第25話 反省
その後、罠に引っかかった戦闘員たちを救出したのち、調査班のメンバーの救助に回る。
幸いにも大きな怪我などなく、全員無事にインスタンスへと戻ってくることが出来たのであった。
そして、イツキとジョー、戦闘員たちの最高指揮官、技術員数名とミネ博士が会議室に集合する。
「最初に、今回の件に関してですが、調査班の編成及び派遣命令を出した私に非があります。その場の空気に飲まれてしまったのが原因でしょう。ですが、全員が無事だったのは喜ばしいことです。今回の件で、調査という危険性を再確認出来ました。これからは慎重に行くことを約束します」
「過ちは誰にでもあります。今回の件については教訓にすれば良いでしょう」
そういって指揮官が答える。
「では、今後について話していきましょう。我々の最終目的は『オール・ワン』の本拠地を発見し、これを撃破することです。ここまで質問は?」
誰も質問しない。
「では続けます。敵の本拠地を発見するためには、周辺の調査が必要不可欠です。残念ながら、現在手元にある地図では役に立ちません。そのため、目視による地図の作成が重要になります。さらに、敵の襲撃方向を確認すれば、『オール・ワン』の所在が分かります」
指揮官と技術員たちが頷く。
「しかし、調査班を派遣するだけでは危険であることが今回再認識されたでしょう。これは私個人の話ですが、敵の本拠地を発見するためには、どんな犠牲も払う覚悟があります。ですが人員は有限です。『調査』と『調査の防衛』を同時に行う必要があるでしょう」
そういってミネ博士はイツキの方を見る。
「そのために、イツキとジョーの両名による護衛が必須と考えます」
それにイツキが反応する。
「それって、自分たちのことを使いつぶすって言ってるようなものですよね……?」
「察しが良くて助かります。つまりそういうことです」
イツキは手を頭にやる。ミネ博士の本性が出てきたからだ。
「現状はインスタンスの東側を中心に調査を行っていくことが必要でしょう。その調査班にはイツキかジョーを配属させます。調査班自体も、戦闘員の中でも精鋭を選ぶ必要があります」
「精鋭を選ぶのはいいですが、後進の育成も必要です。精鋭戦闘員と中堅戦闘員を混ぜた編成を提案します」
そう指揮官が提案する。
「それもそうですね。ではそのようにしましょう。イツキとジョーも問題ないわね?」
「あー……、はい。問題ないです……」
「俺からも問題はない」
イツキは拒否権がない事を察しながら、ジョーは自信満々に返事する。
「では、指揮官はローテ出来るような班編成をよろしくお願いします」
「了解」
「次に技術研究班のほうから」
ミネ博士が技術員たちの方を見る。すると、技術員の一人が報告を始めた。
「まず、イツキさんが持っているヘリクゼンバックルに適合出来る新しいデバイスを開発中です。それに関連して、ジョーさんのシャープバックルに使えるアイテムも同時並行して開発しています。デバイスに関しては、ベータ・デバイスの開発と言う実績があるため、1ヶ月程度で完成する予定です。ジョーさんのアイテムは、現状では技術やノウハウが足りていないことから、開発が難航しています。おそらく2ヶ月から3ヶ月はかかるかと……」
「俺の事なら心配するな。これでも戦闘員の教育をしていたからな。体にしみついた技術がある」
「そう言っていただけると幸いです」
そういって技術員は報告を終えた。
「では数日以内に調査班を再編成し、調査に向かわせます。以上、会議を終了します」
そういって、それぞれ会議室を出ていく。
「インスタンス防衛と並行して、調査班の護衛もこなしていくことになるのか……」
イツキが不安そうに言う。
「なんだ? 何か心配事でもあるのか?」
「敵もバカではないはずです。今よりももっと強力な敵が出てくるかもしれないですし」
「まぁ、確かにそうだろうな。だが、心配ばかりしていると今度は何も出来なくなる。何事もほどほどが一番ってこった」
「……そうですね」
そんなことを話しながら、イツキは当直室へと向かった。
数日後、精鋭と中堅の戦闘員が混ざった調査班が編成される。そして再び東と思われる方向へと向かう。
今回の護衛には、イツキが選ばれた。
早速東と思われる方向へ出発する。
約1時間も歩けば、前回救助活動を行った場所へと到着した。
「さて、この辺から地図を更新するか」
そういって何人かで地図作成に入る。イツキを含めた残りの戦闘員は周辺の警戒に入る。
イツキは、前回の罠が残っていないか念のため確認して回る。
「大丈夫そうだな……」
そういって、調査班からどんどん遠ざかっていく。
50メートルほど離れたところまで進んで、罠がないことを確認した。
「よし。じゃ、一度戻って……」
踵を返そうとした所で、イツキは何かを感じ取った。
「っ!」
反射的に体を横にずらすと、元いた場所を何かが高速で通り抜ける。
イツキは後ろを振り返ってみると、そこには『オール・ワン』の戦闘員が大量にいた。
「敵襲ー!」
イツキは調査班に聞こえるように大声で叫ぶ。
そしてバックルを装着し、デバイスを装填する。
「変身!」
『ファイター ヘリクゼン・ベータ!』
すぐに変身したイツキは、そのまま戦闘に入る。
とはいっても、大したパワーを持っていない下級戦闘員だ。パワーアップしているイツキの前に、どんどんと倒されていく。
そんな時イツキは、とある戦闘員の様子がおかしいことに気が付く。
「なんだ……?」
周りと同じ下級戦闘員であるが、後方で同胞の様子を伺っている。なによりひときわ目を引くのが、その手に持っている「何か」であろう。
「あれは……」
よく見てみると、それはルビーが持っているアイテムに似たガラス板だ。
だが残りの戦闘員は、ガラス板を持っている戦闘員のみとなっていた。ここからの逆転はほぼ不可能だろう。
その時、戦闘員はガラス板を自分の目の前に持っていき、呟いた。
「……コウチク」
イツキは驚いた。下級戦闘員がしゃべっているのを初めて見たからだ。
それに驚くことが続く。下級戦闘員はガラス板を自分の胸に突き刺したのである。
すると、下級戦闘員の体がボコボコと変形し、その姿を変化させていく。
最終的には変身したルビーと同じような見た目になった。
「何だこいつ……!」
その戦闘員は、ゆっくりとイツキのほうに歩いてくる。イツキはそれを迎え撃つべく、拳を振るった。戦闘員は攻撃を食らうものの、簡単には倒れなかった。
それどころか、イツキに反撃してくる。イツキは攻撃を受け止めるものの、一撃が下級戦闘員のそれとは全く違う。
「こいつ、強化されてる……」
その強化戦闘員は、まるで格闘者のように攻撃をしてくる。今までの戦闘員はプログラムされたような戦い方であったが、強化戦闘員はまるで人間のように戦ってくる。
「ぐっ……! この!」
イツキも全力で応戦する。お互いにパンチを繰り出しているような状態になり、その様子はまるでボクシングの試合のようだ。
そして強化戦闘員がパンチを繰り出したところで、イツキが下にかがむ。そのままイツキはアッパーを強化戦闘員の顎に決めた。
その影響か、強化戦闘員はフラフラと後ろによろめく。その瞬間をイツキは見逃さなかった。
イツキはバックルを両手で押し、すぐに左側を押した。
「ヘリクゼン ファイター・キック!」
地面スレスレの超低空からの、真横に飛ぶキックで強化戦闘員を貫く。
これにより、強化戦闘員は爆発四散した。
この時、爆発によってガラス板は吹き飛ばされたが、すぐ近くにいた敵の戦闘員がすぐに回収し、そのまま持ち去ってしまう。
「ふぅ、なんとかなった」
この日は進んだところまでの地図作成に留めて、帰還するのであった。
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