相続したので、聖剣使えるバイト先を探してみる
第7話
友達の所の霊を祓った。たったそれだけ、と聖奈は思っていたが。
全然それだけ、と言えるようなことにはならなかった。ふつうに大事になった。
「ーーあの! そういう無茶しないでほしいの! 分かる!?」
「ああ、まあ、そうですね……」
日が入らない生徒指導室。そこに座らせられて説教される。警察の取り調べみたいだな、と聖奈は思った。
まあ、問い詰める側が泣きかけている生徒指導の女性教師、ということはそのイメージとは違うけれど。
「いや……でもですね、指原先生。友達のためなら、助けてあげたいじゃないですか」
「わかります! わかりますけど、大人を頼ってくださいよぉ!」
「頼れない状況だった、って本人から聞いたんですけど」
事実を告げると、生活指導教師こと佐々木は詰まった表情をする。彼女は生徒と見間違うほど小柄で、すぐ泣きかける。どう考えても生活指導に向いていない人材だった。
「……それは、すいません」
「いや……大丈夫です?」
しゅん、となってしまう教師の、ポニーテールが揺れる。
こっちが怒っている側みたいになってしまっている。良くない、と判断して、少し話を変える。
「……彼女は、委員長は大丈夫そうですか?」
「ああ、うん……ちゃんと対応するし、今度こそ大丈夫」
ちゃんと大事になる、ようだった。それに越したことはない。
※
さてはて。
「これからどうしようかなあ」
「具体性に欠けてるねえ、どしたん?」
学校からの帰り道を歩く。隣には美紀。
悩みごとを吐いてしまってもいいだろう。
「……聖剣を、使ってなにかしたい」
「なにか」
「けど……都合よくなんか、聖剣つかうイベントなんて出てこない、じゃん?」
「そりゃそうね」
「どうしようかなあ、と」
「えー……???」
ふわふわなこと言っているなあ、という自覚は聖奈にもあった。困った笑みを親友は見せる。
「まあそうだよねー、今どきそういう魔物狩りみたいな職業って、だいたいそういう専門の高校からなるもんだしね」
「正直聖剣もらうまで縁無いと思ってたから、そういうのと」
「あると思うほうがおかしいし、仕方ないと思うけれど……」
ひとつ考え込んだ後、これしかない、というふうに美紀は口を開く。
「……バイト」
「バイト」
「そう。イマドキ霊媒事務所とかあるじゃん? そこで働かせてもらうとか! 案外聖奈の親戚とかいるかもよ、そういう筋の人!」
霊媒事務所。
所謂”幽霊”だとかをどうにかする自営業の人たち。確かにそこで働いて戦えば、誰かを聖剣で助けることはできそうだけれど。
「いやあ……そんな都合良く霊媒事務所の親戚なんているわけ……」
※
「いるわよ」
「そんなことある?」
かくかくしかじかを相談したあと、あっさりと霊媒事務所とのコネがあることを打ち明けたのは聖奈の母だった。
いつもどおり夕飯時。今晩はカレーらしく、彼女は野菜を切りながら話している。
「ほら、おじいちゃんが異世界ハーレム系だったじゃない。で、もちろん腕っぷしも強かったわけ。だからその流れをついで霊媒事務所してる人がいるの」
「おじいちゃん凄いな……」
聖剣といい、祖父は何者なんだと思う。聖奈の母はなんてことはないように料理作りながら語るけれど、とんでもない人だろう、客観的に見て。
「やりたいなら紹介できるけれど」
目があった。本当にやるの? という目だった。
「……確かに、ちょっと悩む」
「聖剣はあなたのものだけれど、別に使う必要もないし、危ないとは思うわよ?」
その通りだ。結構危険な目に会うだろうし、心配もかけるだろうと聖奈は思う。
ただ、
「……使えるものを使わないのはもったいないし、力があるなら誰かを助けたいな」
この思いが全てだった。
聖奈を産んだ存在は、少し微笑む。
「そうねえ、あなたはそういう子だったわね。魔法少女目指してたときから」
「……昔のことは言わないで欲しい」
親はなぜそんな幼いときのことを口に出すのか。少しむくれる。
「でも、そっちのほうがあなたらしいわよ」
「そっか」
なんだか居心地悪くなって、自分の部屋に戻った。
ちょうど野菜は煮始めたところだった。
聖剣を相続した。 蒼添 @sou-x-4
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。聖剣を相続した。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。