意思

@Gpokiu

感情

高野先生へ

先生、ごめんなさい。俺はあの時、嘘をついていました。俺、大人にはなれそうにないです。俺はもう、高校3年生になってしまいました。あと一年も経てば、高校卒業、社会人として働かなければいけません。でも、俺はまだ、大人になる準備ができていません。周りが当たり前にしていること、俺にはできないことばかりです。まだ子供のままでいたいというのは、罪なことなのでしょうか?先生なら、こんな俺を優しく肯定してくれるかもしれません。でも、社会というのはこんな甘いことばかり言ってられない場所らしいです。俺は到底、耐えられそうにないです。この手紙を書いたら、俺の人生を終わりにしたいと思います。それでは___


星くんから、一通の手紙が届いた。正確には、星くんのご家族の方から送られてきたものだが。星くんは、小学生の時の自分の教え子だ。とっても元気がよくて、みんなに優しい、そういう子だったと記憶している。小学校を出て、地元の中学校に入学したあと、どこか遠くの高校に入学したと聞いていた。そこまで気が強いようにも見えなかったが、まさかここまで追い詰められていたとは知らなかった。しかしなぜ、こんな手紙を送ってきたのだろうか。なんでこんな状態になってしまったのか?別に、特別深い関わりを持っていたわけじゃない。でも周りの人々には手紙が書かれていないみたいだし、そもそも、「あの時」って……?


夢を見ている。俺がまだ、子供だった時の夢だ。

俺は大声で、先生に何か話している。

先生は少し悲しそうな顔をしている。

なんでそんな顔するの先生、俺はただ、先生と話をしたがっているだけなんだよ。きっと。

でも、何を話したかったんだろう?何か大事なことを忘れているような___


手紙を読んだ次の日、私は不思議な夢を見た。星くんの夢だ。子供の星くんが一生懸命に、何か伝えようとしている。その様子があまりにも必死だったから、私は悲しくなってしまった。伝えたくても伝わらない。そんなもどかしさに、少し寂しさを感じた。きっと星くんは、夢の中で、助けを求めていたんだと思う。1人で苦しんで、悩んで。ああ、なんで最後の最後で、手紙を送ってきたの?もっと早く、助けを求めていればよかったのに。


夢は続いている。

これは夢なのだろうか。

なぜ俺は、これが夢だとわかっているのだろうか。

俺は何を伝えているのか。なんでこんな大声で、必死に?

何か、何か忘れている、あと少しで思い出せそうな___


「皆さんのぉ、将来の夢はなんですかぁ?」

せんせー!ぼく、大きくなったらぁ、おとなになる!

「あら、星くんは元気いっぱいねぇ〜。でもね、先生は星くんがぁ、将来どんなことをしたいのかが聞きたいなぁ〜?」

え!おとなになるのはダメなことなの?

「ダメじゃないよ!とぉってもいいことだと思う!でもね、み〜んな成長して、大きくなったらぁ、大人にはなれるんだよ、みんなね。だから___」


星くんのご家族から、授業参観の時の映像を見せてもらった。星くんは授業参観の日、家に帰って、私との会話のことについてずっと話していたらしい。もしかしたら、私が思っていた以上に、星くんにとって、私の存在は大きかったのかもしれない。だから私に、手紙を送ってきたんだね?ごめんね星くん。星くんはこんなにも私のことを大切に思ってくれていたのに。ごめんね。私が守ってあげられなくて___


違う。俺は死んだんだ。これは夢じゃない。

これは復讐だ。先生に対する復讐なんだ。

あの日のことは死ぬ時まで、はっきりと、鮮明に覚えていた。

俺は大人になりたかったんだ。そして、先生は成長したら全員大人になれるといった。

でも、それは嘘だった。

俺が嘘をついたのか?いや、嘘をついていたのはお前の方だった。そうだ。お前たちのような大人は、自分たちが子供に与える影響について、何も理解していない。大人になるには、大人になるための能力が必要だった。勝手になれるわけじゃなかった。大人になれたやつは、自分がなぜ大人になれたのか理解していない。お前が殺したんだ、俺を。

俺は伝えているんだ、お前に。俺は復讐し続けているんだ、永遠に、

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