竹馬の友は竹に雀を思い笑む~中編~

「と、とぅくぅあぅ」


 え?とうくう?十食う?おかず十種類?ご飯十杯?いっぱい食べれていいるんけど、るるには用意が難しそうるん。


「らいあ、ちくばさん十杯食べるん言うてるん?うちにはないるんねぇ。らいあ、るるとご飯買いに行くん?」


 らいあは首を振った。違うようだ。ふと気付けば、その手に持っているのはやたらと分厚い封筒の郵便物。宛名は裏側になっていて見えない。


「ちくばは十杯も食べんぞ。先のは鶏肉が有ると言っている」


 と! り! に! く!


「鶏肉食べるん鶏肉食べるん鶏肉食べるん。生肉るん?調理済みるん?量は?焼くるん?煮るん?炒めるん?蒸するん?味付けは?」


「るる、落ち着きなさい。恐らく火は通っているものだ。ほれ、るる、ちくば、入れ。まずは茶を飲もう」


 らいあが声を掛けると、ちくばはシーツごと移動しようともぞもぞし始めた。

 立てるん?転がるん?あ、立つんね?あれ、しゃがんだるん。ヨロヨロしてるんけど、た、立てるん?あ、立った。立ったるん。立ったるんけど歩くん?なるほど、シーツを回転させて進むんね。るん。行けそうるん。そしたら、鶏肉るん!


「よーし、食べるん食べるんるる食べるん。お茶るる入れるん飲むん。そしたら食べるん」


「るる、私が茶を入れよう。るるはちくばをちよっと引っ張って来てくれないか」


 るん?引っ張って?

 歩いていたのにと思い見ると。


「あ、転がってるん。わかったるん、ちよっと引っ張ってくん」


「程ほどにな」


 らいあの背を見送り、るるはちくばをよっこらしょと引っ張って立たせた。


「ごめぇ……」


 山羊が好みで無い野菜を食べた時のような(るるのイメージるん)声の謝罪が聞こえた。るるは首を振る。


「るん。ちくばさんは人がこわいるん?るるは人はこわいと言うより謎るんね」


「なぞ……?」


「謎。るるは人と居るとはてなが毎日出るんよ。なんでいまそんなこと言うんるんかなー?とか、なんでそれしてるんかなー?とか、るん。人はみんな謎過ぎて面白いとかこわいとかでなくて、ただただ謎なのるん。でもだからといってるるはるるるん。なんかする訳でもないの。るるはるるるんから」


 ちくばは「るるはるるで。人は謎……」と呟いた。


「そう、謎なのるん。例えば、木の裏に隠れ切れていないのに隠れていると思っているのか声出さずにめっちゃ笑ってるうしおとそれをぼんやり見てる隠れてないしゅゆとか、るん」


「あはは! バレてたか」


 声高らかに豪快に笑い出したうしおは「アハッ、や、あははっほー、アハハハハッ」と笑いたいのか挨拶したいのか分からない挨拶をして、しゅゆは「黒糖まんじゅう作って来た」と笹の葉の包みを持ち上げた。しゅゆはまんじゅうだけ作れるのだ。しかも味の種類は豊富でおいしい。


「今日は黒糖るん! 食べるん食べるん食べるん食べるん食べるん」


「食べよう。多めに持って来たから」


「るん、せいは?」


 しゅゆはこの村に居る時はせいの家で暮らしている。せいと行動を共にする時も多々あるので、今日も一緒かと思ったのだ。


「せいは後で来るよ。にりんの手伝いしてから」


 にりんはせいの叔父、おおばのパートナーだ。せいの隣家に住まい兼店舗を持ち、二人でおかず屋を営んでいる。たまにせいやしゅゆは手伝いをしているのだ。


「びひぃ……」


 漏れ出た微かな悲鳴でちくばを思い出したるるは、二人に互いを紹介した。


「ちくばさん、しゅゆるん。しゅゆ、ちくばさんるん」


 ちくばはピクピク動くだけだった。

 しゅゆは「へぇ、そう」と言っただけだった。

 以上。

 るるには想像通りだったが、ちくばには意外だったのか、「ぷぇ」と萎み終わりの風船から抜けた空気に似た声がした。


「ちくば、しゅゆはいつも何処でも誰とでもこんな感じなんだよ。こいつにゃあ、肩肘張ってんのも面倒なんだぜ」


 笑い悶えから抜け出したうしおはちくばの肩らしき部分をバシバシ叩き、「なんかお前いい匂いするもん持ってんだろ?出せよ」と悪そうなセリフを吐いている。

 ちくばは俊敏に避けつつもたまに避けきれず叩かれながら、「ら、らいあとる、るるちゃんに持ってききき来たからっ」と懸命な抵抗を行っている。

 うしおはチェッ、と口を尖らせ、「お前はらいあ好きだからなー。おれも好きだけど」とニヤリ笑いをする。

 それ、らいあの前で言わないでね、るん。うしおに好きなんて言われたら、らいあ寝込む。


「ぼ、ぼくのが、らいあ好きだよっ!」


 ちくばが前のめりに宣言する。


 なんだろう?ちくばさんがかわいく見えてきたるん。

 隣に来たしゅゆが「あのシーツかわいいね」と気怠げに呟く。本当に怠いのかなと思う程にしゅゆは気怠げな言動がベースな人なのだ。

 はて、シーツるん?柄?葉の柄が?あれは確かオリヅルランだったるんかな?


「オリヅルラン好きるん?」


「オリヅルラン?へぇ、なにそれ。何処で区切るのかな?区切り方によっては人名にも聞こえるね。食べ物?」


「シーツの柄の葉っぱの名前るん」


「ああ、葉っぱの。いや、初めて知ったな。柄に気付いて無かったよ。さっきは中身のこと」


 中身。中の人でなくて。しゅゆらしい物言いるん。


「るん、るるもそう思った」


「きーさんがうしおのことをよく『小憎たらしい』と表現するけれど、あの二人が並ぶとなんとなく分かる気がするよ」


「そうるんか」


 かわいいと小憎たらしい。甘いとしょっぱいみたいな?るん?


「お前たち」


 るんっ。ほんと、この人の声は不思議とあったかいるんねぇ。

 決して大きくない声はスッと胸の真ん中を貫く様に通り、深く腹の底まで響いて辺りにも広がった。るるの場合、胸からじんわり温まるものが全身へと広がって一気に心が落ち着くのだ。


「ら、らいあぁ」


「おぅ! らいあ」


「らいあるーん」


「やぁらいあ」


 異口同音に名を呼ぶ。呼ばれた当人は呆れ顔で柱に寄り掛かって立っており、閉じた扇子を顎に添え、「まとめてみな上がれ」と言った。更にるるの後方へも呼び掛ける。


「せい、お前もだ」


「はっ、はい!」


「るん?」


 振り返ると、しゃがんで丸まったるる程ある風呂敷を抱えたせいが困り顔でオロオロと立っていた。


「せい、いらっしゃーいるーん」


「おおおおお邪魔します」


 せいの声がところどころ裏返る

 知らないシーツ(ちくばさん)も居るし、わちゃわちゃしている中に声を掛けづらかったに違いないるん。

 せいの元へ走り、手を取り引っ張る。案の定、その手は緊張でだろう冷え切っていた。


「るん。ちくばさん、せいるん。せい、ちくばさんるん」


 緊張を解すのにまずは知り合いになればと思ったら、せいはもっとガチガチに固まってしまった。


「こここここここここんにちは。はじっ、はじじめましてっ。せせせいです。よろ、宜しくおぬおねっ、お願いいい致しますっ」


 せい、風呂敷そんなに抱き締めてよきるん?香ばしくていい香りしてるんけど、なんかはみ出たり溢れたりしない?


「あ、こちらこそ。ちくばです。宜しくお願い致します」


 ちくばさんが急に冷静沈着るん。

 うしおは「あれだな、緊張してるやつ見ると逆にこっちの緊張冷める的なやつだな」とニヤニヤしている。

 なんのニヤニヤるん?


「そうなのるん?」


 ちくばに問うてみると。「そうかもねぇ」と返って来た。

 おおぅ、ちくばさんが背筋真っ直ぐで竹林無敵モードに入っているん。


「お前たち、昼飯がおやつになるぞ」


 家に入っているのはまだらいあだけである。庭から縁側に上がるのにどんだけ掛かっているのかとらいあが呆れているのが分かる。

 うむるん、同感るん。


「食べるんどっちも食べるん。らいあ、しゅゆが黒糖まんじゅう作って来てくれたんるん」


「うん、多めに持って来たからみんな食べて」


「いただこう。しゅゆのまんじゅうはうまい」


「え、あ、そう、へへ」


 らいあのストレートな褒めにしゅゆが戸惑いながら照れた。

 わかるん。らいあに褒められるとすーっごーく嬉しくなるん。それにしても珍しいるん。どちらも珍しいるん。いい光景るん。目に、というか脳に染み込ませておこう、るん。


「せいも食べ物るん?


「あ、うん。あの、にりんが、あの、この前の猫鬼ごっこのお礼にって、いろいろ持たせてくれて」


「ああ、あん時のな。ありゃすごかったよな。そこらの猫たちが村中を駆け回ってて」


 ケラケラ笑ううしお。


「うん、きみも原因の一端だけどね」


  しゅゆが突っ込むなんて相当な事である。そしてその相当な事をしても笑っているのがうしおである。

 なるほど、確かに小憎たらしいかもるん。


「是非ともいただこう。ほら、おいで。茶が沸いたぞ」


「はーい」とみんなが縁側からぞろぞろ上がり始める。ちくばはどうするかと思いきや、「ハッ!」と気合いの入った声と共にシーツのチャックがシュバッと一直線に開かれ、瞬時に躍り出た人影がみんなの間を縫って廊下を走り去って行った。


「アハハハハッ! すげぇな!」


「るん?」


「へぇ、足が速いんだね」


「え?え?」


「ふむ、無事殻から出られたな。よい抜け殻だ」


 抜け殻って、らいあ、蝉じゃないんだから、るん。



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