いまのうちつみき
「あのね、いま、いまのうちにしておかないとと思ってたにょ」
積み木らしくない積み木を積み木らしい積み木に乗せ、はばたきはぽつりと言った。
つみきらしくないつみきはつみきになるためにつくられたのではないから、つみきらしくなくてよいの。かるくてわれないからあんぜんなの。
のびるといっしょにおたがいの家中からあつめてきたから、楽しいおもいでもいっしょにつめるの。
「なにゅを?」
問いながら積み木を積み木らしく用いないでいるのは、のびるだ。
つみゅきはつみゅきとしてちくらりたんだけど、つゅむだけじゃなくてもよいんでないかなとおもうにょ。しきゃくやまりゅやひちがたやらが、くるりんくるりんとおそらにあがってさがってすりゅの、みちるのたのちいのよ。
「んぱっ?なにを?」
はばたきは問われて困った。
そうだ、なにをなんだろう。あれ?なにをなんだろう。ほんとだ。なにをなんだろう。
「うん、なにゅを?」
のびるは聞いてみて考えた。
いみゃのうちにゅとおもうこちょはのびるみょありゅなぁ。なにをおみょったか、わちれたけど。
「なにを……なにをだったかなぁ?」
積み木が一つ、低い机の上にコトリと溢れ落ちた。
「んぽっ?なにゅをだったかなぁ?」
積み木が一つ、宙をひょーいと舞った。
「うーん、わすれた」
なんてこと。あせりはあるのにしたいことが分からないなんて。あれ、そう、ほら、ここ、のどのここまで来てるきがするのに。んむふー、もやもやするぞ。かなしいぞ。
「ふーむ、わちれたの」
あんりまあ。はばたきがこまっちいりゅ。げんきがにゃい。あせっちもいりゅ。はないきが、んむふー、としちいりゅ。ふむふー、のびるもしちみりゅぞ。ふむふー。
「わすれちゃった。たいせつだったらどうしよう」
あせっているから、きっとたいせつなことなんじゃないかしら。どうしよう。
はばたきは鼻をスンと鳴らした。そうすると、ちょっと悲しみが薄まるのだ。
「わちれちったなりゃ、わちれちったでいいにょでないの」
あせっちぇいるのね。でみょ、あせっちぇもいいことあんまりないのんよね。あせっちぇいると、のびるはあせがでてあちくなりゅからやんなんなのだ。だかりゃあせっちぇとき、のびるは、はなからあせっちぇをだしちゃうのだ。
ふむふー。
のびるは唇を鳥の嘴を真似て、へにょりくいっと曲げた。そうすると、ちょっと落ち着くのだ。
「わちれちったらわちれちったでよいのでないの?」
それはなんて、手からウロコ、いや、目からウロコだったかしら。
ともかく、はばたきに無かった新しい思考だった。
「うん」
はばたきのおめめがキラキラしちいる。はばたきがキラキラしちいるとのびるもうれちい。
「そうなの?そうともかんがえられるの?」
はばたきは積み木らしくない積み木の上に積み木を一個積んだ。
「うん。そうなにょ。そうとみょかんがえりゅの」
のびるは手に持っていた積み木を置いて積み木らしくない積み木を一個持った。
「なるほどん、そうかもね」
はばたきは立ち上がった。足が痺れそうだったので。
「そうなんだかみょにぇ」
のびるは座った。お菓子が食べたくなったので。
それからはばたきはすっかり元気になって、のびるといっしょにお菓子を食べた。
その内「暗くなる前にそろそろお帰りなさい」とのびるのおばあちゃんが言いにきて、頷いたはばたきはのびるに手を振った。
「ありがとう。うんじゃ」
のびるが抱きしめてきたので抱きしめかえす。
「こちらこそ。あいじゃ」
のびるははばたきをそっと離して見送った。
別れた後、てけてけと歩く内なにかを思い出しそうで、はばたきはまだまだてけてけして行く。
いつもはのびるとはなれるのがさびしいから、はしっちゃうんだけどな。
てけてけテケテケ、ちこちこチコチコ、曲がってふみふみ、上がってオイッチニ。
「おうっ」
常より太い声を出し止まる。背筋が伸びた。
スッキリした、と背伸びをする。
「そうだそうだ、思い出した。かした本をかえしてと言おうと思ったの」
思い出して良かった、と歩き出す。
てけてけオイッチニ、チコチコ曲がってふみふみ。
「おうっ!」
また止まる。ついつい背筋を正してしまう。
「そうじゃん。良くないじゃん。きょうも言えてないじゃん。この前もそうだったじゃん。まあ、こんどはかならず言うじゃん」
次はきっとはばたきのおうちだな、いつ会えるかな、と再び歩き出しながら、その時のびるに伝える自分の姿を想像する。
「あのね、いまのうちに言うけれど、かした本かえしてほしいの」
「あのにゃ、いまのうちに言うけりぇど、かりた本もっちくりのわちれるの、ぎょきゃいめなの」
「ありまー」
「あらまー」
ありえる。たぶんそうなるかも。いつになったらかえってくるかな?二巻をかしてもらえたから、一巻からよみかえしたいんだけどなぁ。そういえば、のびるはきにいったかな?よんでどうおもったかな?
はばたきは自宅の鍵を取り出そうと、鞄を開いた。中にはのびるがくれた、のびるが作った香りを入れた保湿軟膏の瓶があった。
それを見つけ、はばたきの頭にピン!と何か閃いた。
そうだ!のびると本のはなしをしよう!そうしたらきっと楽しいし、もっとものがたりのせかいにちかづけるかも。
二人でいるだけで楽しいから、いつもあんまりはなさない。でもきょうは、のびるのかんがえにおどろいてうれしくなった。のびるのすることはいつもたのしくておもしろい。きっと、のびるのおもうことやかんがえることも、はばたきにとっては未知で楽しいものなのかも。
そうだそうだ、そうしよう。
るんるんぴょんぴょんたしたしくるりん。
はばたきはわくわくして鍵の束をキンキン鳴らしながら踊った。
それから、手紙が届いていないか郵便受けを開いた。今日遊んだばかりだから届いているはずはないのだけれど、分かっていても開きたくなったのだ。
いつ届くかなぁ?明日かなぁ?明後日かなぁ?
わくわく、わくわく。
はばたきは窓から明かりの溢れる家の扉を、鼻歌をうたいながら開いたのだった。
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