第102話 作戦と準備②
掲げていた
「ここから先は
彼女が肯いたことを確認して足を踏み出そうとしたものの、二の腕を掴まれた。
「ミシュラ?」
「だ、大丈夫」
大丈夫な様には見えなかったが、足を踏み出す。ただ、掴んだままの二の腕は離してくれない。仕方なく、そのまま足を進めた。
階段を登り、木戸を開けて礼拝堂に入る。幸い、スケルトンの姿は見えなかった。
「ほら、教会と同じでしょ」
「カビ臭い……」
ダリオはさほど気にしていなかったが、そう言われてみると確かにカビ臭い。ミシュラの方が匂いに敏感なのだろう。そのまま、びくびくする彼女を引っ張るようにして上階に昇った。二階の廊下にも三階の廊下にもスケルトンの姿は見えなかった。小部屋の中に動いている偽の
一体のスケルトンとも出会わずにサナザーラがいる大部屋の前まで来た。ただ、流石に中にはサナザーラの他にも多数のスケルトンがいる。壁際に並んだ
「ここだよ。サナザーラの他にもアンデッドがたくさんいるけど、大丈夫だから」
ミシュラは腰が引けているものの、何とか肯いた。それを確認してドアをノックする。いままでと同じように、スケルトンがドアを開けてくれた。
後ろから歯の鳴る音が聞こえてきた。二の腕を掴んでいるミシュラの手に、反対側の手を添える。そして、手を引くようにしてサナザーラの前まで進んだ。
「ザーラ、手紙で知らせたミシュラを連れてきた。ショール司祭をおびき出す手伝いをしてもらうから、彼女もここに入れるようにして欲しいんだ」
そう告げると、立ち上がったサナザーラが目の前に立った。両手を腰に当てた彼女が目の前に立つと、どうしても見上げるような状態になる。
「アタル族の娘だったな。顔ぐらい見せよ」
ダリオの二の腕が、痛いほど掴まれた。ミシュラは、ダリオの後ろでただでさえ痩せた体を、更に小さくしていた。
「ミシュラ、大丈夫だってば」
何とかダリオの影からでてきたものの、彼女は震えながら俯いていた。見下ろすサナザーラが呆れたように言った。
「アタルの民は、それこそ蛮勇で名を馳せているのだがな……」
「そうなんですか?」
「そうじゃ。魔獣よりも勇敢なことをアタル族は誇りにしておる……がミシュラと言ったか、この娘は違うようじゃな」
そう言ったものの、サナザーラはミシュラを侮蔑の目で見ている様子ではなかった。ただ静かに、見定めるように見ていた。そしてため息を吐く。
「どうかしましたか?」
ダリオの問いに首を振る。
「どうもせぬ。後戻りはできぬというだけじゃ。その方が、ショール司祭とやらを討つと言ったことにも不安だったが、やるしかないというだけじゃ」
サナザーラは、正直に言って賛成はできないと言っていた。やるならば、誘い出せとも言っていたが、それがミシュラと関係する話なのかが分からない。
「それよりも、こんな様子で囮役をこなせるのか?」
彼女は、そう言ってミシュラを見下ろしていた。
「……きるよ」
ミシュラの答えは、聞き取れないほどだ。
「ミシュラ?」
「できるよ」
「ならば、良かろう。そのくらいの働きはしてみせよ」
まだダリオの腕に捕まって震えていた。だが同時に彼女はサナザーラを睨んでいた。そんなことにはお構いなく、サナザーラは執事スケルトンを呼んで彼女も
「では、詳しい策を聞こうか」
ミシュラと並び、長机の脇にある椅子に腰を下ろした。そして、マナテアの作戦を説明する。
「ネズミでは警戒するであろうな。マナテアならば追ってくるはずだが、どこで見つけさせる?」
「地下通路に邪魔なものを置いておけば、ミシュラなら簡単に逃げることができます。でも、マナテアだけだと物を置いておいても危険なので、なるべくここの近くがいいと思っています」
サナザーラは首を振る。
「魔法を使われることも考えよ。騎士も司祭も、魔法を使う可能性があるぞ」
「マナテアもミシュラも、結構魔法抵抗力が強いよ」
彼女はまた首を振った。
「甘い。二人を飛び越し、通路の先にある物を破壊されたら、それこそ追い詰められるぞ」
「あっ」
思わず声が漏れる。やはり、サナザーラは戦い慣れしているだけあった。ダリオ達の考えにはつけいる隙があるようだ。ダリオが悩んでいるとミシュラが小声で呟いた。
「僕が彼女を乗せて走るよ」
「ネズミから馬に変身できるの?」
「できるけど、今通ってきた地下通路だと馬になると狭いよ。ロバにも変身できるからロバがいいと思う。ロバでも人の姿よりはずっと速いよ」
距離をとって素早さで逃げてしまえば、魔法で攻撃されることもない。地下通路に障害物を置く必要もなかったし、教会でマナテアの姿をショール達見せることもできるから、怪しまれることもないはずだった。
「ロバにも変身できるんだ」
ミシュラは変身することを嫌がっていたから、荷物を運んでもらう時以外に変身してもらうことを頼んだことはなかった。だから変身のことについても詳しくなかった。
「牛、豚、犬、猫、それに飛ぶのは苦手だけど鳥も。それで、芸をやってた」
見世物小屋で、やらされたらしい。
「それなら良かろう。だが、もう一つ」
そう言って、サナザーラは別の懸念を口にした。
「その方らの方が心配じゃ。妾が十全に力を振るうためにも、できれば完全にここの中まで引き込みたいが、流石に奴らも警戒するじゃろう。途中で足を止めるやもしれぬ。その方らは、十分に距離を取れ。妾が戦い、奴らが逃げ始めるまで戦おうとするでない」
ウェルタも言っていた。二人の護衛騎士は強いらしい。サナザーラの言う通りにすべきだった。
「分かった。そうする」
「策としては良かろう。妾も備えておくが、準備は怠るな」
ダリオは、肯いて立ち上がった。
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