第38話 人柱
そのままイツキとカイドウは、先に逃げたレジスタンスの戦闘員と合流して、インスタンスへと帰還した。
「おう、お帰り。どうだった?」
インスタンスに残っていたジョーが出迎える。
「予想通り、ジーオーとフォージの二人と邂逅しましたが、途中でとんでもないヤツに遭遇しました……」
「とんでもないヤツって?」
「例の宗教団体ですよ」
「あぁ、『プロシージャ』だっけか? それがどうしたんだ?」
「ヤツら、『オール・ワン』の持つアイテムを使って変身してたんです」
「それだけか?」
「そんなわけないじゃないですか。そのアイテムで数回変身すると死んでしまうんです」
「死ぬ? それ本当か? あ、いや。命すら投げ出すような連中だからな、そのくらいはやりかねないか……」
そういってジョーも難しい顔をする。
「なので、そのことについてミネ博士と話そうと思っているんです」
「確かに。そうしたほうがいい」
そのまま3人は、研究室にいるミネ博士の元に行き、同じような説明をした。
「……それで、どうしましょう?」
「どうするというのは?」
「このまま戦ってしまえば、確実に死人が出ます。その前に止めないといけないでしょう?」
そのことを強調したイツキ。しかしミネ博士の対応は、イツキの思っていたものとは全く真逆であった。
「『プロシージャ』に所属する信者は、例え自分の意思がなくとも死ぬように仕向けられるはずだわ。私たちが介入したとしても、四天王が直接手を下す口実を与えかねないのよ」
「いや、そうだとしてもですよ! 目の前で死ぬ人間を見捨てることなんて出来ません!」
「それならあなたは、『プロシージャ』の信者たちを救うことが出来るの? もしかしたら何か弱みを握られていて、信者になることを強制されているのかもしれないのよ?」
「そ、それは……」
「仮に信者を救出して、誰が面倒を見る? 残念だけど、今のレジスタンスには収容している避難民を生かすことで手一杯なの。これ以上の余裕はないわ」
「う……」
イツキは言葉に詰まってしまった。確かにミネ博士の言っていることは正しい。レジスタンスの能力にも限界がある。限界を超えてしまったら、後戻りは出来ないのだ。
「しかし、どちらにしても厄介なことになったわね……」
ミネ博士はそんなことを言いながら、深く溜息をつく。
「せめて信者を楽にしてあげられるように、3人の強化フォームを用意する必要がありそうね」
そういってミネ博士は、もう一度イツキのことを見る。
「今度その人柱が出現したら、躊躇うことなく一撃で葬り去ること。いいわね?」
イツキは複雑な感情を抱きながらも、頷くことしか出来なかった。
それから1週間が経過した。インスタンスでは警戒体制を継続していたが、敵襲は特に見られなかった。それでも、森の中を移動している影を見ることはチラホラあったようだ。
しかし敵襲が無かったことで、ミネ博士の作業は順調に進む。もう少しで新しいアイテムが完成しようとしていた。
そんな折、森の方を監視していたレジスタンスの戦闘員が異変に気付く。
「東より人影多数! 速度は遅い! 総員警戒体制!」
その言葉で、戦闘員たちは一斉に配置につく。当然ジョーとカイドウもインスタンスの外へと移動する。
イツキも移動しようとした時、ミネ博士に止められた。
「イツキは少し待って」
「何故です? 人柱を殺すことが出来ないからですか?」
「違うわ。あなたの新しいデバイスがもう少しで完成しそうなの。これがあれば、人柱になった信者を苦しませることなく葬ることが出来るわ」
ミネ博士の言葉に、イツキは少し俯いた。
「……やはり、殺すしか道はないんですか?」
「そうね……。人柱になった信者の生体サンプルでもあれば、対策は出来るかもしれないわ。けど、そういったものがない現状では何も出来ないわね」
「そうですか……」
そういってイツキは椅子に座り込んだ。その手は、少しイラついているようだった。
一方でインスタンスの外では、レジスタンスの戦闘員が銃を構えて迎え撃とうとする。
森の方からは、簡素な服装をした中年の男性たちが一人、また一人と現れる。
「ここが悪魔崇拝団体の拠点かぁ。ぶっ壊していいなんて、テンション上がるなぁ」
「悪魔崇拝団体め、我らの『オール・ワン』を侮辱するとは許さん!」
「我々の正義の鉄槌を食らえ!」
そんな感じで、どんどんと「プロシージャ」の信者が増えていく。意外と人数が多い。
「こりゃもうどうしようもないな」
「俺たちが前に出るしかない」
そういってジョーとカイドウは、それぞれバックルを装着。変身する。
その様子を見た信者たちは、口々と叫ぶ。
「あいつら変身したぞ! 悪魔の手先に違いない!」
「あぁ! 我らの『オール・ワン』様の叡智を奴らは使ってる!」
「窃盗だ! 泥棒だ! 生かしてはおけぬ!」
ワラワラとレジスタンスの戦闘員に接近してくる。レジスタンス側は発砲はせずにジリジリと後ろへ後退しているだけだ。
すると信者の後ろの方から、体の装甲がぶつかり合う音を立てて何かが接近してくる。
人柱だ。
「出やがったな、人柱」
「ここで葬り去る。覚悟しろ」
そういって二人は必殺技を出そうとした。
「待った!」
そこに声がかかる。声の主はイツキだ。
「イツキ、やっと来たか」
「その手に持っているのは?」
カイドウが指摘した通り、イツキの手にはこれまで見たことのない、新しいデバイスが握られていた。
「正直まだ迷っています。本当に人柱を葬ることが最善の手なのか。だから、この新しいデバイスを使って答えを出します!」
そういってデバイスのボタンを押した。
『シータ!』
それをバックル上部に装填する。
『スキャニング!』
その瞬間、バックルから黒い霧のような物がイツキの体を覆いつくす。
「なっ、なんだこれ……!」
そのままイツキは霧に覆いつくされてしまう。
「イツキ!」
ジョーはイツキの体に触れようとしたが、黒い霧から電気のようなものが迸って近づけさせないようにする。
『アアアアプルーブ!』
そして黒い霧が晴れ、イツキの変身は完了した。
『ファイター ヘリクゼン・シータ!』
ドス黒い装甲を装備したヘリクゼン・シータ。
禍々しさが周辺を覆いつくしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます