第28話 回収

 イツキはなんとかインスタンスへと戻り、治療を受ける。とは言っても、骨折などはしていないし、なんならかすり傷しかない。

 ガーゼで手当をしてもらい、その足で当直室に向かう。

「おう、イツキ……ってどうした? その傷。何かあったのか?」

 待機していたジョーが聞いてくる。

「まぁ、カイドウと戦闘しまして……」

「カイドウが? 今更何の用事で出てきたんだ?」

「分かりません……。個人的な感想ですが、自分の力試しをしているようでした」

「うーむ。もしかしたら『オール・ワン』の方で何か動きがあったのかもしれないな……。一応警戒を強めるように指揮官に伝えるべきか?」

「間接的にしか『オール・ワン』の内情を知れないですからね。警戒の強化には賛成ですが、それで戦闘員の皆さんに負担をかけるのは少々心苦しいです……」

「だが、ここで生活していくには、誰かが身を粉にして働かなきゃいけない。そのために俺たちのような人間がいる」

 ジョーは真剣な顔で言う。確かにそうだ。今ある電気や食料といったインフラは、どこかの誰かが命をかけて作り、運んでくれている。

 レジスタンスにいる戦闘員は、文字通り命をかけて命を守っているのだ。

「……それだったら、自分も手伝います」

「いや、それは良くないな。俺たち格闘者はレジスタンスの戦闘員に出来ない戦闘をこなしている。それ以外のことで体力を削っていたら、本番で力を発揮できないぜ」

「でも……」

「なに、周囲の警戒くらいなら避難民の子供でも出来る。とにかく今は非常時だからな……」

 イツキは、避難民の子供を使うのはよろしくないと訴えようとしたが、言葉が出なかった。確かにレジスタンスという組織を守るためには、子供どころか猫の手でも借りたい所であるのだから。

 その時、甲高い金属音が響く。

「敵襲ー! 東より『オール・ワン』の戦闘員複数!」

「そら、仕事だ」

 そういってジョーが走り出す。

 イツキも、躊躇いを振り払うように気合を入れ、駆けだしていった。

 いつものように、東と思われる方向から「オール・ワン」の戦闘員が5体やってきていた。

「こりゃ少々面倒だな」

「自分が3体引き受けます」

「そいつはありがたい。じゃ、行くか」

 イツキとジョーはバックルを装着し、アイテムを取り出す。

「「変身!」」

 それと同様に、敵の戦闘員もそれぞれガラス板を取り出した。

「コウチク」

 強化戦闘員となった5体に対して、イツキとジョーは戦闘に入る。

 イツキは両手と頭を使って、強化戦闘員たちのうちの3体を群れから引きはがす。

「おらぁ!」

 イツキのほうはパワーが有り余っているのか、3体の強化戦闘員相手でもそんなに苦戦していない。全方向からの攻撃でも、イツキは上手く立ちまわっている。

 一方でジョーは、巧みな剣捌きで上手く強化戦闘員の攻撃を無力化している。というのも、ジョーは攻撃をしようとしている強化戦闘員の動きを読み、その動きを阻害するように攻撃を仕掛けているのだ。とてつもなく高度な戦闘をしている。

 それによって、ジョーは終始強化戦闘員を翻弄し続けていた。やがて敵は蓄積されたダメージによって、動くこともままならなくなっていた。

「さすがジョーさん、戦い方が上手い……!」

 そんなことを言っているイツキは、1体目の強化戦闘員を爆発させた所である。

「さて、そろそろトドメといくか」

 そういってジョーはグリップを納刀。一度奥にひねってアイテムを装填した状態にし、再びひねり戻して抜刀する。

『シャープ ソードフィニッシュ!』

 ジョーは剣を頭の上に掲げる。すると、光の剣はどんどんと大きくなっていく。

「はぁっ!」

 そしてそのまま強化戦闘員に向けて振り下ろす。

 強化戦闘員に剣先が命中する。それによって、強化戦闘員は爆発した。

「ざっとこんなもんよ」

「じゃあ、こっちの手伝いもして欲しい所なんですけど」

 イツキはすでに2体目を倒し、3体目を相手にしていた。

「おう、軽くひねってやるよ」

 そういってイツキの方に向かおうとした時だった。

『スクリプト レイズパンチ!』

 ジョーの後ろから何かが輝き、そしてジョーの体を突き抜けた。

 ジョーはそのまま、崩れるように地面を転がってしまう。

「ジョーさん!」

 イツキはジョーのもとにいこうとしたが、強化戦闘員に阻まれてしまう。

 ジョーの後ろからは、見たことのある姿の格闘者が現れた。

「カイドウ……!」

 カイドウはイツキのことなど全く気にせず、ジョーが手放した剣のグリップを拾う。

 そしてそれを、ジョーのバックルに戻し、強制的に変身を解除させた。

「悪く思うなよ」

 そういってカイドウは、ジョーのアイテムを持ち去ってしまった。

「待て!」

 イツキは必殺技のファイターパンチで強化戦闘員を倒すものの、結局はカイドウのことを見失ってしまった。

「……クソッ!」

 イツキはどこに向けていいか分からない感情を抱いた。

 カイドウはシャープのアイテムを持って、四天王の前に向かう。

『シャープのアイテムだな?』

『なぜヘリクゼンではなく、シャープのアイテムなのだ?』

「これでイツキは、単身で戦うことを余儀なくされる。そこにこちらの格闘者を差し向ければ、簡単に叩き潰すことが出来るだろう」

「へぇ、そんな腹黒いこと考えてたんだ?」

 カイドウの後ろから、ルビーが現れる。スイフトも一緒だ。

「別に。普通の事だろ」

「そんなこと言っちゃうんだ? へー?」

「……なんだよ?」

「べっつにぃー?」

 ルビーとスイフトが四天王の幕の前に立つ。

 だがカイドウの背後には、まだ誰かがいるような気配を感じるだろう。

「ジーオー、フォージ。あなたたちの出番はないかもね。私たちがヘリクゼンをやっつけるから」

 精鋭部隊に所属している残りの格闘者だろう。カイドウはそう考えた。

「後は、イツキを葬り去るだけだ。これで……」

 カイドウはアイテムをルビーに預け、そのまま大広間を立ち去った。

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