第112話 復活の呪文と不死軍団
安堵の息を吐いていたダリオは、突然の魔力を含んだ風に視線を上げた。埃が巻き上げられ視界が効かない。それでも、素早く動いている
「あぁ!」
マナテアの悲鳴が響く。動いていた
「マナテア!」
思わず叫んだ。ゴラルの時と同じだった。またもや油断が危機を招いていた。ただ、襲撃者の
「
視界が利かなくとも、
「ガハッ」
「俺が追う」
ウェルタの声が響くとともに、回復しはじめた視界の中で、サナザーラが何かを投げていた。ナイフだろう。襲撃者のことはウェルタに任せ、マナテアに駆け寄る。彼女が治療していたゴラルの胸に、頭を付けるようにして倒れていた。左の胸から脇腹にかけ、墨染めの喪服がどす黒く染まっている。かなりの出血だ。
ただ、マナテア自身が
「僕が
「我、ダリオが祈り奉り、奇跡を招来す。
マナテアが魔法を止め、苦しげに呟いた。
「効かないの……」
意味は、すぐに分かった。
ミーナを治療した時に似ていたが、生命力を吸収される早さが段違いだった。ダリオが、必死に魔力を注いでも間に合わない。
「お嬢様……どうなっている?」
マナテアが治療したおかげで、ゴラルは意識を取り戻したようだ。彼女の体を支えながら、身を起こして尋ねられた。だが、ダリオは答えを持っていない。ただ首を振り、魔力を注ぐ。
「
「
サナザーラが、ダリオの背後に来ていた。
「奴らが、
「どうしたらいいの?」
「妾には分からぬ。スサインに聞け」
「無理だよ。あそこまで保たせられない!」
マナテアの生命力は、急速に失われていた。もう顔面も蒼白だった。ダリオが
「僕が運ぶ?」
ミシュラも不安そうな顔でのぞき込んでくる。確かにミシュラに運んでもらえば、移動は速くなる。ただ、ミシュラに運んでもらうとしても、
「とにかく
ミシュラも変身を繰り返すことになる。苦しいはずだ。それでも、今は頼むしかなかった。ロバに変身してきたミシュラの背にマナテアを乗せる。もう意識が遠のきかけているようだった。マナテアの体が落ちないように支えながら、
「ダリ……オ、あり……が……」
この状況で言われる礼は、不吉すぎた。
「しゃべらないで!」
少しでも体力を使わせたくなかった。それ以上に、不吉なことを口にして欲しくなかった。握っていた彼女の手から力が抜ける。
『
確かめる余裕はなかったが、もうマナテアの心臓も止まっているかもしれない。それでも希望は捨てなかった。
「鼓動が!」
体を支えたゴラルが気付いた。
「
ゴラルには見えない。それでも、マナテアも
「大丈夫なのか? どうするつもりだ?」
少なくとも、彼には説明しておいた方が良かった。
「
「お嬢様をアンデッドにするつもりか?!」
ゴラルが気色ばむ。予想した通りだ。ダリオは、首を振って答える。
「違います。アンデッドにするのではなく、生きた人として復活させるんです。できるはずです!」
「本当に、そんなことができるのか?!」
声を荒げるゴラルに、ダリオもできる限りの声を張り上げる。
「まだ教会の言うことを信じるんですか?!
ゴラルは、口を引き結んで押し黙った。
「不死王カスケードにはできた」
唐突に言ったのはサナザーラだ。ゴラルが驚いた顔で見つめる。
「何を驚く? 不死の軍団を率いる不死王じゃぞ」
「やはり、そう言う意味だったんですね」
失敗ではない
「じゃが、今のダリオにできるとは限らぬ」
厳しい目で見つめられる。それは、ダリオも分かっていた。
「僕にもできるかどうか分かりません。だから、スサインに聞いてきます」
そう告げてから、尋ねる。
「マナテアの
ダリオの
「分からぬ」
この地下通路を最後まで通り抜けることは大変だ。マナテアの
右手でマナテアの
「祭壇の裏、アンクの下の扉を開けて下さい」
ゴラルに頼むと、彼は不安な顔をしたまま開けてくれた。
「サナザーラは、マナテアの体をお願いします。それとランプを」
地下に大量にいるアンデッドの
「妾がか?」
当然、付いてきてくれると思っていたが、サナザーラが驚いた顔をしていた。
「他の人は入れません。ザーラにお願いするしかないじゃないですか」
そう言うと、彼女はしぶしぶと言った呈で、ランプを手に下げ、両手でマナテアの体を抱え上げた。どうも、着いてくることよりも、マナテアの体を運ぶことに抵抗がある様子だった。しかし、そんなことに構っていられない。
「ここで待っていて下さい」
ゴラルとミシュラに告げて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます