第108話 打開(サナザーラ視点)
全力で駆けたサナザーラは、ようやっとショール達に追い着いた。当然ながら奇襲はできない。一人の聖騎士が身構えていた。
「
名乗ったソバリオは、短めのブロードソードを両手で構えていた。片手でも扱える剣を両手で握っているため、振りは力強いだろう。
「たかが聖騎士ごとき、図に乗るな」
サナザーラは抜き放ったロングソードをソバリオに向けて構えた。通路内でロングソードを振ることは不可能だ。攻撃手段は突きに限られる。それでも、サナザーラは特段不利を感じていなかった。間合いでは有利だったし、サナザーラは後退することもできる。前後の動きが限られるソバリオよりも、繰り出せる技の引き出しは多かった。
数合の打ち込みで、防御の薄かった太ももを捉える。しかし、ロングソードの剣先が深々と突き刺さることはなかった。金属音とともに、剣を握る腕に抵抗が伝わってくる。
「鎖帷子か。用心深いと言えるが、傷は負う。いつまでも持ちこたえられまい。司祭が癒やそうとも、魔力は有限じゃぞ」
サナザーラの言葉に、ソバリオは不敵な笑みを浮かべた。
「確かに、魔力は有限だ。しかし、我らには不死王を打ち破った無限の癒やしの力がある。貴様ら神敵など、この場で葬ってやる!」
サナザーラは、ソバリオの言葉を訝しんだ。それでも、戦士の勤めはひたすら剣を振るうこと。構わずに連続突きを放つ。時折、サナザーラのロングソードを払い、ソバリオも剣を振ってくるものの、躱すことは容易だった。
しかし、何度突いても、ソバリオが怯む様子はない。ソバリオ自身も、そして背後の司祭、ショールも
サナザーラは焦り始めた。ダリオ達は、サナザーラの到着を待ち、通路の出口で耐えていた。サナザーラが拮抗を崩せなければ、ゴラルとウェルタは、いつまでも持ちこたえられない。背後にマナテアの荒い息づかいが近づいて来た。彼女も到着したようだが、サナザーラの戦いにはさほど影響はない。
「支援はいらぬ。魔力は温存しておけ」
マナテアに聞こえるように言い放った。むしろ、今後に備えてもらった方がいい。膠着する状況に、サナザーラの焦りは募る。そして、その焦りを見て取ったのか、ソバリオの後ろに立つショールが言った。
「
「貴様、あの場に居た者か?!」
「そう、あの時その方が倒し損ねた騎士の一人だ。
サナザーラは舌打ちした。ダリオの素性がばれている。迂闊にも不死魔法を用いたのだろうと想像ができたが、この場でできることはない。
サナザーラが、自らの力だけで、この拮抗を突き崩すしかなかった。
「舐めるな! 狭い通路で戦えば、ロングソードが振るえぬと思っているようだが、妾は数多の戦場をくぐり抜けてきた!」
そう告げて、サナザーラはロングソードを右の逆手に持ち替えた。刀身ではなく、柄頭が上に来るように握り、剣を下に下げる。そして、左手にはダガーを持った。こちらは順手の変則構えだった。
サナザーラは、おのれの剣技に自信を持っていたが、それ以上の自負を持っている。それは、命を賭けた戦場に身を置き続けたことだ。命を失いかけたことも一度や二度ではなかった。当然、狭い場所で戦ったことも数え切れないほどある。
ロングソードを右逆手で持ち、左にダガーを順手に構える。この態勢では、ロングソードを突くよりも接近戦になる。サナザーラにとっても、傷を負う可能性が高かった。アンデッドである彼女は、傷を負っても自然と再生する。しかし、
『鎖帷子を着込んでいても、打撃の力は通る! この拮抗を破ってみせる!』
サナザーラは、左手を前に、ダガーでソバリオの手首と胴、首を狙い、同時に右手のロングソードで脛を狙った。矢継ぎ早の上下攻撃。ほとんど同時に撃ち込まれる攻撃を捌き切れず、ソバリオの顔が苦痛に歪む。
怯んだ一瞬を逃さず、サナザーラはロングソードの剣先を、ソバリオの足よりも奥に差し込んだ。そして、剣先を床面に付け、右足を一歩踏み込みながら体を沈めた。肩を柄の下に潜り込ませ、体全体で柄を押し上げる。剣先を支点、柄を力点にしててこの原理を使っていた。作用点で狙うのは、ソバリオの股間だ。
絶叫するソバリオの体が宙に浮く。鎖帷子を着込み、切ることができなくとも、急所を狙った強力過ぎる攻撃は、ソバリオの動きを確実に止める。後は、ダガーで首を首をかき切れば、ソバリオを仕留められるはずだった。
事実、首をかいたダガーの一撃で、ソバリオは激しく出血した。しかし、その出血はあっという間に止まる。
『ならば首を落とすまで!』
サナザーラがもう一度ダガーを振ろうとした瞬間、ショールよりも更に奥から、野太い叫び声が響いた。
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