第3話 あたしは、幽霊なのか証明を
「それ続ける気? どうでもいいわよ、私が幽霊か、違うかなんて」
「貴様はこんな真夜中に出歩いている! 女子高生はそんなことしない」
「あんたも女子高生じゃなかったけ。ブーメランね」
言われれば確かに⁉
確かに、カニカニだけど、あたしにはアリバイがあるんだ。名探偵だって論破できない、とっておきのアリバイがね。
「あたしはテスト勉強の休憩で散歩してんだ」
すると慧知水月は手に持つ教科書を持ち上げる。
「私も勉強の気分転換よ。まっ、私の場合は勉強しながら、休息を取っているわけだけど」
「休み時間に勉強は、バカだろ」
「あんたには言われたくないわよ⁉」
教科書に皺が出来るほど握り、眼鏡の位置を直した慧知水月は目を細めて睨んできた。
「そういうあんたこそ、幽霊だったりして」
「あたしが幽霊? おいおい、眼鏡の度合ってるのか?」
逆に幽霊の疑いをかけられたあたしは、様々なポーズを決めて、魑魅魍魎じゃないことをアピールした。可愛いポーズから、セクシーポーズまでそれはそれは、百面相の可憐さだった。
「死んだ海老の真似かしら」
「違うよ。仮面ライダーとプリキュアと、ザビエルを合体させたポーズだぞ」
「それで魑魅魍魎の格好をしていたのね」
慧知水月は、両手を胸下で組み、ジト目を向けてくる。
生き人って証明をしようとして、余計に妖怪扱いされてしまった。
「もういいわ。私は大人しく帰らせてもらう」
「ちょっと待った」
踵を返して背中を見せた慧知水月に、ちょっとだけ声を大きくして言った。
慧知水月は足を一度止めて、肩越しに視線を送ってきた。本当に面倒くさいと言いたげな目で見てきた。
だが、あたしは負けない!
いや、彼女とどんな勝負をしていたか忘れたけど。勝負自体申し込んだ記憶もないけど。
「いいの、慧知水月。あたしはよくないよ!」
「何がよ……。主語と述語をしっかりしてくれない」
「あたしと慧知水月が、幽霊か、違うかの答えを知らなくて」
「興味ないわ。あと、わざわざフルネームで呼ばなくていいから」
「水月ちゃん!」
「いきなり名前呼びなのね、まあいいけど……」
よしよし、名前呼びを本人に許可されたね。
水月ちゃんは、再びあたしに体を向けてくれた。興味がないと言いつつ、実は興味津々なのかもしれない。
「では質問です。あたしは幽霊、それとも幽霊じゃない。ラストアンサー?」
「まだ答えてないって。はぁ……あんたはそうとうバカね。私と一緒の高校に在籍するのが、誠に信じ難いわ」
ちっちっち、と指を振ると、水月ちゃんが苛立ちを隠さず不愉快な顔をする。指振っただけなのに、そんな態度だと友達ができないぞ。
「バカと天才は紙一重って言うし、バカと鋏は使いようとも言うからな。鋏で紙を切ってしまえば、バカと天才は天才なんだ。つまりな、あたしをバカと言うと、あたしは天才になるんだぞ」
「トンデモ理論過ぎるわよ。もうどうでもいい、あんたは幽霊ではないんじゃないの。はい、私の答え」
「大正解」
両手で大きな丸を作る。
しかし、自分が本当に幽霊じゃないって、己は認識してるのかな。無知の知的に幽霊ということに気付いてないだけとか。うーん、考えれば考えるほど、テスト勉強で覚えた単語達が頭から旅立って行く気分。
不安になってきたから、不安げな声色で訊くことに。
「あたし……本当に幽霊じゃないよね?」
「えっなに、あまりにもバカ過ぎて、自分が死んだことにも気付いてないとか」
「……」
水月ちゃんは教科書を肩に乗せ、呆れた表情を浮かべた。だけど急に、顔を青白く染めると教科書を盾のように持ち直した。
「えっ、あんたって……マジの幽霊なの」
「うん、否定が出来なくなった」
だって自分でも分からなくなったからね。だいたい、天才なあたしがテスト勉強をしている時点でおかしかったんだよ。テスト勉強しないなら、真夜中に散歩なんてしないはず。結論、幽霊じゃん!
「ゆ、幽霊なんて非科学的よ。あり得ないわ」
「水月ちゃん考えてみて。幽霊の存在を非科学的って単語だけで表せる? 無知の知だよ、思考を巡らせるんだ」
「もしかしてあんたって、幽霊の存在になって幽霊を証明しようとする、天才幽霊なの。……いや、そんなことやっぱりあり得ない。常識的におかしいわ」
「人呼んで天才幽霊のあたしが水月ちゃんに質問するけど、幽霊がいないって常識なのかなー? なんで幽霊いないことが常識か説明してよ」
「うぅ……」
戸惑い気味に後ずさりした水月ちゃんはシースルーの上着を深く着た。
わぁっー、なんか知らないけど、楽しくなってきたぞ。
学会で偉そうな先生みたいに、本当に偉いんだけど、そんな感じで話しかけた。
「水月ちゃん考えるんだ。問題から逃げちゃダメ、バカになっちゃうからね」
「あんたが天才幽霊でも、元が奈良町絵馬ってバカだからかしら。あんたにバカって言われると無性に腹が立つわ、業腹だわ。おかげで恐怖が薄れた」
「それは良かったね」
笑って応じた。
「ええ、良かったわ」
水月ちゃんもスマイルで返してくれた。けど、目が全然笑ってないね。よく見るとスマイルでもなかった。ただの冷笑だ。
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