第30話 真実

 その回答に、イツキは思わず剣を下ろした。

「存在を確定させるって、一体どういうことだ……?」

「なるほど、そういうことだったのね」

 突如として、後ろから聞いたことのある声が聞こえてきた。ミネ博士である。

「ミネ博士! ここは危険ですよ!?」

「問題ないわ。それより変身を解除してちょうだい。せっかくの対話のチャンスを逃したくないわ」

 イツキとジョーは顔を見合わせると、二人同時に変身を解除する。

「それで、何か分かったんですか?」

「そうね。『オール・ワン』の特性と、最近の出来事、それと『存在の確定』と言うキーワードから、おそらくカイドウは先の空間事変で最も影響を受けた一人と言えるわね」

「空間事変?」

 ミネ博士から聞きなれない言葉が出てきて、イツキは若干混乱する。

「あぁ、イツキは記憶喪失だから、空間事変のことは何も知らないのか」

 ジョーが思い出したようだ。そしてイツキに解説する。

「人間の体感時間で1年くらい前の出来事なんだが、地球はかつて地球外生命体による侵略を受けていてな。それに対処するために、とあるロボットが活躍していた。しかしそのロボットは、周辺の物質を吸収して自分を構成する体の一部とした。それが太陽系、銀河系、そして宇宙規模にまで拡大した。宇宙を飲み込んだロボットは、やがて空間そのものも飲み込み始めた。そうして空間が捻れて、今の環境が出来上がった」

「はぁ……」

 イツキはもう頭がいっぱいである。だが、聡明でもあった。

「でも、空間が捩れることと存在を確定することの何が関係しているんですか?」

「いいところに気が付いたな。それがこの話の肝なんだが、ロボットは物質を取り込んでいたのではなく、物質を自分の都合の良い物質に『書き換えて』吸収していたんだ。もともとそのロボットは概念を操ることが出来たと言われていて、空間の捩れと同時にあらゆる物体の存在概念を書き換えたんだよ」

「概念を書き換える……?」

「そう。概念を司る神とも言える存在ね。それによって、多大な影響を受けたのが、カイドウのような人なのよ」

 イツキはカイドウの方を見る。いろんな感情がイツキの中をグチャグチャとかき回す。

 その時、イツキはひどい頭痛を感じる。思わず膝をついてしまうほどだ。

 脳内には、自分ではない誰かの記憶が流れ込んでくる。ロボットのようなもの。それを操縦する人。攻撃、攻撃、攻撃。宇宙からやってくる異物を排除するために動く機械……。

「お、おい、イツキ? 大丈夫か?」

 ジョーがイツキの顔を覗き込む。イツキの顔は冷や汗でびっしょりだ。

 イツキの脳内に流れ込んできた記憶は、まるで後味の悪い悪夢のようである。

「結局の所、カイドウは存在が薄れてきてしまい、それを抑えるために『オール・ワン』から対応出来る道具か何かを与えられ、その見返りとして戦力を提供しているというわけね」

 ミネ博士が簡潔にまとめる。

「……そうだな、その通りだ」

 カイドウはミネ博士の言葉を肯定する。そしてポケットから何かの錠剤を取り出す。

「現実存在安定剤。奴らはこれを作ることが出来る。人間の技術の一歩先を進んでいるんだ。そして格闘者スクリプトは、変身している間は存在を固定してくれる。今の俺には、これが一番いいんだ」

 そういってカイドウは錠剤を握りしめる。

「俺は俺を肯定する……! 俺という存在は俺が信じていなければならないんだ……!」

 カイドウは錠剤を握った手をポケットに突っ込み、イツキたちの方を見た。

「だから俺は『オール・ワン』に従っている」

 その目は覚悟が決まっている目だった。

「なるほど。それなら私がその薬を作ります」

 そういったのはミネ博士だ。

「博士、作れるってどういうことです?」

「ここ数ヶ月で、我々レジスタンスの技術力は急激に上昇したわ。今ならカイドウの持っている錠剤を作ることは技術的には可能であると言えるわね」

 イツキとジョーは驚いている。一方でカイドウは無言のままであった。

「技術的に可能だから、本当に出来るかは未知数だけど。ま、試してみる価値はあるわ」

 人間の可能性を感じる一言である。

「カイドウ。ミネ博士のいう通りなら、無理に『オール・ワン』にいる必要はないぞ」

「確かにそうだ。人間の可能性は無限大だ。いつまでも人間を虐げる側にいなくてもいいんだ」

 イツキとジョーが説得に回る。

 カイドウは一度、イツキたちのほうを見るが、すぐに踵を返した。

「俺は、まだそっち側にいけない」

 その時、イツキとカイドウの間で爆発が起きた。

「その通りだよ、スクリプト」

「いいこと言うじゃん、スクリプト」

 爆発の煙が晴れると、そこには二人の少女の姿があった。

「だ、誰だ!?」

 イツキが聞く。

「うちらのこと知らないの?」

「うちらのこと知らないみたい」

「なら教えてあげる」

「よく聞いて覚えてね」

「うちはジー」

「うちはオー」

「「二人合わせてジーオーよ」」

 そういって揃ってポーズを取るジーオー。

「まさか、『オール・ワン』の精鋭部隊の格闘者か?」

 今度はジョーが聞いた。

「そう、うちらは格闘者」

「二人で一人の格闘者」

「一緒になって戦うの」

「こんな感じで戦うの」

 そういってジーオーは1丁の拳銃を取り出す。すると、二人同時にイツキたちの方へと接近する。

「うわっ」

 イツキは急な状況変化に戸惑う。反射的に地面に伏せたことが功を奏したのか、ジーオーの最初の攻撃を躱すことが出来た。

 ジーオーはそのまま、拳銃でイツキのことを狙う。イツキは銃撃を躱すために近くにあったコンクリートブロックに隠れる。そこにジョーも飛び込んできた。

「おい、どうすんだこれ!?」

 ジョーがイツキに聞く。コンクリートブロックは銃撃によって、どんどん削られていく。

「ここは一度変身するしか……!」

 そういってバックルにデバイスを装填しようとした時であった。

 急に銃撃が止む。

「なるほど、このくらいか」

「分かったね、このくらいって」

 イツキは慎重にコンクリートブロックから顔を出す。するとジーオーが向こうへ去っていくのが見えた。

「それじゃあ、またね」

「今度も遊ぼうね」

 そしてジーオーはカイドウと共に煙のように消えていった。

「何だったんでしょう……?」

「さぁ……?」

 イツキたちは新たな敵の出現に、イツキたちは少しばかり恐怖するのであった。

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