竹馬の友は竹に雀を思い笑む~幼馴染みの集い・一~

「しかし久しいな、ちくば」


 その一言が無くとも、らいあがとんでもなくご機嫌なのは俺ですら分かっている。それは俺達もで、ちくばは竹林でないのに無敵に近いモードが続いているし、俺は満っち満ちに満たされた腹を出して寝っ転がっている。

 あ、俺はいつもそうか。


「ほんとにねぇ。寂しかったぁ」


 ちくばのしみじみとした一言に、俺らしくなく鼻水が出そうになるが堪える。

 ほんとだよ。お前とせいくらいなんだから、俺を驚かそうと画策してないやつ。

 三人とも酒をあまり飲まないから、米麹の甘酒甘さ控え目を互いにちょびちょび注いでなんかしている。


「んでー?何してたんだよ」


 聞いたついでに腹をポコンと弾いてみる。

 おう、よく響いていい音だぜ。


「動物達の異常行動を記録する旅をしていたよ」


「おおう、予想以上に重てぇ話だな?」


 あれだな、あんま話せねぇやつかもな。

 からかい口調にすると、そうかもねぇ、とちくばは苦笑した。


「よくぞ無事に帰った」


「だなー、おかえりさん」


「ただいま、皆にまた逢えて本当に嬉しいよ」


 カチリン、と湯飲みを軽く当てる音が二度鳴る。


「音風でまさに会ったそうだな」


 まさの名が出て、俺は走りに走ったあの季節を思い出す。なんだか知らんが、まさと会うと俺はいつも走っていた。

 ほんとなんだったんだろうなぁ、あれ。


「うん、それはもう元気だったよ」


「知っている」


「そっか、手紙で」


「いや」


 らいあがちくばの言葉を遮る。俺は腹を仕舞う。

 え?まさか?まさかだよな?


「そのまさかだ」


 らいあ、俺の心読むなよ。


「違う。お前は大抵顔に出切っている」


「さ、さようで」


「そのとおおおおおーり!」


 突然響き渡る大声。縁の下から飛び出した影は縁側にダダンッと着地した。


「だあぁあああああ!」


 おおお驚いたあああ! 何処から出てくんだこいつは!?

 俺は転がって縁側の下から出てきたそいつから距離を取った。そいつが飛び出たと同時に背後に飛んでった二つの小さな影は、恐らくそいつの靴だろう。

 何処に飛ばしてんだ。多分俺が拾いに行くんだぞ、俺知ってるもん。


「うるさいうしお! るるが起きる!」


 まさだ。紛う方なき、まさである。かなり久方振りに会ったと思いきや、仁王立ちで怒られている俺。

 うん、俺らしい。そしてまさらしい。


「ごめんなさいけどそっちもでけぇ声だなごめんなさい!」


「どちらもそのとおーり!」


「だからうるせえっての!」


 ああ、懐かしいこのやり取り。帰りたい。もう帰ろっかな。ねぇ帰っていい?

 らいあとちくばを見るも、二人して否っぽそう。

 なんでぇ?俺居なくてよくね?え?よくないの?なんか話あんの?えぇー、後日じゃダメ?駄目なの?こんだけアイコンタクト出来てんだからいますぐこれでしてくんない?出来ない?そこをなんとか。


「あーうるさい。まったく、どっちもどっちじゃあないのかね」


「でやあぁあああああ!」


 きーさんもかよ! ほんとどっから出てくんだよ!


「縁の下からだよ。お前さん見てただろうに」


「……なあ、ちくば。俺の考えってそんなにダダ漏れなの?」


「そうかもねぇ」


「やっべぇ。笑える」


「何処でだい?」


 きーさんは呆れた様子で一つしかない座椅子に腰掛ける。

 なるほど、らいあがそれに座らなかったのはそういう訳か。


「お前ら、先に言っといてよぉ」


「ぼくは知らなかったよ。でもらいあが居るから大丈夫だから」


「私は気が付いていたがちくばがよいならよかろうと」


「まさもきーちゃんも言わなかったもんねぇー」


「ねぇー」


 ちくばはらいあと居るから無敵に近いモード。らいあは基本の油断大敵モード足すちくば案ずるモード。まさときーさんは一人一人が常に無敵モードなのにタッグを組んだら最強モード。俺普通モード過ぎでは?どうしよう。


「お前はそのままでよかろう」


「そうかもねぇ」


「そうね」


「そうでなきゃ面白味に欠けるからのぉ」


「いやホント俺の顔面そんなに感情漏れてんの?この歳になって初めて知ったんだけど」


 ケラケラ笑ってるけどきーさん、俺にとっちゃ大したことよ?


「るるは元気にやってるわねぇ」


 足を崩して座るまさはカラカラ笑った。

 あれですかね、俺の話しは終わった感じっすかね。


「ああ、流石るるだな。きーと現れた時には中々驚いた。見知らぬ土地に突然来て心配もあったが、数刻後にわらしべ長者方式の物々交換で鶏を手に入れてきた姿を見てすぐ消えた」


「何それまさ聞いてない。さっすがるる! まさも時短チャレンジしてみよっと」


「すんのかい!」


 思わず突っ込んじまったぜ。てか、るるすげーな。俺がわらしべやると最後鍋とかスプーンとか食器系になるんだよ。何でかね?鍋持って無さそうに見えるんかね?え?何、らいあ。「似合うんだろう」って?え?俺口に出してました?出してない?あ、俺がわらしべやった際の結末を毎度自分で話してるからご存知でいらした?さようで。


「わしもやってみるか。ちょうど鶏増やしたかったところじゃ」


「いいわねー、まさと競争しよーよ」


「そうじゃの。何から始めるかね?」


「るるとおんなじの。明日聞いてみるわ」


「そうしようの」


 盛り上がる二人。盛り下がる俺。

 明日やんのかな?村中をこの二人が掻き回す訳だよね?うん、家から出ないとこう。


「そうそう、らいあ、まさ泊めて」


「ここも君の家だ。何処もどれも好きになさい」


 そんなこと言ったらこの人ホントにそうするよ?らいあ懐でけーな。俺にゃ度胸無いわ。


「どの部屋も掃除は一応されているが、行き届いておらんところがあるのは勘弁してくれ」


「そんなもんよー。よろしくー」


 ちくばがちらちららいあとまさを見ているのは、たぶん自分も泊まりたいからだろう。

 あ、らいあとまさが頷いたと同時にちくばの満面の笑み。

 ちくば、お前さんもすげぇ肝っ玉だな。俺は帰るよ。いや、何その目。いや、帰るよ?帰らせてよ。絶対帰るからな?いや、ホント帰るって。しゅゆとせい帰ったじゃん! 俺も帰ったっていいっしょ!


「まさは今日着いたの?」


 俺を誘うのを諦めたちくばがまさに首を傾げる。


「ううん、一ヶ月位前からかな」


 嘘だろ。そんな前からだったのかよ。


「まさ居るのらいあ知ってたでしょ?」


「ああ、村に入ってきた気配がしていたからな」


「村の入り口から気配感じてんの!?すげーな」


 そんな感じれんの!?知らなかったわ。


「らいあだからそうかもねぇ」


「らいあだからね」


「らいあじゃからなぁ」


「まぁ、そうだな」


 さもありなんと頷く一同。

 らいあだもんな。有り得るわな。かなり、それはもうすんげぇ驚いたけどな。


「ずっときーちゃんの所に居たんだけど」


「嘘だろ嘘って言って! 俺何度も行ってたんだけどホント怖っ!」


 まさときーさんはしてやったりと笑っている。

 なんちゅう事だ。俺そんなとこに「きぃーさーん」ってのんびり行ってたわけ?すげーな俺。あ、知らなかったからか。


「そろそろるると遊びたいし出てきたの」


 カラカラカラカラ。まさの笑い声が響き渡る。

 るるもう起きてんじゃねぇかな。


「済まない。るると遊ぶ前にこれを見てくれないか」


 らいあの声色が重たくなった。


 

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