第23話 ベータ
「オール・ワン」の本拠地。その大広間。
そこにルビーとスイフトがいた。
『アルファとシャープに接触したようだな? 実力のほうはどうだ?』
「正直私たちのいる場所までは来てない感じですねー」
「どうしてスクリプトが負けたのか疑問すら感じます」
『そうか。スクリプトの監視をしているよりは、直接ルビーとスイフトが手を下したほうが早いかもしれん』
「それ賛成です。スクリプトなんかに任せてないで、手っ取り早くそうしたほうがいいですよ」
「まぁ、合理的ではありますね」
『では、改めて命令する。ルビー、スイフト。アルファとシャープを消してこい』
「了解」
そういって二人は大広間を出ていった。
そこに、現れなかった人間が一人。カイドウである。
カイドウは大広間の物陰に隠れて、先ほどの会話を聞いていたのだ。
「所詮、俺は要らない存在なのか……」
腕を掴み、強く握りしめる。
「……いや、傭兵なんてそんなもんだ。でも……」
そのまま誰にも悟られないように、その場を去る。
「……誰かに知ってもらいたいだけなんだ……」
一方インスタンスでは、ミネ博士が懸命にパソコンに向き合っていた。
「ミネ博士、最近寝てるんですか?」
イツキは、残りのデバイスのデータを引き抜いてもらうために研究室に出向いていた。
そこでイツキは、忙しそうなミネ博士に代わって技術員の一人にデバイスを渡す。
「あんな顔してますけど、あれでもきっちり8時間睡眠してるんですよ。なかなかにタフなんですよね」
技術員はデバイスを受け取る。
「じゃあ、以前渡してもらったデバイスは返しますね」
「どうも」
現状、最強の形態であるファイター・デバイスとミサイル・デバイスを返却してもらった。
そのままイツキは、研究室を出る。
「さて、今日はっと……」
イツキは、今日の予定を確認する。この後数時間は暇になっている。その後は当直に入り、当直の後は終日哨戒任務が割り当てられていた。
「相変わらず鬼のようなスケジュールだ……」
しかし、ここで穴を開けるわけにもいかない。イツキは休憩をできるだけ確保しようと、個室へと向かったのである。
それから約1週間。この日の朝からはイツキが当直になっていた。
「おはざーす」
「おはようございます」
「お疲れさん」
イツキが挨拶して入ってくると、自然と挨拶が返ってくるくらいには、戦闘員との友好も図れている。
「最近は『オール・ワン』の動向を聞かないですね」
「敵さん、もしかしたら手下の数を増やして戦力拡大しているかもしれねぇぞ?」
「あり得ますね。ここまで音沙汰なしなんですから、何か大きな事が起こる前兆かもしれません」
「そんなことがあっても、自分が全部なぎ倒しますよ」
「イツキにそんなこと言われちゃ、信用するっきゃねぇな」
そういって当直室は笑い声に包まれる。
だが、本当に油断している場合ではない。イツキの脳裏には、前回の戦闘の記憶がよぎる。もし、これ以上の戦闘能力の向上が見られないのなら、レジスタンスは「オール・ワン」に敗北する可能性もありうるのだ。
それだけは絶対に避けなければならない。
そんな時である。
「警報発令! 警報発令! 東方向より影見ゆ!」
その言葉に当直室から笑い声が消え、すぐさま戦闘準備が始まった。
戦闘員は銃を持ち、イツキはバックルを装着する。準備が整わないまま外へ走り出す戦闘員もいるほどだ。
イツキも急いで外へと走り、敵と思われる影が見えた東の方向へと走る。
するとそこには、見たことのある二人の影が。
ルビーとスイフトである。相手は戦闘員を連れてきていないようだ。
レジスタンスの戦闘員は銃口を二人に向ける。
「何しに来た!」
イツキが先頭になって、ルビーとスイフトに疑問を投げかける。
「何しにって、一つしかないでしょ?」
「アルファとシャープの殲滅。それ以外に何かありますか?」
「くっ……」
それを言われると、前回の戦闘の惨敗を思い出してしまう。
「大人しく引き下がったほうがいいんじゃないのー?」
ルビーがそんなことを言って煽る。
「確かにそのほうが賢明かもしれない。だけど、自分には信用してくれている仲間がいる! だから決して逃げない!」
「よく言った」
そこにジョーも参戦してくる。
「俺たちはお前らのようなヤカラに支配されるつもりは毛頭ない。この世界で生きる全ての人間に生きる希望を与えるのが、俺たちの役目だ」
そういってジョーもバックルを装着する。
「ま、結局暴力で解決するのが一番ってわけね」
ルビーもバックルを装着した。
「当然でしょう。古来から人間はそうやって生きてきたのですから」
スイフトは背中から大鎌を引っ張り出す。
そして4人は、それぞれのアイテムを取り出して、バックルに装填する。
「「「「変身」」」」
それぞれがそれぞれの格闘者に変身した。
イツキは現在最強の形態、ファイターフォーム・パワードミサイルに変身する。これでどれだけ戦えるか、それはイツキの技量次第だ。
そして双方ともに走り出す。
イツキは再びルビーと格闘する。だが今回のイツキは遠距離戦闘形態。まともに接近せずに遠距離で攻撃を浴びせる戦法だ。
最大の火力であるガトリング砲で弾幕を張り、ルビーの後方に回すようにミサイルを展開させる。
それをルビーは軽い身のこなしで回避していた。
「くっ、厄介ね……!」
ルビーは弾幕を回避すべく、イツキに対して横に移動する。その間にミサイルに射撃をして対処した。
それでもイツキからの物量はとんでもないもので、全てを回避することは出来ない。いくらかのダメージを受けるだろう。
一方でジョーのほうは、前回の戦闘で何かを得たのか、スイフトに対して首尾よく戦っていた。
詳しく言えば、剣を振るのではなく、突きをしている。これによって大型の武器である大鎌の攻撃を実質的に無力化しているのだ。
「おらおらどうしたぁ! この間の威勢がないなぁ!?」
「うるさいですよ、おっさん!」
しかし、一度攻撃を看破されてしまっては防御もタドタドである。
それに、イツキのミサイルの援護もあり、スイフトはかなり劣勢だ。
そして最終的には、ルビーとスイフトは追い込まれた状態になる。
「うぉぉぉ!」
そこにイツキはあらん限りの弾丸をミサイルを浴びせる。これでもはや二人はおしまいだろう。
だがルビーは慌てていなかった。バックルの正面にあるレバーのような物を横に引っ張った。
その瞬間に攻撃が命中する。爆発が起こり、レジスタンス側は誰もが勝利を確信した。
しかしジョーは気付く。
「いや、まだだ!」
すると、イツキとジョーに超高速の光の弾丸が飛んでくる。
イツキは空中で待機していた上に、油断していたためまともに食らってしまう。ジョーは剣で弾丸を一つ弾いたが、他の弾丸が命中してしまい、その場に倒れた。
イツキは地面に叩きつけられる。その衝撃でまともに立つことが出来ない。
「い、一体何が……」
「ごめんねー。私、第2形態があるの」
そういって煙の中から出てきたルビーは、装甲はそんなに代わっていないが、手に持っている銃が2丁になっていた。
「第2形態……!」
「そ。さっきよりはパワーアップしてるハズだから、もう負けないかもね」
そういって銃口をイツキとジョーそれぞれに向ける。
そして弾丸を撃った。拳銃程度の大きさなのに、まるでマシンガンのように大量の光の弾丸が放たれ、イツキたちは戦闘不能に陥ってしまう。
「ぐぅ……! これはヤベェ……!」
「うぁ……!」
ルビーの横に、スイフトも現れる。
「さっきは不覚をとりました。もう負けません」
「だって。もう負け宣言したらー?」
そういってルビーが煽ってくる。
イツキとジョー、命の危機だ。
その時である。
「イツキさーん!」
インスタンスの方向から、戦闘員が走ってくる。
「ミネ博士からのお届け物でーす!」
それを聞いたイツキは察した。おそらく新しいデバイスが完成したのだろうと。
イツキはこれ以上の攻撃を顧みず、戦闘員のほうへ飛んでいく。それにルビーは一瞬反応が遅れた。
そしてイツキは戦闘員の横に滑り込むと、そのまま戦闘員が持っていたデバイスを奪い取る。
再び前線のほうに戻ってくると、ルビーたちの前に立つ。
「俺は、レジスタンスを守るために、自分を犠牲にする……!」
イツキは敵の目前でありながら、バックルに装填されていた三つのデバイスを全部取り外す。つまり、敵の目の前で変身を解除したのだ。
そして今、手元にあるデバイスを顔の横に掲げ、ボタンを押した。
『ベータ!』
それを上部の穴に装填する。
『スキャニング!』
腕を交互に回し、そして胸の前でクロスさせる。
「変身!」
そのままバックルの前面を両手で押した。
『アプルーブ!』
バックルから流体状の金属があふれ出す。しかし、アルファ・デバイスと違う所は、これまで無秩序に覆っていた金属が、イツキの体の表面をなぞるように展開していった点だろう。
そして各部の装甲がせりあがるように装着され、変身は完了する。
『ファイター ヘリクゼン・ベータ!』
「俺はお前を、書き換える!」
これが新しい姿であった。
「たかが普通の人間の分際で、バックルに適合するアイテムを作ったのですか……!?」
その様子を見ていたスイフトは、とても驚いているようだ。
「そ、そんなの、私の攻撃でなんとでもなるわ!」
そういってルビーは、イツキに銃口を向けて引き金を引く。
弾丸が発射されるものの、ベータの装甲の前では意味がない。
「き、効いてないの!?」
「あぁ、全然効いてない」
イツキはそのように答えると、ルビーとの間合いを一瞬で詰める。そしてそのまま、ルビーの腹部にパンチを一発入れた。
その衝撃で、ルビーは軽く数メートル吹っ飛ばされる。
「あぁ……!」
その様子を一番近くで見ていたスイフトは、恐怖で動けなくなっていた。
「お前、今動けないだろ?」
それをイツキに看破されてしまう。
イツキはスイフトの前に立つと、少々重いパンチを複数回スイフトにお見舞いする。
数歩後ろによろけたスイフトに、イツキは回し蹴りを食らわせた。
「おぅぶっ!」
スイフトもルビーの横辺りに吹っ飛ばされてしまう。
「さて、まだ戦うか?」
イツキはゆっくりとルビーたちに近寄る。
「きょ、今日はこの辺にしておいてあげるわ!」
そういってルビーとスイフトは、変身を解除してその場を去った。
「ふぅ……」
イツキは変身を解除して、深く息を吐く。
「イツキ」
そこに、同じく変身を解除したジョーもやってきた。
「よくやった」
「……はい」
こうして、何とかルビーとスイフトの脅威に立ち向かえたイツキであった。
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