第19話 適合
それから数日。ミネ博士と研究員は、研究室に籠って例のバックルを起動するために試行錯誤を繰り返していた。
そして一昼夜くらいの時間をかけた起動作業は、無事に成功したのである。
「……というわけで、例の回収したバックルを、あなたのバックルと区別するためにシャープバックルと呼称することにしたわ」
イツキは、目の下にクマを作っているミネ博士からそんな報告を受ける。
「……ちなみにシャープっていう名前の由来は?」
「シャープバックルに付属していたアイテムに、
「そうですか……」
「それで、一つあなたにお願いしたいことがあるのだけど」
イツキは少し嫌な予感がした。
「まず、あなたにシャープバックルを使ってほしいの」
「自分、すでにヘリクゼンバックル使ってますよ?」
「別に倫理的な問題があるわけではないでしょう? 複数のバックルを一人が使っても、なんら問題はありません」
そうミネ博士が断言する。少々考え方が歪なのだろうか。
「とにかく、現在はシャープバックルの使い方を作成している途中よ。それが完成次第、あなたにはシャープバックルで変身してもらいます。その時にはまた呼ぶわ」
そういってミネ博士は、その場を去る。
「なんでそういう役目ばっかり回ってくるかな……」
また面倒事に巻き込まれて、少々頭が痛くなってくるイツキであった。
それからまた数日の時間が流れる。簡易版であるものの、取扱説明書の初稿が出来上がっていた。
「取扱説明書から、変身に関する部分だけを抜粋したものよ。よく読んでちょうだい」
「うす……」
イツキは紙一枚を受け取り、その内容を読む。
手順は複数あるが、結構単純である。
「読んだ? すぐに変身して」
ミネ博士に急かされるように、イツキは外で変身することになった。
シャープバックルを腰に装着し、手にアイテムを持つ。アイテムは、小さいボトルのようなものであり、上部にボタンがついていた。
「イツキ、いつでもいいわ」
そう言われて、イツキは一つ溜息をついた。
そしてアイテムを右手に持ち、真横に持っていく。そしてボタンを押した。
『シャープ!』
それをバックルの前面にセットし、鍵のように90度回す。
『セッティング!』
アイテムがバックルに固定された所で、バックルの横にあるハンドルのような物を持つ。
「変身」
ハンドルを手前に回し、そのまま右に引き抜いた。
『ドローイング!』
ハンドルを回すと同時に、アイテムの前面が正面を向く。いつものように、バックルから流体状の金属がイツキの前進を覆う。
そして引き抜いたハンドルのようなものから、光の剣が伸びた。
『ソードマン シャープ!』
造形が露わになり、変身が完了する。その姿は、まるで中世の騎士団のような姿であったが、多少は動きやすいような恰好になっている。
「これがシャープの姿ね」
そういってミネ博士がやってくる。
「そういえば、ソードマンって言っていたわね。まさに剣士という雰囲気ね」
そういって変身したイツキの体をジロジロと見る。
「あの、もういいですか?」
「いや、待って。この状態でどれだけの運動性能を発揮出来るのか見てみたいわ。少し動いてみて」
「え、そんなこと言われてないんですけど……」
「ほら、早く」
かなり強引な指示を出すミネ博士。それでもイツキは従うほかなかった。
結局、シャープの身体測定のようなことを約1時間も行う。
「ふむ。剣に限らず、長物の扱いに関して補正のようなものがかかっているようね。その辺に関しては、イツキからは意見ある?」
「なんというか、最初から剣を扱えるような感覚がありますね」
「これは格闘者全般に言えることなのかしら? それともバックルが変身者の脳や体に影響を与えている証拠? どっちにしろ、少し不思議な話ね」
そんなことを呟きながらパソコンに向き合っているミネ博士。
「あのー、もう変身解除していいですか?」
「あ、いいわよ」
許可を貰ったイツキは、変身を解除する。解除方法も至って単純で、ハンドルもといグリップをバックルに近づけると、光の剣が勝手に消える。そのままバックルに納刀し、奥に回すと、アイテムが前に倒れる。そのままバックルを反対に回して取れば、無事に変身解除だ。
「それじゃあ、この後はシャープバックルの適合者を探す作業ね。幸いにも志願者が多くいるから、彼らから先に適合試験をしちゃいましょう」
そういって志願者から順番に、パソコン上でバックルの適合を確認する。
その作業だけで、また数日かかる。そして結果が出た。
「志願者のうち、適合率が0.1%を超える人はいなかったわ」
「……えっ」
研究室に呼び出されたイツキが聞いたのは、驚異的な適合の無さだった。
「何かの間違いとかじゃないんですか?」
「いいえ。試しに適合率が高かった数人にバックルを装着して貰ったのだけど、何も起きなかったわ」
そういってミネ博士は深く溜息をつく。
「あなたのバックルもそうだったけど、文字通り装着する人を選んでいるようね。まるでバックルが生きているみたいだわ」
「まぁ、そうかもしれませんけど……。それで、これからどうするんですか?」
「これから? 当然、適合者を見つけるまでよ」
「……それってつまり……」
「レジスタンスにいる全員を対象に適合検査を行います」
そういってミネ博士は手始めに、レジスタンスの戦闘員から適合判定を始めた。
そもそも適合判定を出すのに、30分から1時間もかかる。戦闘員の数はそれなりにいる。戦闘員全員を検査するのに、休みなしで2日もかかった。
それにより、全員適性なしという結果を得ることになった。
「まさか、こんなに適合がないなんて……」
珍しくミネ博士が落ち込んでいる。イツキにはかける言葉が見つからなかった。
「……次は訓練兵ね」
ミネ博士は気持ちを入れ替えたのか、すぐに次の適合判定の準備をする。
今回の適合判定には、見届け人としてイツキも参加させられた。
「強制参加とか聞いてないんですけど?」
「言ってないもの」
相変わらずミネ博士に振り回されるイツキであった。
そして最初の適合判定に、ジョーが選ばれた。
「俺が格闘者になっても、利益なんて何もないですぜ?」
「利益は適合出来てから考えます。始めて」
ミネ博士の言葉で、研究員が動き回る。ジョーの体に複数の電極が張られ、それがパソコンにつなげられる。そのパソコンの反対側にはシャープバックルが接続され、これによって適合判定がされるのだ。
こうして適合試験が始まった。
その直後である。
パソコンの画面が大きく変化した。
「おぉ……? おおおお?」
ミネ博士がそれを確認すると、すぐにキーボードを叩く。
「ミネ博士?」
状況変化に、さすがのイツキも気付く。
「適合率45%……。これはあるかもしれないわ!」
ものの数分で適合判定は終了し、ミネ博士はジョーに告げる。
「ジョー、あなたはシャープバックルとの適合率が45.4%あります。結論としては、シャープバックルとの適合有りと判断します」
「俺が、適合者……?」
ジョーは思わず聞き返す。
「そう、あなたが新しい格闘者よ」
ジョーもイツキも、唖然としていた。
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