第37話 新勢力

 「それ」はまるで、怪人のような見た目をしていた。顔面は崩壊していて認識すら困難な状態。歪に膨らんだ腕と脚。体中に張り巡らせるように巻かれた拘束具のようなもの。

 そんなヤツが、イツキたちの方を向いた。

 そして「それ」は、無言でイツキへと突進してくる。

「うぉ!」

 イツキは思わず腕でガードする。そのど真ん中へ「それ」は腕を振り回してきた。

 その衝撃で、イツキは10メートルほど吹っ飛ばされる。

「くっ……!」

 カイドウは反射的に体を捻り、拳を「それ」にぶつける。「それ」に拳は命中するものの、残念ながらびくともしなかった。

 逆に、「それ」はカイドウの方を向き、両肩をガッチリと掴む。

 そのままカイドウに頭突きする。

「ぐぁ……!」

 そして両肩を掴んだまま、体を半回転させてカイドウを投擲する。

 カイドウは頭を揺さぶられた反動で、上手く着地できずに地面を転がった。

「カイドウ!」

 イツキはカイドウの所に行き、状態を確認する。もしかすると、脳震盪を起こしている可能性があるからだ。

「カイドウ、大丈夫か?」

「う、あ……」

 呂律が回っていないような感じだ。しばらく安静にする必要がある。

 イツキはカイドウを「それ」から守るように前に出る。

 その行動を見た「それ」は、さらに攻撃をしようとイツキに向かっていく。

 イツキも迎え撃つため、全力で駆ける。

 「それ」が拳をでたらめに振り回してきた。イツキはそれを見て、姿勢を低くし脚に力を溜めて放出する。

 ほぼ水平に跳躍し、「それ」の下半身にタックルした。そのまま二人は地面に倒れこんだ。

 イツキが上であるため、馬乗りになってボコボコにぶん殴る。それでも「それ」に攻撃が通っているようには見えない。

 すると「それ」は、振ってくるイツキの腕を掴んだ。そのままイツキを強引に横に倒し、形勢逆転した。

 「それ」はイツキの腕を掴んだまま、低く唸る。すると胸部辺りがボコボコと変形し、中から別の腕が2本生えたではないか。生えてきた腕は、イツキの顔面、胸部、腹部を滅茶苦茶に叩く。

 さすがに一方的な攻撃で、イツキも耐え切れるか分からない。

 そんな時である。「それ」は急に攻撃を止めたのだ。

「……え?」

 イツキが視線を上げると、「それ」は苦しんでいた。

 そしてイツキのことを離し、地面をのたうち回る。

「な、なんだ?」

 イツキは困惑しながらも立ち上がり、「それ」から距離を取る。

 しばらく地面を転がっていたが、数十秒もすれば全く動かなくなった。

 その時、「それ」の体がドロドロと溶けだす。溶けだしたものは、まるで流体状の金属のようだ。

 そしてその中から人間が出てきた。

「人間……!?」

「今回は6回か。まぁ、持ったほうだろう」

 イツキの後ろから、年配の男性がやってくる。イツキはその男性に見覚えがあった。

「あなた、『プロシージャ』の……」

「ただの教祖だ」

 教祖はさも当然のように、「それ」の中にいた人間へと近寄る。

「彼は優秀だった。優秀な人間には相応の力が必要だ。違うか?」

「そんなことより、その人は死んでいるんですか……?」

「そうだ。これを使った変身には相当な負荷がかかる。普通なら数回で死に至る」

 そういって教祖は、変身していた男性の近くに落ちている何かを拾った。

「おそらく我々と『オール・ワン』殿には勝てないだろうから教えてやる。これは『オール・ワン』の四天王が持つアイテムそのものだ。これを使って変身することで、強大な力を得ることが出来るのだ」

 そして教祖は、いつの間にか変身を解除していたジーオーとフォージの元に行く。

「我々には勝てない。特に、命を捧げて変身出来る『人柱』にはな」

 そのまま彼らは森の奥へと消えていくのであった。

 イツキは混乱していた。「プロシージャ」は本当に命を投げ捨てる集団であること。それによって一人死んでいること。教祖は特に何も思っていないこと。それをジーオーとフォージは咎めていないこと。

 とにかくイツキにとってはショッキングな事ばかりであった。

「……はっ! カイドウ!」

 グチャグチャになっていた感情を一旦脇に置いといて、イツキはカイドウの所へと走る。

「カイドウ、無事か!?」

「うぅ……、お前は……誰だ……?」

「マズい……、このまま放置していたら……」

 イツキは最悪の事態を想定する。しかし今からインスタンスに運ぶにしても、時間がかかりすぎる。かといって、今治療出来るとは到底思えない。

 イツキはなんでもいいから、すがる思いで祈る。

「カイドウ……死ぬな……」

 イツキが願うと、彼の手の中から光があふれ出す。

 その光はカイドウのことを包み込み、やがてゆっくりと消えた。

「う……、キツイ頭突きを食らったものだ……」

 そういってカイドウが起き上がった。

「カイドウ……! もう大丈夫なのか?」

「あぁ、特に痛みはない」

 カイドウは立ち上がり、変身を解除する。

「全然痛くないが……。イツキが何かしたのか?」

「俺はただ、カイドウの無事を祈っただけだが……」

 イツキも変身を解除する。

「インスタンスに戻ったら、念のため診察を受けるか」

 そういってカイドウは、インスタンスへ戻るために歩き始めた。

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