第4話

……曰く、委員長の両親は共働きで、かなりの激務。

そしてそのストレスをぶつけるかのように、夜中に彼女に当たり散らしたり、”彼女のためを思って”体に怪我を負わせたりしているらしい。そしで、今現在は両親がいない日も怨霊がやってきて、委員長を蝕む、と。

夜中、寝ることの安全性を確保できないというのは、聖奈が想像してもとてもつらいことのように思われた。

それこそ、安易にどうして、アドバイスなんて吐いたらいけない、とわかるぐらいには。


だから、言葉は最小限だった。


「行ってくる」


深夜、三人。聖奈は委員長と美紀に言い放ち、鍵を受け取る。

死地に突っ込むのは自分ひとりで問題ない。親友にアイコンタクトすると、二人は去っていく。全部が終わったら美紀の家で三人お泊まり会だ。その前に自分が一仕事あるだけ。少し深呼吸する。


立派な依頼者の家ーー委員長の家の前に立つ。諸事情あって学校のジャージ姿。

鞘に入った聖剣を抱え、懐とポケットにさまざまな退魔道具を忍ばせた。共働きである委員長の親は、いない。

借りた鍵を使い、ガチャリとドアを開ける。

真っ暗な家の中。靴を脱いで、足音を立てないように。それでいて堂々と、歩く。

目的地は二階の委員長の部屋。階段を登り、ドアを開けると、夜目にもわかるほど整理整頓されている部屋が、聖奈の目に映る。

さて、ここからどうするか。どうやって怨霊を釣るか。

作戦は考えてあった。


「じゃあーー寝ようか」


一応の視界確保のため、部屋のカーテンを開けた後。

聖奈は、人の家のベッドに潜り込んだ。




その怨霊は、まごうことなき”悪”の部類であった。

生前から普通に女子供を狙い、普通にその泣き顔を楽しみ、至極当然のように逮捕され、そのまま反省することもなく夜道の人を襲った。それを死ぬまで繰り返した、人道から外れた怨霊であった。

ゆえに、”弱いものしか狙わなかった”。


今日もすり抜ける体を利用して、酷く弱って、霊的にも抵抗力が薄い少女を狙った。

最近付け狙っていた彼女はどうやら親にもいじめられているらしい。ならば、もうそういう宿命なのだから、自分がいじめても全然罪悪感はなかった。


この日も、暗い部屋で彼女はやっと得れた休息の時間を堪能している。それをグチャグチャにするのがこの怨霊の楽しみだった。

布団に丸まっているからか、姿は見えない。けれどいつも通り、彼女は無抵抗だろう。


怨霊は影のような、暗い不定形の腕で、布団をはがし、速やかに組み敷く、が!


「……来たね。殺す」


そこにいるのは、まったく別の少女だった。

彼女は口の中に含んでいたものを怨霊に向かって吹きかける。そうすると、死後数年感じたこともないような痛みが体に奔る!


「……女の子の唾液、嬉しくない? いや、嬉しかったら気持ち悪いか」



痛みに悶え、転がる。その間に、ジャージ姿の女はーー薄く、光り輝く剣を抜き放った。


「ま、いいや。やろっか」

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