第27話 遭遇

 強化戦闘員のことに関して、イツキたちはミネ博士に相談することにした。

「なるほど……。ちょっと危なそうな敵が出てきたってわけね」

「危なそうっていうか、実際に危ないんですけど」

「なにあれ、インスタンスの防衛は絶対に達成されなければならないわ。強化戦闘員のような敵が10や20くらいの束で来ても、防衛できるようにして」

「博士、それは無茶って話ですよ」

「無茶でもやり通さなければ、我々の未来はないわ。どちらにせよ『オール・ワン』の戦力を漸減するなら、手段は問いません。とにかく分かったことがあったらすぐに報告すること。重要そうな物的証拠があればすぐに提出すること。以上です」

 イツキとジョーは研究室を出る。

「強化戦闘員と戦った感覚だが、正直力で押して行けるような相手じゃないんだがなぁ……」

「それは同意です。技術や戦闘スタイルを変えていくことも必要かもしれないですし」

 そういってイツキたちは当直室に向かった。

 それから数日は穏やかな時間が過ぎる。しかし常時警戒態勢であるため、インスタンス内ではピリピリとした空気が漂っていた。

 そんな中、イツキは調査班の護衛のために森の中へと来ていた。

「この辺の調査も、だいぶ進んだんじゃないか?」

「そうですね。それに、敵の手中にだんだんと近づいている感じもします」

「あぁ、そうだな」

 調査班はそんなことを話している。実に呑気だ。主に戦うのはイツキなのだから。

 そんなイツキは、ルビーやスイフトが知らぬ間に罠を仕掛けているのではないかと疑心暗鬼になって、周辺の捜索をしていた。

「この辺も問題なさそうだな……」

 そんなことをしていると、調査班全員に集合がかかる。

「本日の調査は以上だ。総員インスタンスに戻るぞ」

 この日の仕事は終了。

 と思った矢先である。

「待て、イツキ」

 聞き覚えのある声。イツキは声のする方向を見る。

 そこには、カイドウの姿があった。

「カイドウ……!」

 イツキは警戒心を高めるが、カイドウは以前と同じように覇気を感じられない。

「しばらく見ない間に強くなってるようだな」

 その声は、親戚の叔父が投げかけるテンションのようだった。

「あんたとはあんまり関わりたくはないんだがな」

「こっちも仕事でお前と戦ってるんでな。仕事は命の存続、存在の証明にもなる」

「だから俺を攻撃するのは仕方ないってか?」

「……まぁ、そんな所だ」

 そういってカイドウはバックルを腰に装着する。

「イツキ、手合わせでもしよう。後ろにいる仲間は逃がしてもらっても構わない」

「そうか、ならお言葉に甘えさせてもらうよ」

 そういってイツキは後ろを見る。

 調査班のメンバーは、一斉に森の出口のほうへと走っていく。

 それを見届けたカイドウは、自分のアイテムを取り出した。

「今回は最初から本気で行かせてもらおう」

 そういってアイテムを裏返し、中心のボタンを押す。

『スクリプトⅡ!』

「こっちも全力で行かせてもらうよ」

 イツキもベータ・デバイスを取り出す。

『ベータ!』

『スキャニング!』

 そしてお互いに声が重なる。

「……変身」

「変身!」

『ローディング!』

『アプルーブ!』

 互いに流体状の金属が体を包み込み、そして変身が完了する。

 先に動いたのはイツキからだった。

「はぁ!」

 イツキは連続でパンチを繰り出す。カイドウはそれを、冷静に腕を使っていなす。

 イツキは攻勢をかけるものの、カイドウはそれをゆっくり後ろに下がりながら受け流していった。

「攻撃ばかりでもったいないな。攻撃はこうするものだ」

 そういってカイドウは、防御から一転して攻勢に出た。パンチ、キック、エルボーなど、多彩な攻撃を繰り出してくる。

 イツキは回避に専念するものの、それでも戦闘経験の高いカイドウの攻撃に押され続ける。

 そして、だんだんとカイドウの猛攻へなっていき、そしてイツキは最後に胸にパンチを食らってしまう。

「ヴッ……!」

 イツキはそのまま数歩下がるほかなかった。

「所詮はその程度の人間なんだよ、イツキ」

「その程度……?」

「そうだ。パワーアップはしたようだが、ただ力に溺れているだけの弱者だ」

 そう言われて、イツキは思わず俯いてしまう。

「……そうだな。俺は弱い人間だ」

 イツキがカイドウの言葉を肯定する。

「だから、いろんな人たちに支えてもらっている。ミネ博士、ジョーさん、レジスタンスの皆……。その人たちの助けが無かったら、俺はここにはいない」

 そういってイツキは、顔を上げて一歩前に出る。

「俺が弱い人間なら、弱い人間なりに恩返しをする。それだけだ!」

 そういって、イツキはカイドウに襲い掛かる。

 先ほどの攻勢とは打って変わって、イツキはバランスの良い攻撃をしていく。まるで別人のようだ。

 カイドウも危機感を感じ、攻守を混ぜ合わせた格闘戦になっていく。

 そしてお互いに拳が胴体に命中し、二人とも後ろに体を持っていかれる。

「俺は、俺のやり方で前に進む!」

 そういってイツキは、バックルを両手で押し、右側を押す。

『ベータ ファイターパンチ!』

 一方でカイドウは、無言でバックルに装填されているアイテムの端にあるボタンを押し、アイテムの右の大型ボタンを押す。

『スクリプト レイズパンチ!』

 二人の拳にエネルギーが溜まっていく。そして二人同時に駆けだす。

 そのまま拳同士がぶつかり合い、周囲に衝撃波が発生する。

 それによって、イツキとカイドウのそれぞれの体は、吹き飛ばされるのであった。

「いっつぅ……!」

「ぐふっ……!」

 両者ともに地面に横たわっていたが、先に立ち上がったのはカイドウのほうだった。

 カイドウは変身を解除すると、そのまま踵を返す。

「今日は相打ちで手を打ってやる」

 そういってカイドウはそのまま森の中へと消えていった。

 イツキも仰向けになってデバイスを引き抜き、変身を解除する。

「相打ち、か……」

 勝つことはなかったが、負けることもなかった。イツキは確かな自信を感じる。

 一方カイドウは、その足で「オール・ワン」の四天王に会いに行った。

『よく来たな、スクリプト』

「歓迎していないのはよく分かった」

『それで、ヘリクゼン・アルファ……、いや今はヘリクゼン・ベータか。ヤツの攻略は出来そうか?』

「策があれば何とかって感じだ」

『策? それはどのようなものだ?』

「単純な話だ。アイツのアイテムを奪取する」

 カイドウの目には、決意のようなものがにじみ出ていた。

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