第18話 叱責
とある大広間。カイドウは「オール・ワン」の四天王に呼び出されていた。
『スクリプト。なぜ呼び出されたのか分かるか?』
「……アルファに負けたからか?」
『その通りだ。情報によれば、あっさりと敗北したようじゃないか』
「そこまで見ているんだったら、助けに入っても良かっただろうに」
『我々が手を出すまでもないから、お前に依頼したのだ。そのための傭兵だろう?』
「ま、そうだな」
『貴様、我らの反感を買っているというのか?』
『そもそもの話として、今までチャンスがあったのにお前がアルファを仕留め損ねたのが悪いのだろう。なぜ強化形態になる前に仕留めなかった?』
「まだ覚醒前だと判断したからだ」
『しかし危険性は理解していたはずだ。前回の話でもあったはずでは?』
『もういい。貴様とは手を切る』
『いや、待て。それは早計ではないか? 今はスクリプトと協力関係のままでいる必要が……』
『それは駄目だ。我々に敵対するであろうアルファを狩れない時点で、もはや戦力外だ』
四天王の間で意見が割れる。カイドウはそれを、一切興味ない顔で聞く。
数分後、四天王の意見がまとまる。
『とにかくだ。現状はスクリプトの依頼は継続とする。しかし、早急にアルファを処分出来なければ、契約は無効とする。そうなればお前がどうなるか、分かっているな?』
「……了解」
そういってカイドウは大広間を出る。
そして、少し歩いたところで壁を殴る。
「クソ……! 報酬の薬が貰えなくなるのは勘弁だ……!」
そういってカイドウは自分の手を見る。
「そんなことになれば、俺は……」
震える手で顔を覆う。そして深呼吸をした。
「問題ない。イツキを葬り去ればいいだけの話だ」
そういってトンネルの中を歩いていく。
カイドウが完全にいなくなったところで、四天王の一人が誰かを呼ぶ。
『ルビー、スイフト。いるだろうな?』
「はい。ここに」
どこからともなく、二人の人間が出てくる。
『ルビー、スイフトよ。お前たちに任務を与える。スクリプトの様子を監視してほしい』
「問題ないですよ。我々にお任せください」
「それよりもアルファのほうが気になります」
ルビーとスイフト。この二人こそ、「オール・ワン」の中でも精鋭と呼ばれる逸材である。
『スクリプトがアルファを葬り去ることが出来なかったときは、お前たちがアルファを仕留めてくるのだ』
『では、頼んだぞ』
「はっ」
そういうと、二人はまるで煙のように消える。
新たな敵の出現は、イツキに何をもたらすのだろうか。
そんなことはつゆ知らず、インスタンスではイツキのバックルの解析が行われていた。
「あらかたの戦闘データが引き出せたわ。このデータを使えば、あのバックルを再利用出来るかもしれないわね」
そういってミネ博士は、研究室の中央に置かれているヘリクゼンバックルを見る。未だにどうやって使うのかも分からないバックルであるが、ミネ博士には何か考えがあるのだろう。
「やはり戦闘データというスターターが必要なのは間違いないわ。そうなれば、あのバックルが今まで反応しなかったことにも説明がつく」
何かブツブツ言っているが、イツキはあえて無視した。
「そうだわ。イツキ、あなたのデバイスも全部貸してちょうだい。これらからもデータを引き抜くわ」
「別にいいですけど、データの引き抜きしている間に敵が来たらどうするんですか?」
「問題ないわ。今までの敵の出現を数値化しているわ。それによると、今日から4日くらいは怪人や敵の戦闘員は出てこないわね」
「それって当てになるんですか……?」
「精度は悪くないわよ」
イツキは言いたいことを飲み込んだ。これ以上不毛な押し問答を続けても意味はないと理解しているからだ。
「それと、ジョーにイツキの訓練するように伝えているから」
「はい?」
ミネ博士からの突然の連絡に、イツキは思わずビックリする。
当然だ。急にそんなことを聞かされたからである。
それと同時に、研究室の扉が開く。
「イツキ! いるか!?」
ジョーである。わざわざ呼びに来たのだろう。
「お、いたいた。今日も訓練するぞ」
「え、いや……。自分はバックルの調整があるので……」
イツキは即興で言い訳を考えた。
「残念だけど、あなたが関わる調整はありません」
それをミネ博士がバッサリ切り捨てる。
「それじゃあ行くぞ!」
「そんなぁ……」
こうしてイツキは、ジョーに引きずられながら外へと出されるのであった。
それから数時間、みっちりと訓練をさせられる。訓練が終わったのは、外が暗くなり始めたときだった。
「うぅ、疲れた……」
イツキはそのまま個室に戻ろうとする。
しかしそれは、ミネ博士との遭遇によって止められた。
「イツキのバックルの情報を使って、例のバックルを起動させようとしたのだけれど、上手くいかなかったわ。もしかしたらそのまま使うのでは駄目なのではと思って」
「はぁ。しかし、なんでそんな話を自分に?」
「バックルのことをよく知っているのはあなたでしょう? あなたの感想がヒントになると思ってね」
「さいですか……」
そんな時、イツキはある疑問が浮かんだ。
「ミネ博士、もしあのバックルが起動したとして、それを誰が使うんです?」
「それはもちろん、これから決めるわ」
イツキは思わずコケそうになった。
「でも、誰でもいいわけではないわ。当然、選抜のようなことはするつもりよ」
「そうなると、戦闘員の中でも特に戦力になりそうな人が候補ですね……」
「何言ってるの? レジスタンス全員が選抜対象よ」
「……へ? 全員ですか?」
「そう。戦闘員、少年少女、避難民も全員合わせてね」
「そ、それはちょっと無茶じゃないですか?」
「そうでもしなきゃレジスタンスに勝ち目がないって分かっているでしょう?」
「そうですけど……」
そこでミネ博士は歩き出す。
「今日の立ち話はここまでね。また明日も訓練頑張ってちょうだい」
「……うす」
そうしてイツキは、個室に戻るのだった。
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