第2話 別れと妹

図書館内で一際目立つ二人組、ギャーギャー騒いでいるわけではないちょっと喋ってるなと、気にする人は気にするくらいの音量での会話だった。


「だから!公式を使えって言ってるだろ!」


「いっきに言わないで!頭が頭が」


「そんな入ってない頭の中なんだ容量余裕に余ってるだろ!」


「失礼すぎません?じゃあ貴方ならこれ解けるんですか?」


そう言って、沙耶は教科書の応用と書いてある部分を指差した。そんな簡単に解けないだろと言いたげなふふんというドヤ顔に苛立ち。ノートにパッと答えを書いた。


「これで、どうだ?」


「は、早!!じゃ、じゃあこの問題は」


「お前が勉強しろよ!それにここら辺の問題なんて教科書もらったその日から予習してある」


「えぇ!どんだけ勉強バカなんです?」


「よし、その喧嘩買った」


だんだんと声量の上がる二人の口論に、だんだんと周囲も気にしだしてくる。美少女の大声に

余計注目を浴びていた。司書さんも気づいたのかここの全ての人に聞こえるように咳をした。


「すまん」

「す、すいません」


周囲に謝罪した。こんなやりとりはもう5日目。だんだん周りも慣れているようでニコニコとこちらを見ている人が多数いた。田舎ということもあって、図書館にいる人達はほぼほぼ、同じ人が多い。それどころか中学生の少数はこの喧嘩を見たいからと言ってラブコメロスとか言っている変な女の子達もいる。だが、それも後一日。そう思っていた。


「藤浪君」


「?どうした、トイレか?」


ずっと今日海斗は沙耶に違和感を持っていた。沙耶はモジモジしては海斗の表情を伺い、また目線を下に移したりを何度か繰り返している。

流石にあまり人との付き合いに疎い、海斗にもそれは分かった。


「………………貴方との関係もこれで終わりなんです」


デリカシーのない海斗の言葉を睨んで黙らせ、自分の言いたかったことを口に出す。は?という疑問の声も一旦スルーして、自分の想いを先に言う


「この数日間お世話になりました。私転校するんです。私の家の都合で、両親が再婚して一年経ったんですけど、父もそちらに住むということで私もそちらに行くことになったんです」


「ほー、そ、そうか。よかったーやっとバカのお世話をしなくて済むのかー」


「そうですよね、今までありがとうございました。失礼します。」


ここから逃げ出すように沙耶は自分の道具を片して直ぐに立ち去ろうとした。そんな後ろ姿に海斗は冷静でさっきの続きを口にした。


「沙耶!確かに今までは面倒だったがその、意外とこの時間は嫌いじゃなかった。遠くなっても俺はここに来ていると思うから、また、分からないことあったら聞きに来い」


「はい。ありがとう藤浪海斗くん」


そう言って今まで見せたことの無い沙耶の笑顔を見せ、図書館から出ていった。そのままあまり頭が回らない状態で、勉強を続け、閉館までノートに綴るペンの音は鳴り止まなかった。



(頭がぼーっとする)

勉強で少し考え先延ばしにしていたが、もうここに来なくて良くなってしまった。彼女が好きだったとかそういった訳でなく、ただ、昔の自分に似ていたから、重ねていたのかもしれない。今のつまらない自分と。そんなマイナス的な事を考えながら、自転車に乗って自分の家に帰った。


駅近くのマンション、高そうだが、田舎なのでいうてそんなにしない。10階建ての10階。エレベーターの時間が長い!暗記シートを使ってそんな時間も勉強している、海斗にエレベーターに乗る人も若干引いていた。普通だったら引きはしない、このマンションで海斗は藤浪家は悪目立ちしているのだ。

海斗は自宅に入ると、リビングから聞こえるやかましいテレビの音に連れられリビングに来た。そこに居たのはあまりにも自堕落という言葉が似合う少女だった。ブカブカの衣服、お菓子の残骸腹を出して腹を搔くそのスタイルは休日親父スタイルだった。


「お兄ちゃんおっっそい」

バリボりと菓子を頬張りながらこちらを向いてる少女はゴムで後ろにまとめただけという髪型

年齢は高二の海斗より、2年下、中学3年生

「お前、色々と文句はあるがソファでもの食べるな!七海」


藤浪七海。妹。自堕落、怠惰。

学年は無論1位!兄からの指導とかいて悪夢と読むような勉強を差せられている。


「ええ、いいじゃん。?どうしたのお兄ちゃん?元気ないね」


「は?どこがだよ元気だろ」


「お兄ちゃんは元気の時そんな事言わない。」


兄が妹のことを知っているように妹も兄のことを知っている。兄妹の縁とはなんとも言えない、絆なのだろう。


「はぁ、別にちょっとな知り合いともう二度と会えないかもと言われただけだ。」


「でた!お兄ちゃんの知り合い。まだ、友達にトラウマでもあるの?知り合いって言われる人達が可哀想だよ。」


海斗は友達を作ろうとしない。高校生活2年目にして未だに友達ゼロ、話しかけてくる人も居ない訳では無い。ただ、海斗は友達の線引きというのか、親しい中の人を作ろうとはしなかった。


「うるせぇ、それでその女が頭悪くてよ」


ゴールデンウィークに出会った少女との思い出話を七海に話した……のが失敗だった。年相応に恋だの愛だのに飢えている思春期女子学生の前でこんな馴れ初め話を聞いたのだ、七海のテンションはあがる。


「お兄ちゃんに春が!!!その人どんな人?おっパイ大きい?」


「おまえ、テンション上がって凄い恥ずかしいぞ。」


「真顔で返さないで!充分知ってるから。お母さんもお父さんも喜んでるかな?」



海斗、七海の両親は交通事故で他界。いま世話になっているのは医者のおじに養ってもらっている。堅物だが優しくいい人だと海斗からの好感は中々高い。


「お兄ちゃん!その人絶対逃がしちゃダメだよ!絶っっ対」


「逃がすもクソももう会えねぇよ!」


妹のダル絡みを乗り越え、海斗は飯の準備に取り掛かった。

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