第17話 決着

 本拠地からインスタンスの移転作業は、無事に終了した。怪人ビットを撃破してからは、特に襲撃を受けることもなくなった。そのため、スムーズに物資の搬出と人員の移動が行えたのだ。

「お疲れ様、イツキ。あなたにはだいぶ負担をかけてしまったわね」

 ミネ博士が机を挟んだ反対側にいるイツキに話す。

「まぁ、それが自分の仕事なら、別に大丈夫です」

「そう。とにかく、今は休んでちょうだい。またいつ怪人が現れるか分からないわ」

「分かりました」

 そういって、イツキは研究室を出る。

 イツキはミネ博士の言葉通りに、自分の個室へと戻る。いつものように大部屋を仕切りで区切っただけの、簡素な部屋だ。

 イツキは個室に戻ると、そのまま毛布にくるまった。

「だいぶ疲れた……」

 その疲れを癒すように、深い眠りへとつく。

 次に目を覚ました時には、すでに外は明るかった。一度体を休めたからか、体は鉛のように重い。

「……二度寝しようかな……」

 しかし、それではさすがに健康に悪いと思い、深く息を吐きながら起き上がった。

 重い足取りでインスタンス内を歩くイツキ。すると、遠くでイツキの方を見ながら何か話している数人を複数見かける。

「俺の陰口か……」

 レジスタンスの中ではかなり異質な存在であるイツキ。当然、それをよく思わない人間もいる。

「でもいい。俺は敵と戦えればそれでいいんだ……」

 ポロッとこぼした言葉に、イツキはハッとする。

「戦えればいいって何だ? 俺は自己犠牲がいいはずだったのに……」

 何か矛盾のようなものを抱えている。そうイツキは思った。

 そんなこんなで数日が経過する。イツキは療養のために、毎日散歩をするようになった。とは言っても、だいたいインスタンスの中か、レジスタンスの手の届く範囲のみだ。

 だいぶ体を酷使していたようだが、この数日で訓練を再開出来るほどにまで治ってきた。

 そろそろ訓練に戻ろうと思った矢先である。

「明日から哨戒任務に戻ってもらうわ。特に地図の空白地帯、私たちがまだ見たことない場所よ」

「……うす」

 ミネ博士のいうことなら仕方ない。イツキは哨戒任務に戻ることになり、当直室に向かう。

 その時だった。

「敵襲ー! カイドウだー!」

 その声を聞いたイツキは、反射的に外へと走り出す。

 カイドウは「オール・ワン」の戦闘員を大量に引き連れて、インスタンスに向かってきていた。

「今日はお前の命日だ、イツキ」

 そういってカイドウはバックルを装着し、アイテムを装填する。

『ローディング!』

『ファイター スクリプト!』

 そこに、まずレジスタンスの戦闘員がやってくる。

「総員射撃開始ー!」

 レジスタンスの戦闘員が銃口を向け、射撃を開始する。しかし、敵の戦闘員1体を倒すのにかなりの弾丸を使用している。このままでは、レジスタンス側の弾丸がなくなるのが先だろう。

 そこにイツキが走ってきた。

「カイドウー!」

 そしてアルファ・デバイスと3つ目のパワード・デバイスであるチェンソー・デバイスを取り出す。

『アルファ!』

『チェーンソー!』

『スキャニング!』

『サード・スキャニング!』

 イツキは走りながら、デバイスをバックルに装填する。

「変身!」

『アプルーブ!』

 バックルから流体状の金属が溢れだし、そのままイツキの体を包み込む。

『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』

『ノーマルフォーム・パワードチェーンソー!』

 両腕に沿うように、チェーンソーが生える。そのままチェーンは高速で回転を始めた。

「うらぁ!」

 イツキは走りながら、「オール・ワン」の戦闘員の群れの中へと切り込む。

 チェーンソーをうまく使い、次々と敵の戦闘員を撃破していく。

 その勢いはまさに、一騎当千といった所か。

「イツキに続け! 攻撃の手を休めるな!」

 レジスタンスも士気が上がったのか、どんどん前進していく。

 しかし、イツキは前進しすぎたのか、だんだんと敵の戦闘員に囲まれてしまう。

 それでも戦うことを止めない。

「俺は、負けるその瞬間まで、戦い続ける!」

 だが、敵の戦闘員の物量には負ける。敵からしてみれば、イツキによる孤独な戦いなのである。

「どうやらここまでのようだな」

 カイドウは後方で仁王立ちしながら、そんなことを呟く。

「俺は……! まだ負けてない!」

 イツキはバックルを両手で押し、すぐに右側を押す。

『アルファ ファイターパンチ!』

 チェーンソーが今まで以上に高速回転しだす。

 そしてそのまま、イツキは両手を広げてダブルラリアットの要領で回転する。すると、チェーンソーからの斬撃が周囲へと飛んでいき、そのまま敵の戦闘員を一掃してしまった。

 敵の戦闘員を跡形もなく撃破したイツキは、そのままカイドウと相対する。

「また強くなったようだな」

「カイドウ、今度こそ勝たせてもらう」

「出来るもんならな」

 数秒の静寂。先に動いたのはイツキのほうからだった。

 カイドウの方に歩いていき、そして近づくにつれて速度を上げていく。

「はぁ!」

 そのままチェーンソーを振りかざす。しかし、カイドウはそれを冷静に見切り、的確に回避する。

 そして近接戦闘へとなっていく。イツキは積極的に攻め、カイドウは回避に専念していた。

 イツキの攻撃は激しいものであったが、それでも荒々しい。その隙を狙ってカイドウはカウンターを決めていく。

「グッ……!」

 イツキはカウンターに耐えながらも、積極的に攻撃をしていく。

 イツキの攻撃はだんだんと激しさを増す。それによって、攻撃が次第にカイドウへと命中する。

 攻撃が命中するたびに、装甲から火花が飛び散る。時間が経過すると共に、火花の散る量も増えていく。

 しかし、カウンターの決め方が上手いカイドウのほうが一枚上手のようで、双方共に後ろに下がった。

「さすが強い……! だけど負けない!」

 イツキはチェーンソー・デバイスを引き抜き、ファイター・デバイスとミサイル・デバイスを取り出した。

『ファイター!』

『ミサイル!』

『スキャニング!』『セカンド・スキャニング!』

『ビルド・アップ!』

「変身!」

『アプルーブ!』

『ファイターフォーム・パワードミサイル!』

 そしてイツキは急上昇する。

「なにっ」

 カイドウは少々ビックリしているようだ。

 そんなことなどお構いなしに、イツキは攻撃を開始する。ミサイルでの飽和攻撃と、ガトリング砲による弾幕攻撃だ。

 さすがに対処しきれないのか、カイドウは横に走り出す。イツキの両腕に生えたガトリング砲はカイドウを狙い続けながら射撃される。

 怪人ビットよりミサイルの回避が上手いカイドウであったが、ありとあらゆる方向から飛んでくるミサイル攻撃によって逃げ場を失った。

「しまっ……」

 そのままカイドウは爆炎に巻き込まれる。

 煙が晴れたときには、カイドウは膝をついていた。

「クソ……、こんな所で倒れるわけにはいかない……」

 そんなことを呟くカイドウ。彼の前にイツキが降り立つ。

「カイドウ、なんでそんなに敵に加担するんだ?」

「加担? これは取引だ。今の自分に必要な物を奴らは持っているか。それを報酬として貰う代わりに格闘者として戦う。それが理由だ」

 カイドウに必要なものとは何か。今のイツキには理解できないだろう。

 そして同時に沸き上がってくる疑問。

「カイドウ、『オール・ワン』とは一体なんなんだ?」

 カイドウは、ヨロヨロと立ち上がりながら答える。

「『オール・ワン』は……、この世界の新たな秩序を作ろうとしている存在だ」

「新たな秩序……? 人間が住めなくなるような世界で、人間が生きていけない秩序を作る……?」

 イツキは思わず握りこぶしを作る。

「そんな……、そんな秩序なんて、要らない! 要るはずがない!」

 そういってイツキは、バックルを両手で押し、そして左側を押した。

『アルファ ファイターキック!』

 イツキは上空に飛び上がり、そしてファイターキックをカイドウに食らわせる。

 キックが命中すると、カイドウの体は地面を転がり、そしてスクリプトの変身が解除される。

「ぐぅ……」

 イツキも変身を解除し、カイドウの元へ近寄る。

「人間の世界は、俺が守る」

「……ククク、ハハハハ……! 大きな理想論に出たな。だが、それでも『オール・ワン』の力が必要になるはずだ……」

 そういってカイドウは何とか立ち上がって、その場を去る。

 その様子を、インスタンスの屋上からミネ博士が見ていた。

「カイドウを初撃破、ね。さて、この後はどうなっていくのやら」

 遠くのほうで、不安を煽るように雷の音が鳴り響くのであった。

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