大文字伝子が行く38改

クライングフリーマン

説教強盗

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。交通課巡査。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。宅配便ドライバーをしている。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。

 福本(鈴木)祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。

 逢坂栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。美作あゆみ(みまさかあゆみ)というペンネームで童話を書いている。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師

 南原蘭・・・南原の妹。美容室に勤めている、美容師見習い。

 小田慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田の婚約者。

 山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。警部から昇格。

 橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

 青山警部補・・・丸髷署生活安全課課長。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

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 福本家。

「大丈夫?祥子ちゃん。お芝居あるんでしょ。そういう時は家事しなくていいのよ。前から言ってるでしょ。身重なんだし。」

「ありがとうございます。じゃあ、サチコのごはんだけにします。」祥子はサチコの餌を持って、庭に出た。「あ。雲行き、怪しそうね。」「行った先で中止ってパターンかな?体育館で出来るかどうか、南原さんに聞いてみるよ。」と、福本が言った。

 ある小学校の体育館。

 子供達を前に、祥子達が寸劇を見せている。

「校長先生。ありがとうございます。」と南原が校長先生に礼を言っている。

 舞台では、祥子の扮する少女が松下扮する誘拐犯人に連れて行かれそうになっている。MCの依田が「ストーップ!」と役者たちに声をかけ、役者たちはストップモーションになった。

「はい。ここで質問です。さっきは誘拐されちゃいましたね。どうすればいいかな?分かる人は手をあげて下さい。」子供達が元気な声で手を挙げた。「じゃ、君。」依田が指さした男の子の近くに本田が近寄り、マイクを向けた。

「えとお。お母さんと一緒に行くなら、って言えばいい。」「よく出来ました。ここで、お巡りさんから説明がありまーす。青山さん、お願いします。」

 青山警部補が、MC席の依田の所に行き、マイクを依田から受け取った。

「みなさん、こんにちはー。まるまげ署の青山です。さっき、彼が言った通り、お母さんやお父さんのことを言って下さい。スマホ持っている人は、お父さんやお母さんに電話して下さい。いつも挨拶をしてくる、優しそうなおじさんでも、お父さんやお母さんの知らない人かも知れないからね。よくお父さんやお母さんが『知らない人について行っちゃダメ』って言うのは、お父さんやお母さんが知らない人のことです。それでも、よく分からない人は、『こども110番の家』って書いてあるお店とかに入って下さい。」

 愛宕と山城がパンフレットの入った袋を配り始めた。「家に帰ったら、お父さんやお母さんに、この袋を渡して下さいね。」

 控えのコーナーにいた南原が、引き返してきた福本や劇団の皆に労った。

「午後からどうされるんですか?」と校長が南原に言った。

「町内会長さんの紹介で、高齢者のひったくり防犯教室です。」「大変ですなあ。ボランティアでしょ?」「はい。」

 午後。小学校隣の公民館。

 バッグを持ったおばあさん役の祥子のバッグを指さし、みちるが「この持ち方に変えて貰いましょう。お願いします。」

 犯人役の本田が祥子のバッグを取ろうとするが、取れない。

 MCの依田が出てくる。「詰まり、普段は犯人に取られやすい持ち方をしている訳ですね。青山さん、お願いします。」

「まるまげ署の青山です。他にも、車道側の手にバッグを持つと危険です。後、自転車に乗っている場合の注意もパンフレットに書いていますので、家に帰られてから、読んで下さい。」

 公民館控え室。

 南原が祥子達に言った。「先輩。また銀行強盗をご用だって。愛宕さん、みちるちゃんも活躍したみたいですよ。」「どうだかなあ。先輩の足を引っ張っていそうな気がする。」

 翌日。本庄病院。診察室。

 池上葉子が伝子と高遠を前に深刻な面持ちで話している。伝子がめまいを起こし、処置室に運ばれ、点滴を受けた。

「目が覚めた?流石の大文字伝子もショックだったみたいね。」

「先生。私、一生産めないの?」「慌て者だなあ、伝子さんは。がんの兆候はないって。流産はショックなことだけど、まだまだチャンスはあるんですよね、先生。」

「そうよ。自然に流れることは珍しい事じゃないし、50代で産む人も今は珍しくないのよ。それに、勘違いされがちだけど、腫れ物に触るような生活は寧ろマイナス。大文字さんの場合は『多少』動きすぎの傾向はあるけどね。と池上葉子は笑った。

「そうか。学。ドリンク剤と強精剤の準備だ。」

「そんな冗談が出れば、もう大丈夫ね。あら、何だか騒がしいわね。」と池上葉子が言ったところに、「先生。大変です。」と真中瞳が飛び込んできた。

 葉子は屋上に出た。伝子と高遠も屋上に出てきた。伝子は高遠に目配せをした。高遠は頷くと、物陰に隠れた。そして、DDバッジを押した。

「来るな。来ないでくれ。俺には明日がないんだ。」「じゃ、昨日はあったんだな。」「誰だ、お前は。」「患者の一人だ。お前も患者の一人だな。」

「畑中さん。誤解よ。あなたは、がんじゃないのよ。」「嘘だ。みんな言っている。隠しているだけだ。」

 伝子が近づくと、畑中は一気に柵を乗り越えた。その時、オスプレイから捕獲網が落ちて来た。畑中は「捕獲」された。

 網はゆっくりと、病院の屋上に下ろされた。なぎさが近づいて来て、網を解放して、オスプレイに合図を送った。

 エレベーターから病院のスタッフが出てきて、畑中をストレッチャーに乗せ、運んだ。

「間一髪だったわね。あんなものまで装備しているの?」「動物が逃げ出した時とかの為にね。人間も動物でしょ、先生。」

「EITOは、そんな活動もしているのか?なぎさ。」「例えが悪かったかな?EITOのオスプレイは陸自のオスプレイからの転用だから、装備がある、って感じかな。」

 オスプレイから縄梯子が降りて来た。「じゃ、また後で。」と、なぎさが縄梯子に乗ったら、オスプレイは去って行った。

 病院の食堂。

「何人倒したんだ?」と食事をしている高遠と伝子の前に物部がトレーを持ってやって来た。2人と同じカレーライスだ。

「ノイローゼの患者が飛び降り自殺しようとした、それだけですよ、副部長。」と高遠が言い、「流石に私も間に合わなかった。」と伝子が続けた。

 小声で高遠が物部に経緯を説明すると、「なるほどな。大文字にも出来ないことがあるんだ。」「ああ。子供も出来なかったしな。」と、伝子は言った。

「自分から言うかなあ、普通。」と、物部は呆れた。

「がんじゃないからチャンスはある、って池上先生が言っておられました。」と、高遠が説明した。

「今夜、モールの広場で夜店を出すらしい。気晴らしに行ってみたらどうだ。」「いいですね、行きましょう、伝子さん。ありがとうございます、副部長。」

 午後7時。モール。

 広場の前では、物部が言った通り、夜店が出ていた。2人は綿飴を食べた後、ヨーヨー釣りを楽しんだ。「ああ、また失敗だ。」結局2人はヨーヨーを2つ買って帰って来た。

 伝子のマンション。

 鍵をかけ忘れたことが分かったのは、後になってのことだった。

 2人は久しぶりに燃えるようなセックスをした。シャワーも浴びずに熟睡し、目が覚めた時は午前2時だった。いや、目を覚まされたと言うべきか。

「おい、起きろ。」と、ナイフを持った男は言った。

「何だ、お前は。他人の家の寝室のベッドに座ってさ。」「驚かないのか?普通はキャー!だろ。」「ふうん。説教強盗って、今でもいるんだね。」

「感心している場合か。ロープはあるか?」「ええ?用意してないの?普通は用意するよ。荷造りロープなら、隣の台所にあるよ。」

 男は、台所から、ロープを持って来て、高遠に渡した。「女房を縛り上げろ。」「縛り上げ方は知らないけどなあ。」と言いながら、「裸なんですけど。」「じゃ、さっさと服を着ろ、女房。」

 伝子が服を着ると、高遠は言われるまま伝子をロープで縛った。

「今度はお前だ。服を着ていい。」高遠は服を着た。男は高遠を縛った。その隙に伝子はDDバッジを押した。

「さて、金を出して貰おうか。」と男は言った。「台所の引き出し。」

「また台所か。不用心な家だな。まあ、ドアが開いていたからな。おい、亭主。お前、こっち来い。」と男は縛られた高遠を台所に連れて行った。

「上から2番目の引き出し。」と高遠が言うと、男は引き出しを開けた。財布が入っていた。キャッシュカードも。「置き場所、定番過ぎるだう。暗証番号は?」

「今日は何曜日?」「日曜日だ。日曜でもコンビニ開いてるだろう。」

「残念。銀行の点検日。月曜の朝9時まで開かない。」「ふざけた夫婦だな。」

「お前はふざけていないのか?」と奥の部屋から靴を持った、あつこが現れた。

 奥の部屋にはランプが点いている。後から続いた警官達も靴を持っている。

「玄関前にまず靴を置いてくれ。」と、あつこが言うと、男はあつこに飛びかかった。高遠が足を引っかけた。

 男は簡単に転倒し、撥ね飛んだナイフを伝子は後ろ手でキャッチした。

「確保!」とあつこが言うと、あつこの部下の警察官が男に手錠をかけて、玄関ドアから出て行った。

「先に行ってくれ。私は後で帰る。」とあつこが後ろから声をかけると、部下の一人が振り向かないで、「了解です。」と応えた。

 伝子は自分のロープを解き、高遠のロープも解いた。

「おねえさま。DDバッジ押さなくて良かったのよ。草薙さんがちゃんと説明していなかったのね。鍵をかけ忘れて、夜中に賊が侵入すると、EITOのシステムが判断をしてEITOに通報されるのよ。リセットスイッチはここ。二人とも覚えて。」と、あつこは配電盤の横の黄色いボタンを押した。

「それも生体認証か?」「ま、そういうことね。仕事してたの?だったら、気づく筈だし。」

「5番勝負して、精魂つきて裸のまま眠ってしまってな。」「泥棒さんが、いや、強盗か。起こしてくれた。ロープで縛りたがったから、裸なんですけど、って言ったら服を着るまで待ってくれた。その隙に伝子さんがDDバッジ押したんだよ。」

 2人の説明に、苦笑したあつこは、「確かに。玄関に内側向けてきちんと揃えていたものね、靴を。」と言った。

「盗られた物は?」「多分、特にない。出来心なのかな?ロープも持って無かったし。」「え?」「これ、うちの荷造りロープ。」あつこはまたも呆れた。

「あ。あつこ、パトカーで来たのか?」「うん。オスプレイ出払ってるから、少し時間がかかったの。どうせ、明日また来るから、おねえさま、バイク貸して。高遠さんの自転車でもいいけど。」「はいよ。」と伝子はあつこにバイクのキーを投げた。

 翌日。伝子のマンション。

「盗品は無くても無罪放免って訳にはいかないわね、家宅侵入罪、強盗罪、公務執行妨害は間違いないわね。」と、みちるが言った。

「しかし、防犯システムまで完璧だとはな。」と物部が言った。

「なんせ、EITOのアンバサダーの本拠ですからね、副部長。」と言う依田に、「お前、今日仕事は?」と物部が尋ねた。「遅番です。」

 チャイムが鳴った。青山警部補と愛宕だった。「皆様、昨日はお疲れ様でした。」「先輩、昨夜強盗が入ったんですって?」「あつこに怒られたよ。戸締まりせずに眠るなんて、って。」

「普通、酔っ払った時にかけ忘れるもんだけど。」「あ。昨夜は、ヨーヨー釣りして帰った後、『子作り5番勝負』してたから。」

「平然と言えるのが先輩だな。褒められたもんじゃないが。」

「ん?」「いえ、別に。」依田は首をすくめた。

「えー。交通安全教室も高齢者教室も盛況で終わりました。急な要望に応えて下さった高遠さん、依田さん、福本さんの劇団にとても感謝しているということで、署長から感謝状を預かって参りました。えーっと、依田さん、代表して受け取ってくれますか?」と、愛宕は言った。

「はいはい。」と、依田はうやうやしく感謝状を受け取った。「圧力かけた甲斐があったわ。」と、みちるがポロリと言った。

「え?」と驚く皆に「冗談よ、冗談。」と、みちるは舌を出した。

「あれ?高遠。強盗入った時に裸だったの?」と、福本が尋ねた。

「うん。」「よく平気だったね、二人とも。」と、福本は感心した。

「あー、見損なったわね、二人の裸。もっとゆっくり来てれば見ちゃったかも。」とあつこは言った。

「下ネタかよ。」と言う物部に、「あら、私は伝子の裸も高遠君の裸も依田君の裸も一朗太の裸も見たことあるわよ。」と栞が言った。

「なんで?」という蘭に、栞は応えた。「合宿で泊まった民宿が火事になってね、丁度男子の入浴タイムだった。慌てて飛び出した男子のイチモツ全部見たわ。まあ、その記憶があるから、一朗太と一緒になったんだけどね。」

 時間が止まった。皆はストップモーションになった。

 ―完―






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