとけばよかったなぁ」
『それなりって…まぁ、なんかいいんじゃねもう』
『確かにな、お前はそのスタンスをずっと取ってくれ』
『幸いと言うべきか、こっちの配信には特に影響が少ないと言うよりない、おそらく走者だけで検索しても俺たちが愛称として使ってるだけだからこのアカウントが引っかからないんだと思う、このアカウントに辿り着くためにはしっかりと速攻ダンジョンと入力するか、はたまた流れてくるか、後者が起こって拡散でもされれば…俺たちの場所は無くなるだろう』
『…そうですね、私も迷惑はかけたくありませんし、このアカウントは私たちだけの秘密だって事で行きましょう』
「…俺会話に入れてないんだけど、なんかいい感じにまとまったっぽい?」
会話に入れていないのはこの際仕方がないものとしよう。
『纏まった、俺事長文ニキから走者に伝言…いや命令する、このトレンド一位を見て浮かれ絶対に自分が走者だと言わない事だ、その他にも自分が走者だと思われる言動…行動、特に走者のスキル使用は避ける事だ…後足は早めに治してもらえ…その他何かあるある者コメントへ』
「…まぁとにかく、俺が走者だってことがバレなきゃ問題ないって事だろ」
案外簡単じゃないか、よゆーよゆー。
『…私としては、今のようなスタイルの配信をするのも控えた方がいいと思います』
そんな衝撃的な言葉が…初見さんから、飛び出た。
本当にそんな事をやる必要があるのか?
「…配信するなって事か?」
不覚にもイラつき始めたその時、また初見さんのコメントが流れてくる。
『配信をするなと言っているのではなく、ダンジョン攻略配信をするのを辞めた方がいいと思うのです、だから一定の期間はこのような雑談配信が一番いいと思うんです』
「…そゆこと」
よくわからないが事だが、こいつらからしたら一大事なことが起きているのだろう、なら素直に従うのが賢明というやつ。
「…まぁわかった、じゃあ今回の配信はここで終わる、一応毎日雑談配信みたいな事するからさ、じゃあな」
そう言って、俺は配信を切る。
「雑談配信つってもなぁ…はぁ」
正直、未だ納得できない俺がいる。
意外に勘違いされやすいのだが、俺は別に嫌々あのスタイルで配信しているわけではない。
自分のスキルを使ってダンジョン内を走るのは好きだ…だけどこうなってしまった以上、素直に視聴者の意見を飲むのが一番良い。
「…病院行こ」
痛みはさほどない。
しかし何かをドラゴンから喰らった以上、一応診てもらったほうがいいだろうな。
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