第12話 復帰

 数日後。ミネ博士に呼ばれて、イツキは建物の屋上に来ていた。

「それで、話ってなんですか?」

「うすうす分かっていたと思うけど、これからレジスタンスの本拠地を以前の場所からこちらに移動させます」

「あぁ、なるほど」

 イツキは理解した。

「人や機材の移動の護衛をしてくれって事ですか?」

「その通りよ。それに加えて、移動の際に十中八九出てくるであろう怪人を排除します」

「そんなの無茶です。ただでさえ人員が不足しているんですよ?」

 現在のレジスタンスは人員の不足が懸念されている。当然、拠点とこの建物を移動するには護衛が必要だ。最大戦力であるイツキは当然駆り出されるとして、その他の人間が護衛に回るというのは、今のレジスタンスでは負担が大きい話である。

「もちろん、そんなことは承知の上です。しかし、この建物を最大限に活かすためには、非常に重要な事項であると考えています」

 そういって屋上を後にするミネ博士。階段の前の扉を開けながら、思い出したことを話す。

「そういえば、この建物の名称が決まったわ。重要ではないかもしれないけどね。名前はインスタンスよ」

 そういってミネ博士は階段を降りていく。

 イツキは屋上の手すりに手をついて、深く溜息をつく。

「面倒なことになったなぁ……。ミネ博士のことだから、すぐにでも実行に移すだろうし……」

 そこそこレジスタンスに身を置いているイツキ。だんだんとミネ博士の行動が分かってくるようになってきた。いや、なってきてしまったと言うべきか。

 とにかく、今は言われたことをやるしかないのだろう。

 その数日後、正式にミネ博士から通達が入る。

「レジスタンス本拠地の機能を、インスタンスに移行します。そのために、人員、機材、避難民などの移動及び護衛を実施します」

 こうしてレジスタンスの戦闘員の約半分が、移動に関する護衛に回されることになった。当然、この中にイツキも含まれている。

 メンバーはインスタンス内に張られた紙を見ながら、ワイワイと話していた。

「なんだかいよいよ組織の改編じみてきたな」

「これが成功すれば、『オール・ワン』の撲滅に一歩近づくはずだ」

「俺たちならやれる!」

 なかなかに士気が高い。イツキは一歩引いて見ながら、少しばかり胃がもたれる感覚を覚えた。

 そして実行の日、イツキたちはインスタンスを出発する。すでに周辺の安全は確保している状態だから、今は自身の身の安全を確保するだけで問題はない。

 しかし、これが避難民や機材の護衛となると話が変わってくる。どこからやってくるかも分からない敵に対して四六時中警戒するというのは、非常に骨が折れることなのだ。

「よしお前ら! 気張って行くぞぉ」

「応!」

「士気が高いなぁ……」

 テンションの差で風邪を引きそうな気分であるが、イツキはこの護衛作戦全てに参加しないといけない。それだけレジスタンスがイツキに期待をしている証でもあるのだろう。

 こうして半日の時間を使って、インスタンスから本拠地へと移動する。本拠地ではすでに情報が伝えられており、移動のための準備が着々と進んでいた。

 護衛隊はすぐには動けないため、一晩ここで過ごす事になっている。イツキも休憩するため、いつも使っていた部屋に移動する。

「はぁ……」

 適当に床に寝転ぶと、天井を見つめる。

「なんだかんだでこんなことしてるなぁ……」

 誰かを守るために、己を犠牲にする。そんなことを理解したのはつい先日のことであったが、実際その通りに事が進んでいる。

 しかし、一抹の不安がぬぐい切れていない。

「本当に自己犠牲が俺のしたかったことなのか……?」

 あの時の感情をそのまま表現したため、このような言い方になった。逆に言えば、一時の感情でそのような思考になっているのではないかと不安になるのだ。

 そんな時だった。

「おう、イツキ!」

「うわぁ! ……ジョーさん、何の用ですか?」

 イツキの部屋に、突如としてジョーがやってきたのである。

「いや何、イツキが久しぶりにこっちに戻ってきたって聞いてな。久々に特訓でもしようと思ってな」

「別に、実戦で戦ってるから問題ないでしょうよ」

「いや、そうでもないぞ。実戦をして、かつ実戦に則した訓練を行うことで、練度は格段に上がっていく。逆に実戦ばかりしていると、練度は次第に落ちていくというわけだ」

「はぁ、そうですか」

「だから外に出て訓練するぞ。今日は暇だろ」

「今からですか? ちょっと疲れてるので……」

「そんなこと言わずに行くぞ!」

 そういってジョーは無理やりイツキを外に連れ出すのだった。

──

「自分の存在意義?」

「自分がレジスタンスにいるのは、自己犠牲を達成出来るからだと思っていたんですが、それもちょっと違うような気がして……」

 運動場を大回りでランニングするイツキと、どこから引っ張り出してきたのか分からない自転車に乗って並走するジョー。そんなジョーはイツキの悩みを聞いたのだ。

「確かに自己犠牲というのは、古来から尊いものであると言われてきている。己の身を差し出して弱きを助けるというのは、いつの時代も語り草として残るものだ」

「自分もそんな感じなのかなって思うんですけど、なんか微妙にしっくりこないような、そんな気がして……」

「まぁ、自分が英雄気取りになって勘違いするのも結構あるからなぁ。そこをはき違えると面倒な人間になりかねない。イツキはまだ謙虚なほうだな」

「そうなんですかねぇ……」

 そういってランニングは続く。

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