第15話 遺跡(ルーインズ)
空が白んだ時点で出発したためか、森を抜け、チルベスの周りに広がる耕作地が見え始めた時点で、まだ昼と言うには早かった。
「これで一安心じゃの」
アナバスが、ほっとした声を上げる。
「ウインド・ウルフやアンデッドに襲われる心配はなくなりましたが、むしろ市壁の中の方が危険ですよ」
ゴラルの言うとおりだった。市内は白死病が蔓延しているのだ。
「そうじゃな。儂はもう死んでもいいが……若い者が死ぬことはないのだがの」
振り向くと、アナバスが何とも言えない目をしていた。
「僕は、たぶん大丈夫です。以前にも白死病にかかったことがあるので」
「そうか。その若さで生き残りというのは珍しいの」
白死病は、他の流行病と違う奇妙な特徴がある。他の流行病では、一度病にかかった者は、その病気にかかりにくくなる。白死病では、生き残った者も、他の者と変わらず、また罹患する。ただ、生き残った者は二度目も生き残ることが多いのだ。ダリオは、また白死病にかかるかもしれないが、また生き残れる可能性が高いのだった。
それに、あまり小さな子供は白死病にかからない。十三歳のダリオが、過去に罹患していることも珍しいことだった。
チルベスが近づき、自然と白死病の話題が増えた。それは、近づいてきた畑が、白死病が発生した町特有の光景を呈していたからだ。雑草が増え、一部には枯れかけているものもあった。
「これからもっと酷くなりそうですね」
それを見ていたマナテアが呟く。
白死病が発生すると町が封鎖される。市壁近くに住み、周辺の農地で農業を営む者が耕作にでることができなくなるからだ。蔓延が収まり、封鎖が解除されるまで農地は荒れ放題になる。白死病に生き残っても、次は食料不足に苦しまなければならない。
畑を見回していたダリオは、もっと遠く、森の中に城のようなものを見つけた。石造りで、遠目にもかなり古いものだと分かる。それに、何だか不思議な感じがした。
「あれは何でしょう?」
ダリオが指差すと、アナバスが教えてくれた。
「チルベス名物の
「
ダリオがオウム返しで聞くと、アナバスはさも嬉しそうな笑顔を見せた。どうやら教えることが堪らない喜びのようだ。
「不死王に縁のあるものだと言われている、ああした廃墟じゃ。古い町の郊外に、ああして建っている。あれもその一つじゃな。不死王の呪いが強くかかっていて、周囲の呪いを集めているとも言われている。チルベス周辺にアンデッドが少ないのは、あれのためのようじゃ。逆に、あの中は強力なアンデッドの巣窟で、聖騎士団でさえ踏み込めん。何度か破壊のために討伐隊が送り込まれたが、今も存在しておる」
「
「もちろんじゃ。聖騎士団が破壊したものもあるから、正確な数は分からん。そもそも、何を
「オルトロ……」
最近、どこかで聞いたような気がした。
「私の生まれた市ですよ」
「あ、そう言えば」
ゴラルが、彼女はオルトロ領主の娘だと言っていた。
「オルトロの
あの
「そうですね。建物の形は違いますが、市壁の外にある大きな建物という点では同じです。一番の違いはアンデッドの種類でしょうか」
「中にいるアンデッドに違いがあるのですか?」
「ええ。私も話に聞いただけですが、オルトロの
ダリオがなおも
「そんなに興味があるなら、ついでに見に行くかね? あそこには
「
ダリオが目にしたことのある最も強いアンデッドはボーンケンタウロスだ。森の中を一昼夜以上に渡って駆け続け、目の前に現れた魔獣やアンデッドをいともたやすく蹴散らしていた。
『あれよりも強いアンデッドなんているのだろうか?』
ダリオが物思いにふけっている傍らで、アナバスが怒られていた。
「ばかなことを仰らないで下さい」
生真面目なゴラルが目を吊り上げている。
「それに、あんなところまで行っていたら、夜になってしまうかもしれません。騎士団の近くなら野営も安全でしょうけど、門が閉まる前にチルベスに入りたいと思います」
マナテアの正論には、アナバスが冗談だと返していた。彼らの談笑を聞きながら、ダリオは、一人で
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