第13話 再戦

 ジョーにみっちりシゴかれた翌日。護衛隊の最初の仕事が始まった。

 まずはレジスタンスに保護されている避難民の誘導から行われる。避難民には親子や孤児が多く、歩かせるには正直言って無理と呼べる程の人が多い。

 しかし、車やトラックといった便利アイテムなど存在せず、とにかく今は避難民自身の足でなんとかしてもらうしかない。

 そんな中でも、本拠地に残っていた戦闘員が護衛隊に回ってくれた。ジョーも自前の銃を持って参戦している。

「足元気を付けてくださーい」

「大丈夫ですよ、ゆっくり進んでください」

「頭が痛くなってきた? 治療班が来るまで我慢できますか?」

 基本的には避難民のフォローアップが中心だが、それでも避難民が動けなくなったときは戦闘員が担いで移動させることもある。それが滅茶苦茶大変だ。

「何か、手伝えることがあればなぁ……」

 バックルを装着したイツキが、そんなことを呟く。しかし、何か出来たとしても、足手まといになりかねない。

 今は怪人が出現した時の対応を優先するべきだろう。

 しばらく歩いていると、中間地点のすぐそばまでやってきた。ここまで来れば、インスタンスまでもう少しである。

「あとちょっとでインスタンスに到着する……」

 ボソッと呟いたイツキの元に、ジョーがやってくる。

「確かにもう少しだが、今の状況が一番危ない。こういう状況で敵は一斉に攻勢を駆けてくるだろう」

 そういって周囲を警戒する。それを言われて、イツキも周囲を警戒する。

 しかし何も変わっている所はない。平穏そのものだろう。イツキは気のせいだと思ってその場を後にする。

 そして避難民がインスタンスへと到着し始めた時である。

 突如として護衛隊の殿辺りで爆発が起きる。

「な、なんだ!?」

 イツキは爆発のした方へ走り出す。

 煙が晴れると、そこにはスクリプトが立っていた。

「カイドウ……!」

「また会ったな、イツキ。今回も敵同士だな」

 そんなことを言いながら、負傷して地面に転がったレジスタンスの戦闘員のことを軽く蹴とばす。

「カイドウ、お前人の心とかないのか……? こんなに大変な目に合っている人がいるのに、敵で居続けられるのか!?」

「確かに気の毒ではあるが、それも命令なんでな。俺の優先すべき事と『オール・ワン』の連中のやりたいことが見事に一致した結果だ」

「それでも人間か!?」

「あぁ、人間だ」

 イツキは悟った。この人とは相容れないと。

 それを理解したイツキは、問答無用でアルファ・デバイスとドリル・デバイスを取り出す。

『アルファ!』

『ドリル!』

『スキャニング!』

『セカンド・スキャニング!』

「変身!」

『アプルーブ!』

『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』

 右手にドリルを装着した形態になる。

「ほう、拡張機能か。この間の戦いよりかは楽しめそうだ」

 そういってカイドウは構える。

 イツキはドリルを回転させて、カイドウに向かって走り出す。そのまま格闘戦が始まった。

 回転しているだけでもなかなか脅威であるドリルを、カイドウに向けて振り回すイツキ。

 しかし、カイドウはその攻撃を手を使わずに簡単に避けていく。

 カイドウの動きを止めるためには、左手でカイドウの体を掴んで固定する必要があるだろう。しかし、この激しい動きの中で、それを実行に移すのは難しい。

 となれば、やることは限られてくる。とにかく押して押して押しまくることだ。

「うぉぉぉ!」

 体の動きを最大限に活かして、連続攻撃を仕掛ける。

 それが功を奏したのか、だんだんとカイドウに攻撃が入るようになった。

 カイドウのパンチを躱し、そのままドリルをスクリプトの鳩尾に突き立てる。その反動で、カイドウは後ろに数歩下がった。

「なかなかやるようになったな。だが、それだけで俺を倒すのは無理だ」

 そういって今度はカイドウのほうから攻撃を仕掛けてくる。

 蹴りを交えた多彩な攻撃だ。イツキは、正直ドリルでガードするのが精一杯だろう。

「どうした? 反撃しないのか?」

「っせ……!」

 イツキはドリルを回転させて一度距離を取ると、デバイスを入れ替える。

『パイルバンカー!』

『セカンド・スキャニング!』

『アプルーブ!』

 ドリルフォームからパイルバンカーフォームへと変身する。このフォームの方が、一撃の攻撃が高いのだ。

「はぁ!」

 杭を装填し、カイドウに向けて走り出すイツキ。もちろんカイドウもただ待っているわけではない。何か構えているようだ。

「だぁ!」

 拳を前に突き出すと同時に、イツキは手元のボタンを押す。それによってパイルバンカーが射出された。

 一方、カイドウは射出されたパイルバンカーに合わせるように、下からアッパーをかます。

 スクリプトの拳がちょうど杭の下に命中し、軌道が若干ズレる。カイドウは身をよじったこともあり、右肩の上を杭がギリギリ通っていった。

「な……!」

 イツキが驚いていると、次の瞬間カイドウの右ストレートがイツキの顔面に命中する。

 イツキはそのまま吹っ飛ばされてしまう。

「いっつ……」

「まぁ、前よりかは強くなっている感じはするが、そこまでだな」

 その時、スクリプトの体から火花が飛び散る。どうやらインスタンスに避難民の収容を終えたレジスタンスの戦闘員が、加勢に来たようだ。戦闘員は銃撃でスクリプトのことを狙うも、銃撃程度で装甲を破ることは出来ない。

「今日はここまでだな。また相手してやるよ、イツキ」

 そういってカイドウはそのまま踵を返したのだった。

「クソ……、また負けた……」

 イツキは変身を解除する。ところどころ擦り傷があるが、それに構っている暇はない。

「カイドウを攻略出来なければ、『オール・ワン』にはたどり着けない……」

 イツキは、もっと強くなることを願った。

 一方、カイドウはとある場所に来ていた。

『よく戻ったな、スクリプト』

 ベールのようなもので覆われた祭壇に四つの影。その前にカイドウが立つ。

「あんたら四天王なんてヤツが俺に依頼しているのも、だんだんと慣れてきちまったな」

『そんな話はどうでもいい。レジスタンスとやらはどうだ?』

「以前あんたらの部下が根城にしていた建物を占拠したようだ。まだデータや設備が残っているらしいじゃねぇか」

『そんなもの、奴らにくれてやってもいい』

『我々が一番知りたいのは、ヘリクゼン・アルファの動向だ』

『ヤツが完全に覚醒する前に葬り去れそうか?』

「そうだな。確かに順調に力をつけてきている。だがそこで止まっている。なんだかんだ言って、レジスタンス側もヘリクゼンを理解している人間は少ないようだ」

『なら問題はない。その様子なら、ヘリクゼン・アルファの覚醒もまだ先のことだろう』

『よろしい。下がって良いぞ、スクリプト』

 そう言われてカイドウは、そのまま振り返って影たちの前から去るのだった。

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