第29話 撃破

「そう……、シャープの変身アイテムを強奪されたのね?」

 ミネ博士に事情を話すイツキ。ジョーは保健室送りにされている。

「はい。自分が強化戦闘員をさっさと倒していれば、ジョーさんは……」

「過去のことは忘れなさい。今は前だけを見ていればいいわ」

 そういって、ミネ博士はイツキにあるものを見せる。

「これはジョーの戦力強化のために作ったアイテムよ。後でジョーに持って行ってあげて」

「はい……」

「それと、これ」

 ミネ博士はまた別のアイテムを取り出す。十字架のような外見をしていた。

「これはあなたの分。ソード・デバイスよ。パワード・デバイスの一つね。ベータ・デバイスの能力を上昇させてくれると思うわ」

「ありがとうございます」

「いつまでも後悔を引きずるのは止めなさい。時には吹っ切れることも大切よ」

 そんな助言を貰いつつ、イツキは研究室を出るのだった。

 その足取りで、イツキは保健室に顔を出す。そこには、外傷の治療を受けているジョーの姿があった。

「おう、イツキ。博士に報告出来たか?」

「はい。ジョーさんのこと心配してましたよ」

「俺のことよりバックルのアイテムのことだろ? 博士のことだからな、そっち優先だろ?」

「……えぇ、まぁ」

 イツキは歯切れの悪い回答をしながら、ミネ博士に貰ったアイテムを渡す。

「これ、ミネ博士からです」

「お、新しいシャープバックルのアイテムか。だが、今は変身出来ないからなぁ」

 その時、イツキは頭を下げる。

「ごめんなさい!」

「お、おう……、どうした急に?」

「自分が強化戦闘員を早く助けていたら、ジョーさんはそんな怪我を負わなくて済んだのに、自分のせいで……!」

「あぁ、まぁ、気にすんな。あれは俺の不手際でもある。イツキが気負うもんでもないさ」

 そういってジョーは、イツキの肩に手を乗せる。

「お前は強い。自分を犠牲にして誰かを助けようとする心は、きっといつか誰かを救うことになる。その時まで戦うんだ」

「……はい」

 ちょうどその時、ジョーの治療が終わる。

 ジョーは椅子から立ち上がって、保健室の扉に向かった。

「飯でも食いに行こうぜ。腹が減ってはなんとやらだ」

 ジョーは怪我などなかったかのように振舞う。イツキは、ジョーがイツキのことを心配してくれている事に気が付く。

 イツキはジョーの後を追うように、廊下へと出る。

 それから数日。ミネ博士はあることを考えていた。

「現在レジスタンスに残された戦力は、敵基準だと下級戦闘員数体分と精鋭部隊1体分。正直言って、逆転出来る状況ではありません」

 当直室の横にある作戦室にて、イツキとジョー、レジスタンス指揮官以下数名と話をしていた。

「この状況を変えることが出来るのは、イツキの新しいパワード・デバイスと、シャープのアイテムを奪い返すことです」

「しかし、現状では敵のほうが戦力的にも数的にも有利です。我々は防衛に徹するべきなのでは?」

 指揮官がそう提案する。

「その手も考えましたが、正直時間的な余裕もないと思われます。これは小規模の調査班を複数送り出して得た結果ですが、インスタンス周辺の空間の歪みがこれまで以上に大きくなっていることが明らかになりました。このままでは最悪の場合、空間断裂によって真の真空へと遷移することを示しています」

「しかし博士。もし真の真空に遷移するなら、危機的状況なのはレジスタンスも『オール・ワン』も同じじゃなのでは?」

 ミネ博士の予測にジョーが反応する。

「確かにそうかもしれません。ですが、相手は我々よりも遥かに高度な技術を有しています。少なくとも現実を書き換えることの出来る程度の力を持っているのは確かなはず。それを使えば、真の真空など痛くもかゆくもないでしょう」

 ミネ博士は一同に対して向き直る。

「『オール・ワン』の目的が分からない以上、我々の力で我々の世界を取り戻すしかありません。そのために、我々のほうから攻撃を仕掛ける必要があるでしょう」

 このように主張するミネ博士の一存によって、攻撃隊が結成されることになった。

 イツキを主要戦力として、レジスタンスにいる歴戦の戦闘員をかき集めた隊である。その中にはジョーも含まれていた。

 攻撃隊が結成されると、ミネ博士はすぐに出撃命令を下した。目標地点は、主な調査地点であった森の先である。

 一行は地図を頼りに、森の中を進む。そして森を抜ける。

 そこには、荒廃したビル群が立ち並んでいた。荒廃しているとは言っても、たかだか10年くらい人の手が入ってない程の荒れ具合だろう。

 ビル群の合間を縫うように敷設された大通りを歩いていくと、目の前に見たことのある影が二つあった。

 ルビーとスイフトである。

「ようやくこっちまで来る気になった?」

「入用でこっちに来ただけだ」

 ルビーの質問にイツキが返す。

「そっちのおじさんはどう? 変身出来ないもどかしさは?」

「まぁ、もともと俺は銃を持って戦う人間だからな。あんまり寂しくはないさ」

 ジョーが言い返す。

「まぁ、いいわ。シャープのデータは引き抜いてるわ。今更何か策を講じても無駄ね」

「変身してみないと分からないだろ」

「なら我々と戦うとでも?」

 スイフトがイツキに聞く。

「当然だ。それが、俺の出来ることだから」

 そういってイツキはバックルを装着する。

「うちらに勝てるとでも?」

「笑わせてくれますね。捻りつぶしてやりますよ」

 そういってルビーとスイフトも変身の準備をする。

 イツキはベータ・デバイスとソード・デバイスを取り出し、ボタンを押す。

『ベータ!』『ソード!』

『スキャニング!』『サード・スキャニング!』

『レイズ・アップ!』

 デバイスを装填すると、腕を回して、胸の前でクロスする。

「変身!」

『アプルーブ!』

『ヘリクゼン・ベータ パワード・ソード!』

 変身したイツキの手元に、剣が生成される。

 それを見て、ルビーとスイフトもアイテムを装填する。

「「変身」」

 そうして二人は格闘者に変身した。

 イツキは剣を構えて、一気に間合いを詰める。

 接近してくるイツキにルビーは銃撃した。しかしそれは、イツキの剣によって弾かれる。

 イツキはスイフトに接近し、そのまま刃同士をぶつけ合う。大鎌が武器であるスイフトは、イツキの息もつかせぬ攻撃を受け流すのに必死である。

 イツキがスイフトと戦っている所に、ルビーが銃撃を入れるが、イツキはそれを簡単に躱していく。

 そしてイツキは、剣の柄の部分についているボタンを複数回押した。

 すると剣は光を帯び、輝き始める。

『パワード・ソード スペシャルアタック!』

 そのまま剣を振るうと、光の斬撃がスイフトとルビーを襲った。

「きゃあ!」

「ぐぅっ!」

 すると、イツキの足元に何かが転がってくる。シャープバックルのアイテムだ。どうやらルビーがいつの間にか落としたようである。

「こいつは貰っていくぞ」

 そういってアイテムを拾う。

 それを後ろにやってきたジョーに渡した。

「これで変身出来るな」

 そういってジョーは、シャープバックルを装着、二つのアイテムを手にした。

 通常のアイテムと強化アイテムである。ジョーは二つのアイテムのボタンを押す。

『シャープ!』

『シャープ・プラス!』

 そのまま、アイテムをバックルに装填する。

「変身!」

 いつものポーズを決めて、ジョーはグリップを回して引き抜いた。

『ドローイング!』

 それによって、いつもの流体状の金属がジョーの体を包み込んでいく。

 そして装甲が少し変わったシャープの姿が現れる。

『ソードマン シャープ・プラス!』

 シャープの強化形態であった。

「こんな所で負けるわけには……!」

 そういってルビーはバックル正面の扉を横にスライドする。これにより、第2形態になった。

「そうなった所で遅いんだな!」

 イツキとジョーは顔を見合わせると、そのままバックルを操作する。

 イツキはバックルの前面を両手で押した後に左側を、ジョーはグリップを納刀しないままアイテム上部のボタンを押した。

『ヘリクゼン ファイター・キック!』

『シャープ ソード・キック!』

 イツキとジョーは飛び上がると、そのままルビーとスイフトに向けてキックをぶちかます。

 キックが命中し、ルビーとスイフトの装甲が弾け飛んだ。

 そして変身前の姿が露わになった。

「こ、こんなことで、簡単に負けて……」

「あ、あり得ない……!」

 ルビーとスイフトはかなり驚いていた。

「あり得なくはないさ。人間が生きている限りはな」

 そうジョーが言葉を返す。

 すると、ルビーとスイフトの体に変化が訪れる。なんと、足から順番に煙のようなものが上がり、消えているのだ。

「どうやらお役御免のようね……」

「これもまた、諸行無常というものですか……」

 イツキとジョーはかなり驚き、駆け寄ろうとしたものの、そんな暇もなく二人は無に消えていった。

「ジョーさん……、これは一体……」

「分からん……。何が起きたのか……」

 そんなことを言ってる所に、ある人物がやってきた。

 イツキとジョーがそちらを向くと、そこにはカイドウがいた。

「カイドウ……」

「まさか『オール・ワン』の精鋭部隊の二人がやられるとはな。滑稽なもんだ」

 イツキたちはまだ変身を解除していない。イツキは思わず剣を構えた。

「まぁ、待て。今日はやり合うつもりはない。状況の確認に来ただけだ。すぐに帰るさ」

 そういってカイドウはイツキたちに背を見せる。

「待てカイドウ! なんでお前は『オール・ワン』のような奴らに手を貸すんだ!?」

 その質問に、カイドウは顔を横に向けて答える。

「俺は、俺の存在を確定させるだけだ」

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