竹馬の友は竹に雀を思い笑む~前編~

「おかえり、るる」


 常の二倍は機嫌のいいらいあが出迎えてくれる。

 何故分かるかと言うと、口角がミリ単位で上がってるんよ。目尻もミリ単位で下がってるん。あとは一緒に暮らしているから動く勘るん。なにか良いことあったるーん?らいあがご機嫌でるるもよりご機嫌るーん。るんるん。るるるるるん。

 帰宅時はらいあが頭を必ず撫でてくれるので、ちこちこと近寄る。


「ただいまるん。るる、今日はオオイワナに勝ったるん」


「そうか。それは逞しい」


 るるの頭をらいあの手がさそさそ撫でる。

 るーん。ちょっとこしょぐったいるん。と、視界の端に小山を捉えた。

 るん?布団カバーに入った小山?


「らいあ、布団カバーの形が小山るん」


「ああ、あの中は布団ではない」


「あ、動いてるん」


 呼吸をしているリズムで微かに動いているので、中に生き物が入っていそうである。

 らいあは頷いた。


「るる、紹介しよう。私の友人のちくばだ。ちくば、るるだ」


 らいあが小山に呼び掛けると、小山はぷるぷると震えた。手を振ったのかもしれない。

 人だったるん。でもなんでかゼリー食べたくなったるん。プリンやババロアも可。あれ、ちくば?

 頭の中に浮かぶは竹林で食べた焼鳥だ。


「ほー、竹っぽい名前るんね。もしかして、とり肉串の人るん?」


 らいあの目が細くなった。

 お、当たりるんな。


「そ、そそぅ……うぅ、かぁ、か、か、かぁもね、ねぇ」


 小山から、包丁二本で微塵切り中のまな板並みに震えた蜘蛛の糸程か細い声が返ってきた。

 あらま、ものすごい震えてるん。


「やっぱりるん!お久しぶりるーん」


 あらま、体も震えてるん。寒い?寒いんるん?だから布団カバーに入ってるん?今日は汗ばむ日射しと涼しい風のコラボレーションがなかなか風情ある一日と思ってるんけど、寒い人も居るかもしれないるんね。

 足湯が良いかな?あ、辛めの昼飯を食べてもらうのも良いるんね。何にするん?豚肉の生姜焼き?鶏の南蛮焼き?あ、焼いてばっかるんね。鯖の煮付けに生姜多め?あれ、鯖は今朝食べたるんな。そうだ、胡椒を少し卵に混ぜて卵掛けご飯にしてみるのはどうるん?葱や焼き海苔を乗せて醤油を掛けるん。バターかオリーブオイルでもあるともっといいるん。るーん。お腹減ったるーん。


「なんでとり肉串の人は布団カバーに入ってるん?寒いるん?足湯するん?辛いもの食べるん?」


「ひ、ひぃひ、ひひ、ひひひ」


 ちくばの口からひが二十個出てきた所で、るるはらいあを見上げた。


「ちくばさん笑ってるん?」


「いや、あれは話そうとしているがいつもの通り失敗しているところだろう」


「竹林では同じ文だったけどそうでもなかったるんよ。イントネーションに富んでたるん」


「こいつは竹林では向かうところ敵無しだからな」


「なにそれカッコいいるん! 無敵ってことるんよね。るるも、るるもどっかでは無敵になるん! あ、そうるん! らいあと居る時はるる無敵になることにするん」


 えっへん! と胸を張り両足を地面に確と下ろし、るるは無敵になった。

 だって、らいあと居るんから。るんっ。


「はははっ、そうか。私と居る時のるるは、無敵になるのか」


「そうるん。るるは無敵るん」


「はははっ」


 滅多に無いらいあの笑い声に、日向ぼっこをしていた猫のひめめと鶏のこけーここが一心不乱に逃げて行った。

 良い声で笑っただけなのになんで全速力で逃げるん?らいあが気付いたら傷付くから、るる、絶対言わないるん。


「ひ、ひとが」


 あ、ちくばさん忘れてたるん。


「ひとが、るんね」


「そそそそう、人があぁおおぅお多くて」


「人が多いるん?……るるとらいあしかいないるんよね?」


「ふむ。正確に言うと、人の気配が多い、ということだと思われる」


「なるほどん。人の多い村だからるんね」


「ひ、ひとがいいいいいいいいいおそ、おそそそそそそそそ」

「ちくば、君の言葉を私が推測して進めるぞ。人が居る気配も恐ろしい、と言いたいのか?」


「はひぃ」


 返事と同時に小山がベコッと凹んだ。

 頭を下げたるんか?勢い良過ぎてびっくりしたるん。動き速いるんねぇ。


「なるほどん。それはそうと、家の中には入らないのるん?」


 今、るる達は洗濯物を干す側の庭に居る。屋敷の南東から東側を開いた所だ。小山=ちくばは物干し竿の真下におり、らいあは縁側に座っているのだ。


「これから入る予定だ。ちくばは私が洗濯物を干している時に来た。月に二度程来る行商が居るだろう?旗がフェレット柄の。その行商の荷台に乗せてもらっていたが寝ていたそうでな。村の外れで降ろしてもらう筈が中まで来てしまって、慌てていたら荷台からこの家が見えたから飛び降りて来たと言う。始めは頭巾付きの愛用の外套を着ていてまだ良かったのだが、外套の釦が外れたんだ。しかも五個とも全部。釦穴が大きくなっていたんだろうかな。そして風が強かろう?外套がはだけてはためくだろう?まつごろうからしたら、遊んでくれていると思うだろう?ああ、ちくば、まつごろうとは先の犬の名だ。松ぼっくりが好き過ぎる子でな。元気の値がほぼ最大値に常に振り切れているが、優しい子だよ。それで、まつごろうは外套を玩具だと思うだろう?玩具をまつごろうの部屋に集める癖があるだろう?だからまつごろうは玩具と思った外套を持って行くだろう?持って行かれたら、ちくばが動けなくなってな。間の悪い事に郵便配達員が来たものだから、混乱を極めたちくばが今さっき洗って干した布団カバーに飛び込んでチャックを閉めて三分後にるるが帰って来た」


 こんなに長く話すらいあを見るのは、昨年の秋に釣りをした時以来るん。五回連続バラシて嘆いていたるるを励まし続けてくれたらいあのおかげで、川に入って素手で直にイワナ掴んだんるん。

 ……あれ、結局釣りしてないるんね。まぁいいるん。


「なるほどん。それでさっき擦れ違った郵便屋さんに『あの、らいあさん、お一人で対応大丈夫ですかね?』って八の字眉で聞かれたんるんね」


「十中八九そうだろうな」


「ぎょひかきぇたぁ」


「るん?」


「ご迷惑を掛けてしまった、か?」


「もびなぅ」


「申し訳なくない。まぁ、布団カバーは洗ってくれると助かるが」


「うぁぇ」


「そうだな」


 あかん。ちくばさん何言ってるかるる分からんるん。


「らいあ、るる分からんるん」


「問題ない。これは経験値によるものだ」


「じゃあ、るるも分かるようになるんね」


「そうだ」


「るんっ。ちくばさん、取り敢えずお昼食べるん」


 ご飯ご飯。なんてったってご飯るん。


「と、とぅくぅあ」

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