金!金!!金!!!!!!!!!

タチバナメグミ

 

今日は特別仕事で疲れていた。だから、彼と約束した自炊を諦めてしまった。焼肉弁当が、美味しそうだったのだ。

1人分の弁当を入れた袋を下げて家の扉を開けると、私の帰りを待つ彼の姿があった。愛おしい、彼の姿が。

「……あれ?」

彼の腕が。右腕が。肘から先がバッサリと切断されていた。血は、出ていなかった。今朝まであった体積が、ぽっかりと空いているだけだった。

「ああ、おかえり」

彼は腕がない事を全く気にしていないようなそぶりで私を迎えてくれる。いつも通りへとへとで帰宅した私をハグしようとして、右腕の先がないことに気づいたようできまりが悪そうに腕を下ろす。

「ああ、お弁当、買ったんだ…」

「ご、ごめんなさい!まさか腕が無くなるなんて…」

「気に病まないで。疲れてたなら仕方ないよ」

彼は優しく笑って慰めてくれる。君が抱きしめて、と彼は上目遣いで乞うので、堪らなくなって抱き上げる。小さな彼を。もう両足がなくなってしまった、彼を。

「君が自分を責める必要は無いよ」

彼の優しい言葉が苦しい。肯定はできない。けれど、否定もできない自分の卑しさを見たくなくて、抱きしめた彼の首筋に顔を埋める。そんな私を彼は抱きしめ返してはくれない。彼の左腕は既になく、右腕はさっき、切り落とされててしまったから。今晩食べる焼肉弁当と引き換えに。

「ごめんなさい」

私は小さく呟く。彼の右腕は、少なくとも今月末までは生えてこない。肘から先のない切り株のままだ。

彼の腕は焼肉弁当になってしまった。うっかりビニール袋まで貰ってしまった。

私がお金を浪費するほど、彼の体積が減ってしまう。消えないでと願うのに、私が節制できないから、彼が減ってしまう。損なわれてしまう。今朝の時点で既に、両の足と左腕は無く、右手の指はほとんど無くなっていた。私が、使い果たしてしまった。

「大丈夫。また月末になれば、元通り生えてくるから」

私はその言葉に頷くことは出来ない。給料、減るの。不景気だから。同額じゃないと貴方の体、元に戻らないじゃん。

「ごめんなさい」

何に対してかは、言えない。きっと来月も、私はこうして浪費してしまうのだ。自炊をサボる。いらないものを買う。タクシーを使う。そうして、彼をどんどん小さくしてしまう。こんなに好きなのに、愛してるのに、大切にすることだけが出来ないのだ。

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