第5話 出会い!と感情

さて、彼、彼女等はどんな物語を描くのかな。

授業も始まるであろう時間。そんな中、一人図書室で呟いた小学生のような見た目の少女は一言呟き、本を閉じた。




「そうだな、沙耶は一番後ろの隣空いてる三つの席をどれが好きに選んでくれ」


「は、はい!」


転校初日遠川沙耶はあからさまに緊張していた。一挙一動の全てが可憐で男女問わず、魅了されていた。そんな転校生の隣をと我が我がと三人んのうち二人は睨みを利かせ、互いに譲ろうとしなかった。二人が同時にどうぞと発する頃には、もう一人、つまり藤浪海斗の隣に座った。この中で一番無害そうなのは彼だとクラスの全ても納得の結果だった。


「おい、海斗俺と席変われ」


等と主に自分の席の列の一番前から司の声が聞こえたがシカトした。というより反応する余裕がなかった。普段ならどうでもいいとノートに英単語でも数式でも書いている海斗が、隣の沙耶に気を取られていた。


(おい、おい、こいつって!沙耶って!あのバカなのか!?)


困惑。それは沙耶も同じだった。沙耶はチラチラと海斗の表情を伺い、聞くか聞かまいかを考え苦悩している。傍から見れば挨拶すべきか考えているように見えた。


(なんで、藤浪くんが?ここに!ここから、あの図書館まで電車で一時間はかかりますよ!いえ、一時間で最寄りの駅に着いても、徒歩で50分以上のなのにどうして彼がここに!)


「んじゃ、ホームルーム終わるなーお前らも初めましての挨拶したいだろうし、海斗〜勉強ばっかじゃなく隣の人興味もてよー」


これは担任からの話しかけとけということなのだろう。あの先生も抜け目がない、こんな状況を輪に入らない海斗の為にも利用しようとしている。一石二鳥で丸儲けとか考えていそうだ。

そんな担任の発言にクラスもクスッと笑う。


(興味しかねぇよ!会わないと思ってたヤツに出会うって小数点の切り捨て以下の確率だろ?自分も何言ってるのか分からんくなってきた)


パニックだ。脳が壊れる、昨日の七海の言葉が海斗の脳を犯していた。絶対逃がしちゃダメという言葉。沙耶に好意を持った、クラスメイト達が、周囲を囲んでいた。

「ちょっとこい」


「え!?」


普段の思考回路なら絶対にしない行動、

手を引っ張り早歩きで図書室に向かった。

周囲は『え!』と少し驚いたように口をぽかんと開け、出ていく二人を見ていた。


図書室には誰もいなかった。ただ、【ドキッ!これで男もイチコロ恋愛指南!!】とかいう頭の悪そうな絵をした(海斗個人の主観)本が机の上に置いてあった。昨日から置いてあった忘れ物なのだろう。授業が始まる数分前こんなところに呼び出すのは告白か、金をたかるか、二択のようなものだ。


「で?お前はどうしてここにいる?」


「私が聞きたいですよ!あなただって、すごい時間を使ってまでここに来てるんですか?」


「生憎だがあの図書館に行ったのわ気まぐれだ。自転車で40分かかる距離のあそこに行けば知り合いなんて誰もいないからな、それで?お前のあの、今となっては恥ずかしい別れを告げても全然来れそうな距離だが」


「いえ、無理でしょ!電車使ってタクシー使ってまで何円かかると思うの?」


「確かにそうか」


(何を当たり前なこと言ってるのか)


「それでその……また、勉強教えてくれます?」


「は?」


「い、いえ、別に嫌ならいいんですが、そのまた会えた訳ですし、貴方の教え方結構分かりやすかったですし」


恥ずかしいのか、顔を赤くして、手を振って嫌ならいいと言葉よりも過激に体が反応していた。そんな沙耶の姿を見ていて、昨日までの多少の寂しさが消えたような気がした。


「ふ、いいぞ。だが、図書館と違ってここは学校だ知り合いだっている。だが、そんなものは些細に過ぎん。お前が勉強を俺に教えを乞うたんだ。学校の最終下校時刻まで付き合ってやろう」


「い、いえ、そ、そこまでは大丈夫です!」


「あ、おい」


沙耶は猛ダッシュで図書室から出ていった。

そんな反応に少し笑みを見せていた海人だったが誰もいない部屋にはそれを見て驚いたりする生徒はいなかった。チャイムが鳴り、慌てて海斗も教室に移動した。



「いやー、危ない危ない。まさかこんな所に来るなんて。これも運命ってやつ?あぁ傍観を決め込もうとしてたのにちょっかいかけたくなってきちゃったな」


何かは急ぐ海斗を尻目に下卑た笑みを浮かべ消え失せた。



「お、青春ボーイ!私の英語の授業をサボらなかったのは良いが、遅れるのはマイナスだね」


「すいません、ちょっと」


「まぁ、いいさ、さて教科書の……」


英語の教師は普通に始めたことに安堵し、自分の席に戻ろうとするとやたらと目線を感じる。不思議に思って周りを確認するとクラスメイト(特に男子)が海斗をガン見していた。そんなことはいつもの事だとスルーして自分の席に戻った。見られることに疑問を感じていると、司が全てを話してくれた。


「お前が、手を繋いで出ていったからみんな殺気立ってるんだよ!」


「は?くだらね」


「隣の娘はそう思ってないようだけどな」


そう言って目線を海斗の隣、沙耶に移す、それに釣られるように、海斗も沙耶を見た。あからさまに顔が赤い。羞恥が己を戒めているようだった。英語の授業は基本自由席。だから海斗の前に司、司の隣に祈織、その後ろが沙耶そんな感じだ。海斗、沙耶、祈織は動いてないから殆ど動いてない。司のこれはたんにワガママ、それか、海斗の前が嫌なのかの二択だ。


「お、おい、照れんなよ」


「照れてなんか……それにあなただって顔変ですよ」


「おい、誰が顔が変だこら」


「仲良いネー」


海斗の新鮮な反応に面白くなさげに、祈織は、ジト〜と海斗と沙耶を見ながら呟いた。呟くにしては割と大きな声で。


「誰がだよ……」

「別にー」

「修羅場ってやつか!」

だんだんと授業関係なしに声が大きくなる。四人以外にも聞こえてくるほどの声。


「それに、こいつとはただの知り合いだ、それ以上でも以下でも、いや、教師と生徒の関係だな」


「…………そうですか」


「そうは見えないけどなー」


ニヤニヤとからかう司と何故か寂しそうにする、沙耶に意味がわからず頭を掻きながら海斗は自習に戻った。そんな光景を二人目撃している人がいた、一人は沙耶の表情を察するようにする祈織。もう一人は授業を聞いてほしい英語教師だった。

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