第15話 ベストマッチ

 怪我を我慢しながら、イツキはインスタンスへと戻る。ちょうど機材が運び込まれる所だった。

「おう、イツキ。無事だったか」

 そこにジョーがやってくる。

「そちらも無事でしたか?」

「あぁ、戦闘員も機材も無事だ。その様子を見るに、そっちの戦闘もだんだんと厳しくなっているようだな」

「そうですね。昨日ミネ博士から新しいデバイスを貰ってなかったら負けてたかもしれません」

「そうか。ま、今は休憩してくれ。そのくらいの怪我なら、医務室に行かなくても問題ないだろ」

 ジョーはそのままインスタンス周辺の哨戒任務へと出ていった。

 イツキはインスタンスの自室に戻り、ガーゼとテープを取り出す。それを持って、共同の流し台に行き、水で怪我した所を洗い流した。

「いてて……」

 ヒリヒリと痛むが、このくらいなら問題はない。そのまま鏡を見ながらガーゼで怪我の部分を覆う。

 大雑把だが、何もしないよりかはマシだろう。

 そうして再び自室に戻り、ベッドに横になる。部屋自体はそこそこの大きさだが、仕切りを使って個室を作っている。そのため、ベッドを置くとほぼ自室が埋まってしまう。しかし、プライバシーが保障されている環境は少ないため、これでもありがたいほうだ。

 イツキは目をつむり、疲れた体を休めようとする。

 しかし、そうはいかなかった。

 金属がぶつかり合う音と、哨戒中の戦闘員の声が響き渡る。

「敵襲ー!」

 部屋の外では、戦闘員たちがバタバタと走り回る音がする。

「……あー、クソ!」

 イツキは疲れた体に鞭打って、個室を出る。全力で階段を駆けのぼり、屋上へと出た。

「敵はどこですか!?」

「あそこだ!」

 近くにいた戦闘員から、敵の場所を聞く。イツキはバックルを装着し、そのままアルファ・デバイスを装填する。

『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』

 変身したイツキは、屋上から飛び出して着地。敵のいる方向へと走る。

『俺は、お前らを、殺す』

 怪人ビットは空中に浮遊し、狙撃銃のような大きい銃を持っていた。その銃を使って、レジスタンスの戦闘員を百発百中で殺していく。

「うぉぉぉ!」

 そこにダッシュしてきたイツキが到着。走る速度そのままに、思いっきりジャンプする。

 そしてビットの足に手をかけた。

「はぁっ!」

 イツキは反動を活かしてビットの体にまとわりつき、どうにか銃を取り上げようとする。

 足をビットの首にかけて締め上げようとするが、ビットはピクリともしない。

『そんな、攻撃が、通用すると、思うか?』

 ビットは片腕だけで首にかかっていたイツキの足を解き、そのまま振り回す。

「うわぁぁぁ!」

 そしてイツキはそのまま投げ飛ばされ、地面と激突する。

「いっ……つう……!」

 先ほどの戦闘の影響もあり、イツキの体はかなり深刻な状態になっていた。

 だがこのままにしていれば、レジスタンスの戦闘員がどんどん失われる。

「こうなりゃ……!」

 イツキはバトルシップ・デバイスを取り出し、バックルに装填する。

『セカンド・スキャニング!』

『アプルーブ!』

 バトルシップフォームに変身したイツキは、全力の対空砲火をビットに浴びせる。

 ものすごい弾幕であるものの、ビットは目にも止まらぬ早さで対空砲火を回避する。

「これでも駄目なのかよ……!」

 これ以上に何か手段はあるのか。イツキは脳をフル回転させる。

 そして一つの答えを出した。

「今はこれしかない……!」

 そういってイツキは、バトルシップ・デバイスを引き抜いて、二つのデバイスを取り出した。

『ファイター!』

『ミサイル!』

 両脇にそれぞれデバイスを装填する。

『セカンド・スキャニング!』

『サード・スキャニング!』

『ビルド・アップ!』

「変身!」

『アプルーブ!』

 ヘリクゼン・アルファの全身の造形が大きく変化する。背中には偏向ノズル付き超小型ジェットエンジンと反重力型姿勢制御翼。両腕にはガトリング砲。肩には小型6連装ミサイルポッド。

 ヘリクゼン・アルファとは思えない造形へと変化した。

『ファイターフォーム・パワードミサイル!』

 それがこの形態の名前だ。

『……そんなもので、俺に、勝てると、思うか?』

 そういって、右手の人差し指を弾く。

 すると下に群がっていた敵の戦闘員が動き出し、イツキのほうへと押し寄せる。

 イツキは全く動じることなく、両腕のガトリング砲を戦闘員に向けた。

 ガトリングの銃身が勢いよく回転すると、弾丸をものすごい勢いで投射する。銃撃音が重なって、一つの音に聞こえるほどだ。

 それによって、敵の戦闘員は次々と倒され、そして爆発する。

『こいつ……!』

 今まで感情を露わにしていなかったビットが、少しだけ感情を出す。そして自分の銃をイツキに向け、問答無用で撃った。

 弾丸がイツキに到着する前に、イツキの姿が消える。

 ビットはイツキの姿を探して周辺をキョロキョロと見渡す。

 するとイツキは、はるか上空に存在していた。

「ここからはこっちの出番だ。俺はお前を、書き換える」

 すると肩についていたミサイルポッドから、明らかに装填された数以上のミサイルが発射される。

 耐G性能が非常に高いミサイルであるため、旋回半径が非常に小さく出来ている。そのため小回りが効きやすい。それは、人間と同程度の大きさの目標を狙うのにぴったりだ。

『ちぃっ!』

 ビットはミサイルから逃れるために、全力で宙を駆ける。無茶苦茶な機動を描くビットだが、ミサイルはぴったりとビットの後ろに張り付いていた。

 ビットは回避するのを諦め、銃撃でミサイルを落とそうとする。しかし、単純にミサイルの数が多く、一発一発丁寧に撃ち落としていてはキリがない。

 ビットは一度体勢を立て直そうと、地面ギリギリを飛翔する。

 だが、その先にはイツキが待ち構えていた。

「これでも食らえっ!」

 イツキは右ストレートをビットにかます。急な機動を行っていたため、ビットは完全に避けることは出来ず、腹部に食らってしまう。

 ビットの体が一瞬止まったところに、イツキはすかさず上から左の拳を叩き込む。

『ガッ!』

 これにより、ビットの体は地面へと叩きつけられてしまった。

 しかしビットもただではいない。素早く体を起こし、そのままイツキと肉弾戦を始めた。

 イツキもそれに応戦する。

 互いに殴り合い、蹴り合いが行われるものの、残念ながらどれも決定打にはならなかった。互いに遠距離攻撃優位の装備をしているからだ。

 しかしそれでもイツキは諦めない。イツキはガトリング砲を回転させ、いつでも射撃可能な状態にする。

 そしてチャンスは訪れた。ビットの腹部ががら空きになったのだ。イツキはすかさず右手を突っ込み、弾丸を発射する。

 それによって、ビットは大きく後ろに後退することになった。しかも攻撃が強かったのか、体がうまく動かせない。

「今だ!」

 イツキはバックルの前面を両手で押し、そして左側を押した。

『アルファ ファイターキック!』

 一度空中に跳躍し、そしてジェットエンジンと翼の力を使って、地上にいるビットに向けて超高速キックをかます。

 ビットに足が命中すると、周囲に衝撃波が発生する。そして大きな揺れと地響きが鳴り、そこそこのクレーターが出来上がった。

 そのクレーターから飛んで戻ってきたイツキ。地面に降り立つと同時に、クレーターの中心で爆発が発生した。

「ビット、撃破」

 イツキは爆発を見て、そう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る