第14話 新たな力
カイドウとの戦闘を終えた頃には、避難民の収容が終わっていた。
イツキは重い足取りのまま、インスタンスへと入る。
「惜しい所まではいったけど、残念だったわね」
入口でミネ博士が待っていた。
「……見てたんですか?」
「屋上からね。でも戦闘経験が少ない割には善戦していたように見えるけど?」
「それでは駄目なんです。戦闘経験がない人間とある人間では、どうしても後者が強いはず。自分は、そこを乗り越えないといけないんです」
「一理あるわね。そこで提案があるわ」
「提案ですか……?」
「製造室に来てちょうだい」
ミネ博士に連れられて、製造室へと足を運ぶ。
多種多様で何に使うかも分からない機械が大量に並んでいる。それらの中心にある机に、見たことのある形のアイテムがあった。
「これは、あなたのバックルとデバイスの情報と、インスタンスに残っていたサーバーからの情報を基に新規製造した、パワード・デバイスよ」
「パワード・デバイス……」
「アルファ・デバイス以外のデバイスは、いわゆるカスタムするためのものだったわ。それを使ってもパワーアップは出来るけど、すぐに限界が来てしまう。そこで、カスタム・デバイスとは別に、大幅なパワーアップを目指せるものが、このパワード・デバイスになるわ」
「なるほど……」
「これは完全にあなた専用だから、持って行って構わないわ。ぜひ役に立ててちょうだい」
「分かりました」
そういってイツキは3種類のデバイスを受け取った。
しかし、実際に使ってみないとその実力は分からないだろう。だが、残念ながらその性能を確かめている暇はない。
イツキはすぐに、インスタンス周辺の警戒任務に駆り出される。とは言っても、インスタンスの当直室に居て、実際に哨戒している班からの応援要請を受けて出動するといった感じだ。いつ出動するか分からない状態で、新しいデバイスを試している時間はないだろう。
そんな日々を過ごしていれば、また本拠地移転に関する護衛任務が発生する。当然、イツキは強制参加だ。
2回目となる今回も、往路は問題なく本拠地へと到着する。
今回の護衛対象は、研究技術班の大切な機材だ。そのほとんどは一人か二人で運べるような大きさの物だが、残念なことに数点ほどは大人数で運ばないといけないものがある。
よって、機材の移動は2回に分けて搬出することになった。
「前回も戻る時に襲撃を受けたからなぁ」
「今回は大丈夫かな?」
「どうだろう。敵さんは俺たちの都合なんて聞いちゃくれないからな」
運搬担当の戦闘員がそんなことを話している。敵からの攻撃を受け止めるのはイツキの仕事だ。イツキは気合を入れ直す。
そしてインスタンスへの移動が始まった。
さすがに大きな荷物だけあって、移動にはかなり多くの時間を費やす。早朝に出たはずなのに、すでに昼くらいであろう。
「ここでいったん休憩しよう」
そういって隊列が止まる。
「今はどの辺だ?」
「だいたい半分っていった所だろうな。この調子なら夕方くらいには到着できるな」
イツキも少しだけ休憩しようと、水の入った水筒を開けた。
その時である。どこからともなく岩のようなものが飛んできたのである。
その岩は、隊列の後方にいた戦闘員を数名巻き込んで地面に着弾する。
「敵襲ー!」
戦闘員の一人が叫ぶ。混乱が隊列全体に広がる。運搬担当の戦闘員はすぐに機材を持ってインスタンスのほうへと急ぐ。
するとそこに、怪人が現れた。
『脆い。脆すぎる。人間とはこんなにも脆いのか』
そういって出てきたのは、全身岩のようなゴツゴツとした装甲を持つ怪人であった。
イツキは怪人の前に現れる。
「お前は誰だ!」
『己はクロージャ。貴様の攻撃は効かないだろう』
そんなことをイツキに宣言する。
しかしイツキはそんなことを無視して、デバイスを取り出す。
『アルファ!』
『ドリル!』
『スキャニング!』
『セカンド・スキャニング!』
「変身!」
『アプルーブ!』
『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』
ドリルフォームに変身したイツキは、そのままクロージャに向けて突撃する。
何度かクロージャにドリルを突き刺すものの、その全てが弾かれた。
『クク……、そんな攻撃では己の装甲なんぞ貫通せんだろう』
「くぅ……」
イツキは一度後ろに下がり、どのように戦うか考える。
「ドリルでは貫通しない。ならギガントで踏みつぶすのもアリだが、効くかどうか分からない……。そうなれば……」
イツキの答えは決まった。
そしてそのデバイスを取り出す。
『パイルバンカー!』
『セカンド・スキャニング!』
『アプルーブ!』
こうしてパイルバンカーフォームへと変身した。
杭を装填しつつ、イツキは再びクロージャに突撃する。
『ふん、何度も無駄なことを』
そういってクロージャは体を丸めて、さらに防御体勢を取る。
そこにイツキの全力疾走と射出速度が合わさった強力な杭の攻撃が突き刺さる。
杭がクロージャの装甲にぶつかった瞬間、甲高い音と共にクロージャの装甲がはじけ飛んだ。
『うぎゃあああ!』
思わずクロージャは叫び声を上げる。
杭が命中した所は、文字通り穴が開いていた。
『クソ……、クソ! よくも己の装甲を貫いてくれたなっ!』
するとクロージャは、これまでとは打って変わって素早く動き出す。ほんのわずかな時間でイツキの目前まで突進する。
イツキはクロージャのことを受け止めようとするものの、もともと重量が大きいクロージャの突進を受け止めるのは難しかった。
「ぐあっ!」
イツキは思わず吹き飛ばされる。
『ふははは! これが己の力だ!』
そういってクロージャは高笑いする。
イツキは地面に伏せてしまった。
「うぅ、何か手段はあるのか……!」
その時、あるものが脳裏をよぎる。ミネ博士から貰ったパワード・デバイスである。
「ぶっつけ本番だけど……!」
立ち上がったイツキは、三つのうちの一つを取り出してデバイスのボタンを押した。
『ロケット!』
ロケット・デバイスを左側に装填する。
『サード・スキャニング!』
そしてバックルの前面を押す。
『アプルーブ!』
すると、左腕の装甲が変化し、何か筒状の物が形成される。それは最終的に、ロケットの形へと変化した
パイルバンカーフォーム・パワードロケットだ。
「俺はお前を、書き換える!」
『何を……! 砕け散れ!』
そういってクロージャは、再び突進攻撃を仕掛ける。
この攻撃もイツキは避けなかった。どっしりと構えると、そのまま体全体で受け止める。
すると、先ほどは簡単に吹き飛んでいたが、今回は全く動く気配がなかった。
『なんだと……!』
イツキは受け止めた姿勢のままで、左腕を後ろに引き、そして先ほどパイルバンカーで穴を開けた場所に左手とロケットを勢いよくぶち込んだ。
『うぐぅ……!』
「そのまま宇宙の藻屑となれ!」
次の瞬間、ロケットのノズルから勢いよくガスが噴き出される。その推力は、クロージャの体を軽々と持ち上げるほどであった。
『うぉぉぉ……!』
そしてそのままクロージャは、空に浮かぶ分厚い雲の中へと消えていった。
「……っはぁー……」
イツキは変身を解除して、深く息をつく。
「なんとかなった……」
擦り傷などはあるが、大した怪我ではない。
イツキは退避した隊列を追いつくために小走りで走っていく。
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