竹馬の友は竹に雀を思い笑む~後編
るる達が着いた時、ちくばは腕に抱えた編み籠を下ろし、そこから大型保存容器を一つ取り出していた。半透明越しに見えるのは、らいあとるると食べると言っていたにしては大量の照り焼きである。
やっぱりちくばさん、たくさん食べるん?るるもるるも、るるも食べるーん。
「唐揚げと照り焼きで迷ったんだけどね。甘い照り焼きにしたんだ。お口に合うといいなぁ。それにしても、一年で食器も家具も増えたねぇ」
室内で落ち着いたのか、にこにこと話すちくばと各々は好きな席にすわった。湯飲みを持ち上げてらいあが答える。
「そうだな。るるが来て増えて、そいつらが来て増えて、習字と書道教室の生徒もたまに食べて行くからまた増え」
「えええええっ!?」
ちくばの突然の大声に驚いたうしおが勢い良く上げた膝が食卓裏にぶつかり、卓上をドコンと揺らした。らいあとるるとせいはすでに持ち上げていたが、ちくばとうしおとしゅゆの湯飲みは倒れて茶を扇型に流した。
ちくばとうしおとしゅゆの湯飲みは倒れて茶を扇型に流した。しゅゆとせいが布巾を素早く滑らせお茶の流れを塞き止め、うしおは笑いと痛みに悶え、るるは「お茶もったいないるーん」と嘆きつつ棚へ布巾を取り出しに走る。
「あ、ごめんなさい! おおお茶をふふ布巾も」
「ちくばさんもう拭けるから落ち着いてるん」
「うぅ……」
小さくなって椅子に座るちくば。
拭き終えたせいが茶を運んで来て皆一口飲み、うしおが「で、何に驚いたんだ?」と問うた。
「らいあが教室を開いてる事に。それで、あの、ぼ、ぼくにも教えてほしい!」
人の瞳ってこんなに輝くんだなぁ、と思うくらいキラッキラに光っているちくばの瞳にうしおの笑いが増した。
何故るん。何故そこで笑うん。るる分からんるん。
「ちくばの腕前では教える側ではないか?」
「そんなことないよ! らいあ先生! お願いします! あー! 先生って呼んじゃった嬉しい!」
「お前がいいのならばいいが。他の生徒と学ぶことにな」
「うぇあお……」
「る、が、どうするかと聞こうとしたのだが」
「うぉぅぉうぉぉお」
頭を抱え唸るちくば。
囲いを作ったらどうかと提案するらいあ。
囲い!?と笑い声が大きくなるうしお。
うしおが騒がしいから今日は諦めると言うちくば。
そうしようか、では後日。と頷くらいあ。
その間、せいの持ってきたおかずを黙々と並べるしゅゆとせい。
興奮始まるるる。椅子から立ち上がって反復横飛びしたいるる。食卓前でしては危ないから(振動で溢れてはもったいないるん)しないかわりにらいあの髪の毛を編み込み始めるるる。
すごいるんすごいるん! おにぎり二十個、人参と玉葱といんげんとじゃがいもと小海老のかき揚げに豚肉の天ぷら、切干大根煮(鳥そぼろ入り)、りんごのコンポート! なんてことるん! しかも温かいるん! なんてことるん! るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるん!
鼻息の荒いるるの背を撫で、らいあはちくばに問い掛ける。しゅゆとせいは冷めた照り焼きを温めにうしおを引きずって連れて行った。
たぶん笑いすぎだから気を利かせたのかな。
「しかし、ちくば。るるが来てから会わせたいと思ってはいたのだが、その前にるるのこと知ったのだな」
「うん。竹林でるるちゃんと会った後にきーさんに会ってね。さっきの子がるるちゃんで、らいあの子だって聞いたんだ」
「きーさん、しんしゅつきぼつるんね」
「そうだな。私達が幼い頃からだな」
「そうかもねぇ。きーさんは何処にでも居るから、もう気にならなくなったよ。人の気配があまりしないのもあるけれど」
「そうだな」
「るーん?ちくばさんとうしおはらいあと幼馴染みなのにるるを見たことなかったるんよね。るるってここに来なかったるん?」
「ああ、産まれた音風国でそのままずっとな。私は音風の風土が体に合わなかった事もあってな、一人でこちらに戻って来た。文は送り合っていたが、それだけでは汲めぬ事ばかりであったろうに。まさとるるに悪い事をした」
「るるはそんなことないるん。この間までお父さんの事これっぽっちも気になってなかったるん」
「これっぽっちも……そうか、それなら、そうか、よかった……そうか、これっぽっち」
らいあの首が前九十度に傾いた。両手を組み卓上に載せている。
滅多にないらいあの姿を心配そうにちらちら見ながら、ちくばは小首を傾げた。
「あの、もし聞いて良ければ、教えてもらえるかな。るるちゃんはどうしてオン国、というかこの村に?らいあが呼んだのかと思っていたけれどなんだか違うようだね」
「あのね、まさちゃんが『らいあ年取ったかしら?』って気にしててね。『らいあって誰?』って聞いたら、『まさのパートナーでるるの父親』って言うから『じゃあちょっと見て来るーん』って事で来たるん」
「ま、まさかの理由。え、一人で?」
「ちょうど遊びに来てたきーさんと行商の荷台に乗って来たるん。まさちゃんときーさんがおともだちだったるんから、まさちゃんがきーさんと行きなって言ったるん」
「さすがきーさん神出鬼没だねぇ」
「そうだな。まさは幼少期はここに住んでいてきーと友人なのは知っていたが、きーがまさの実家を訪ねている事は知らなかった」
「るん?じゃあ、ちくばさんとうしおもまさちゃんと幼馴染みるん?」
「そうだよ。と言っても出会った場所はこの村ではないんだ。そういえば、うしおはまさから逃げるけど、ぼくとまさは日常会話を出来ていたなぁ」
「想像できるん」
「そうかもねぇ」
いつの間にかしゅゆ達が湯気薫る鳥の照り焼きと共に帰ってきており、しゅゆが「まさって誰?」と聞くので「らいあのパートナーでるるのお母さんるん」と答えると「呼び捨てにしてごめん」と謝ってきた。「呼び捨てはまさちゃんもらいあもるるも気にしないるん。むしろ奥さんとか呼んだ方が濃い青汁飲ませられるん」と教えておく。
「私はよく飲ませられたがうまかったぞ」
ちくばが取り分けた山盛りの鳥の照り焼きから少し目を逸らして言うらいあ。
大丈夫よ、るるも食べてあげるん。あれ、青汁飲んだんでなく?飲ませられたるん?
「何したんるん?」
「まさは私からよく逃げていた。追いかけないと何故か飲ませられた。うまかったから追いかけない日が増えたらやたら濃厚になってな。それも飲めたがなんとなく、まさにとっては追いかけた方のがよいんだろうと思ってまた追いかけるようにした」
「らいあ、ナイスん」
「そうかもねぇ」
「だなぁ」
頷くるる、ちくば、うしおだが、しゅゆとせいは顔を見合わせていた。
「さて、食べるか」
らいあの宣言に、うしおは「唐突だなぁ」と言いながらも照り焼きの湯気に顔を入れた。
結局ちくばは全員に取り分けたし、らいあとるるは家にある箸と小皿を全て卓上に並べた。
せいとしゅゆは茶と白湯を用意して、うしおはずっとケラケラ笑っていた。
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