ゲス王子は改心したか?

山田 勝

ゲス王子は改心したか?

「君、ルーキーだよね。回復職必要だから、来てくれない?」


「えっ」


 冒険者ギルドの前で、杖を持って、ウロウロしていた聖女服の少女に、黒い服で統一した冒険者グループ[狂犬の牙]が声を掛けた。


「わ、私、簡単なヒールしか出来ないのです。それに・・まだ、お山から降りて来たばかりで、冒険者登録もまだ・・」


「そんなことを言ってる場合じゃないぜ。村がコブリンに襲われて困っている。緊急クエストだ。後で登録をすればいい。報酬もちゃんと、山分けするぜ」


「え、そうなんですか?なら、行きます!」

「そうこなくっちゃ!さすが、聖女さんだ。君、いくつ?名前は?」


「はい、ロザリー、15歳、聖女見習いです」



 ☆その日の夕刻、山の中


 ・・・

「え、と、村人さんたちは?コブリンの襲撃は?ここ、山ですよね・・」


「「「ヒヒヒヒヒヒィ」」」


「欺されてやんのーお前は、ここで、俺たちの慰みものになるのよ!そして、奴隷として売ってやる」

「冒険者ギルドに登録されてないから、行方不明として捜索も掛からない」

「久々の上玉だぜ」


 彼らは、不良冒険者、こうして、田舎から出てきたばかりのルーキーを欺して、魔物の囮にしていたり、暴行をしていた。

 少女は涙ぐみながら、やめるように説得する。


「私は、聖女を目指している者です!夫以外に肌を許してはいけないと、教典に書かれているのです!乱暴されたら、聖女になれないのです!どうか、やめるのです!女神様の罰が当たるのです!」


「ハハ、やめてと頼まれて、やめる奴はいないだろう。自分から脱げば服は破かないぞ。それともおじちゃんたちに乱暴に脱がされる方がいいか?」

「ヒィ、やめて、グスン、グスン」


 4人いる冒険者の中で、一人だけ、後方で、少女に興味を示さない男がいた。



「ガイル先生よ。あんたもどうだい!」

 ガイルと呼ばれた男は、彼らの用心棒をしていた。

 どこかで、剣術を習ったようだ。


「俺はやめとく、その女、丁寧に扱わないと、奴隷として売るとき、値が下がるからほどほどにな・・」


「おう、先生、わかったぜ」


「グスン、グスン、やめてくれないのですか?今、やめてくれたら・・私、誰にも言わないのです」


「やめねえよ。お前ら、こいつを押さえろ!」

 とリーダーが部下に命じた直後に


「あ~あ、また、ターゲット以外の殺生?~したくないのに~」と少女は独り言を呟いた。

目は涙目から、キリッと、口角はあがり、口元は明け方の三日月のように変わった。

一瞬にして、雰囲気が変わる。


「あ~お前、何を言っている?」

「「「何!」」」


 少女は持っていた杖の先端からサヤを抜いた。槍が仕込まれていたのだ。

 槍になった杖を地面に突き刺し。自身は、杖の柄を掴み。そのまま倒立をした。

 パンツが見えないように膝は曲げている。杖と一体になって、L字を逆さまにした格好になった。


「聖女山、奥義!ルクセン夫妻のダンス!」



 ☆ルクセン夫妻のダンス

 アクロバットダンスの名手、騎士爵のルクセン卿とその妻は、大いに社交界で名声を得ていた。

 ある貴婦人が、その名声を妬み。夫妻のダンス中に刺客を放つ。

 しかし、ルクセン夫妻は、ダンスを続行し、夫は妻を振り回し、妻は遠心力を利用し、刺客に蹴りを放ち倒した。

 ダンスが終わる頃には刺客は全て倒されていた。

 周りの者は、拍手喝采であったが、一人だけ、ハンカチをくわえて悔しがっている貴婦人がいた。すぐに刺客を雇った犯人とバレ、衛兵隊に引き渡された。


「女神教典外伝、烈女伝ルクセン夫人の項目より引用」


 ロザリーの場合、地面に刺した槍を夫に見立て、遠心力を利用して蹴り、相手を倒す。一撃必倒の闘法!


「「「ギャーーーーー」」」


 不良冒険者どもは、あっけなく倒れた。そして、少女は地面に立ち、槍を持つ。


不良冒険者は這々の体で、伸びている。かろうじて言葉を発せるものが何とか助かるために、言葉を探す。

「おい、お前、俺らを殺したら、冒険者ギルドが黙ってないぞ!」




「大丈夫なのです。私はパーティー申請してないから私がしたとはバレないのです。貴方たちは、私に殺されて、魔物さんたちのご飯になるのです!」


「そ、そんな。聖女だろ。悪かった。悔い改めるから。やめてくれ・・殺さないでくれ」


「やめてと頼まれて、やめる方はいません。レイプ魔さんは死んじゃえ!エイ!エイ!エイ!」


 と倒れた3人の心臓を付いた。


「こ、お前は、勇者随伴聖女を養成する聖女山修道院の者か・・」

 一人、後方にいて難を逃れたガイルは、少女に問いかける。


「その情報を知っている者は、王家の者なのです!お前は元王国第四王子シャルル、通称、ゲス王子に違いないのです!」


「ハハ、そうだよ。王宮を追放されて、ここまで落ちぶれた。お前は刺客なのか?」


「そうなのです。お前を探すために、四つの不良パーティーに参加したのです!どうしてくれるのですか?殺生しまくりで、とても嫌な気分なのです!お前が結婚式の日に手籠めにした商家の娘さんは今でもボーと空を見ているのです。何故、お前は生きているのです!」


 ガイルは手を挙げて降参した。


「そうか・・その心当たりが多すぎて、誰があんたに頼んだか知る気も起きない。もう、疲れた。このまま殺してくれ・・そうだ、お金がある。これを孤児院に寄付をしてく・・・れ、グフッ」


 ガイルが胸ポケットに手を入れた瞬間、ロザリーが槍で刺した。


「ダメなのです。許可無しにポケットに手を入れたら、殺すのです。それに、お前を殺したら、所持金は手に入るのです。孤児院に寄付出来るのです。お前の意思で贖罪はさせないのです!」


「そんな、ささやかな善行も俺の名でさせてくれないのか・・・」


 ガイルは息絶えた。


 ガイルが手を入れたポケットに、わずかなお金とナイフが両方入っていた。

 彼がどちらを取り出そうとしたかわからない。

 ロザリーは知る気もない。


「ニャン、ニャー、ニャー」

 走りながら鳴いている猫がやって来た。


「クロちゃん。やっとゲス王子は終わったのです。あれ?」


 黒猫はロザリーに登り肩の上に乗る。

 首には書簡がある。


「ええー次は仲間を追放ばかりするゲス冒険者リーダー!もう、嫌なのです!」


 ロザリーは、依頼主には、ゲス王子がポケットの中に手を入れたから殺したと報告した。



 彼女の仕事を求める者は数多い。

 それだけ、世の中は悪人が多いのかもしれない。


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