第26話 連続

 調査もひと段落し、調査班は一度インスタンスに戻ることにした。建前は今日の調査範囲の終了だが、本音は会敵したため撤退するような状態である。

 インスタンスに戻り、調査班はそのまま情報統合室に戻っていく。イツキは特にすることがなかったため、当直室に向かう。

 中に入ると、ジョーが戦闘員と仲良く話をしていた。

「おう、イツキ。戻ってたか」

「お疲れ様です。こっちは問題ありませんでしたか?」

「あぁ、特にはないぞ。そっちはどうだった?」

「ものの見事に『オール・ワン』の下級戦闘員と遭遇しました……」

「あらら、それは大変なこった。それで? 当然全員ぶっ潰してきたんだろ?」

「えぇ、もちろん。ですが一つ気になる戦闘員がいまして……」

「気になる?」

 イツキは、強化戦闘員のことを話す。

「……強化戦闘員ねぇ。確かに下級戦闘員の強化形態ともなれば、より警戒を強める必要がありそうだな……」

「強化戦闘員のレベルだと、もうレジスタンスの戦闘員では太刀打ちすることは不可能かと思います」

「そうなれば、より俺らの力が必要不可欠ということか。こりゃ面倒なことになったな」

 そういってジョーは、椅子の背もたれにどっしりと背中を預ける。

「そのことは博士には言ったのか?」

「いえ、まだです」

「早めに言っておかないと、博士たちも対応するに出来ないだろ」

「そうですねぇ……。じゃあ、今行ってきます」

 イツキがパイプ椅子から立とうとした。

「あぁ、ちょいと待て」

 それをジョーが止める。

「なんですか、人が行動しようとしてる時に……」

「いやまぁ、今博士の所に言っても席が空いてるだけだってのを思い出してな」

「ミネ博士、どこかに出かけてるんです?」

「ちょっと前まで使ってた前哨基地に行くとか聞いたが……。とにかく今は不在だ」

「そうですか……。なら報告は後回しにせざるを得ないですね」

 そういってイツキは再び椅子に座った。

 その時である。

「警報発令ー! 東より影見ゆ!」

 当直室にいた全員が、一斉に外に向かって走り出す。

 そしてそのまま東と思われる方向に走った。

 イツキたちの目の前に現れたのは、「オール・ワン」の下級戦闘員が2体である。

「たった2体で何が出来るってんだ?」

 ジョーは後ろにいるレジスタンスの戦闘員に合図を送る。レジスタンスの戦闘員は銃口を敵の戦闘員に向けた。

 その時、イツキは気がつく。

「あれは……!」

 敵の戦闘員は、両方とも手にガラス板を持っていた。そして、そのままガラス板を体の前に持ってくる。

「コウチク」

 2体の戦闘員は胸にガラス板を突き刺す。すると当然のように、ガラス板を中心に流体状の金属が鎖のように下級戦闘員を覆い囲み、そしてその姿を変化させる。

「まさか……!」

「そうです……。これが、強化戦闘員……!」

 イツキとジョーはバックルを装着する。そのままアイテムをバックルに装填した。

「「変身!」」

 ヘリクゼン・ベータとシャープに変身すると、それぞれ1体づつ相手にする。

 イツキはすでに戦闘経験があるため、比較的優位に戦闘を行う。そのため、一撃一撃を確実に決めていく。重い一撃を食らう強化戦闘員は、ジリジリと後ろに後退していくほかない。

 一方でジョーの方は、まだ強化戦闘員との戦闘に慣れていない感じがしている。そのため、互いに間合いを見極めるための膠着状態が続いていた。しかし、強化戦闘員が半歩前に足を出したところをジョーは見逃さない。

 ジョーは体を思い切り前に出し、そのまま倒れこむように突きをかます。その様子はまるでフェンシングのそれを思い出させるだろう。

 それにより、強化戦闘員にダメージを与えることに成功する。後ろによろめいたところを見逃さず、ジョーは追撃のために剣を振るう。

 ジョーの猛攻により、強化戦闘員は間合いを取らざるを得なくなった。

「今だ!」

 ジョーはバックルに剣を一度納刀し、アイテムの上部にあるボタンを押す。そしてすぐに抜刀した。

『シャープ ソードスラッシュ!』

 ジョーは大きく剣を引く。

「食らえっ!」

 そして横に大きく振った。それにより、剣から斬撃が発生し、そのまま強化戦闘員のほうへと飛んでいく。

 強化戦闘員は何も出来ずに、斬撃をまともに食らってしまい、大爆発した。

「一丁上がり!」

 イツキはその様子を、強化戦闘員と戦いながら見ていた。

「やっぱジョーさんは凄いな……。俺も行くか」

 そういってイツキは強化戦闘員に連続でパンチを食らわせ、大きくのけ反らせる。

 その瞬間を逃さんと、すかさずバックルを両手で押し、続けて右側を押した。

『ベータ ファイターパンチ!』

 強化戦闘員に向かって走り出し、そしてタイミングよく右の拳を振るう。

 体の中心に叩き込まれたエネルギーが、やがて強化戦闘員の全身に浸透していく。

 イツキは拳を振り切ると、そのまま後ろを振り返って少し歩いた。イツキが数歩歩くと、強化戦闘員の体が爆発し、木っ端みじんとなった。

 その結果ガラス板2枚が吹き飛び、地面に転がるものの、両方とも下級戦闘員が回収していく。そして爆発の煙に乗じて、姿を消した。

 イツキとジョーは変身を解除して、状況を確認する。

「確かに、ガラス板のような物を使っていたな」

「でしょう? アレが何なのかはさっぱり分かりませんけど」

「証拠として持って帰れるのなら、便利なんだけどなぁ」

「あの爆発ですし、無傷で回収は不可能だと思いますよ」

「そうだな。現状は、下級戦闘員の戦闘力を一時的に向上させるバフアイテムって所か」

「とにかく、このことは早めにミネ博士に言わないとですね」

「あぁ、そうだな」

 そういってイツキたちは、インスタンスに戻る。

 その様子を、超望遠カメラで見ている者がいた。「オール・ワン」だ。

 大広間にて、四天王と共にルビーとスイフトが画面を見つめていた。

「……いかがですか? 戦闘力向上アイテムの『クラッキング・アーカイブ』は」

 そうルビーが得意そうに言う。

「私のアイテムを参考に開発されたアイテムですが、下級戦闘員の戦闘力をシャープ程度にまで押し上げることが可能です。さらにアイテムを回収することが出来れば、アイテム内に蓄積されたデータを解析し、次の下級戦闘員の糧となってくれます」

 まるでプレゼンのように、大きな身振り手振りで四天王に解説する。

「これが使えれば、通常の怪人を製造するより、遥かにコスト面が良いと思いますが、どうでしょう?」

 そういってルビーは四天王に問いかける。

『確かに魅力的なアイテムだ。下級戦闘員の大きな改造なしであれだけの戦闘力を引き出せるものなのだな』

『コストも抑えられている。実に素晴らしい』

「ありがとうございます」

『次も努力せよ』

「もちろんです。では失礼します」

 そういって、ルビーとスイフトはその場を去る。新たな脅威を抱えて。

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